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王女ウィステリアはタヌキを愛す  作者: 瀬嵐しるん


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4/5

王女ウィステリアは夜会で踊る 前編

とうとう夜会デビューの15歳になりました。

ウィステリアでございます。


今夜は、わたくしのお披露目の夜会ですの。

朝から準備に気合が入ります。


「ウィステリア様、気合は結構ですが、お顔の力を抜いてくださいませ。」


早速、侍女から注意されてしまいました。

準備をしてくださるのは、侍女やメイドの皆さんですものね。


今日は、無二の親友、マチルド教授もお呼びしていますわ。



あれから、マチルド教授は新種のタヌキを発見されました。

残念ながら個体数が少なく、研究と保護にお金がかかるということで、わたくし協力することにいたしましたの。


基金を集めるために、タヌキのぬいぐるみを売ることにしたのです。


たかがぬいぐるみ、されどぬいぐるみ、でございます。

マチルド教授とわたくしの二人がそろえば、大きさ、手触り、可愛さの再現度などなど、こだわりにこだわり抜くのは当然の流れです!

おかげさまで、たくさん買っていただけました。

ほら、やっぱり皆さん、タヌキがお好きなのです。


「商品名が、王女殿下のチャリティタヌキ、ってあざといだろ。」

などと、チャリティパーティーの席でミシェルお兄様が呟いていました。

隣にいらしたヴィクトルお兄様が

「陛下の肝いりだ、この件には口を出すな!」

と、怖い顔をしておられました。

わたくし、相変わらずお父様に溺愛されております。


わたくしがお二人に向かって微笑みますと、お二人も笑顔を返してくださいました。

どこか引きつった笑みでしたが、たぶん気のせいですわね。

お二人とも、懸命にぬいぐるみを売ってくださいました。

おかげで、その日用意した分は完売でした。



夜会の刻限になりましたわ。


ふう。緊張しますわね。

こんなに緊張するのは、5歳のお披露目以来かしら。

シモン様の前で緊張するのは、別カウントですわ。

毎回毎回なのですもの。


わたくしの名がアナウンスされ、扉が開かれました。

初めての夜会会場は、とても煌びやかで、自分がかすんでしまわないか心配なくらいです。

でも、今日はわたくしが主役。負けないように胸を張ります。


ずらりと並んだ貴族の方々。

みなさん、わたくしの一挙手一投足をじっと見ておられます。


シモン様のお姿も見えます。


あの時よりも、王座に近い場所ですわ。

宰相様に重用されている彼は、功績を挙げて伯爵位を受けておられます。

優しい笑顔でわたくしを見てくださっています。

さらに気合が入りますわ。

あら、いけません。顔の力を抜くのでしたわね。


壇上では、お父様とお母様が涙ぐんでおられます。

わたくしは淑女の礼をとり、これまでお世話になったお礼を述べ、今後、王族として国に貢献していくことを誓いました。

満場の拍手を受けまして、舞踏会に移ります。


ファーストダンスは、ヴィクトルお兄様が相手をしてくださいました。

お兄様の巧みなリードで踊りきると、再び拍手をいただき、続けて皆さまもフロアに出て来られます。


王座近くに設けられた席に戻り、外国の大使方の挨拶を受けます。

ご挨拶だけですが各国の言葉で述べますと、皆さま、表情を緩めてくださいました。


マチルド教授も旦那様と一緒に、挨拶に来てくださいました。

旦那様は件の新種タヌキが発見された場所を領地とする、辺境伯様です。

タヌキの保護の相談に行ったことが、ご縁につながったのだとか。

福ダヌキですわね。

仲睦まじいご様子で羨ましいですわ。



ご挨拶が一段落したところで、シモン様がいらっしゃいました。

「おめでとうございます。今日は一段とお綺麗です。」

「ありがとうございます。」

お顔を拝見したら、胸が一杯になってしまいましたが、今日はどうしてもお願いしたいことがありました。

「あの…」

「はい、なんでしょう?」

「…一曲、踊っていただけますか?」

「私でよろしければ、喜んで。」


本来、ダンスは男性から申し込むものですが、今日はわたくしが主役です。

今日は、今日だけは、わたくしの我が儘を許していただきたいのです。


ちらりとフロアを確認されたシモン様が、おや、と動きを止めました。

「今から、フェルディナン殿下が婚約者の方と踊られますよ。

それを拝見してから踊りませんか?」

「まあ、素敵! それがいいですわね。」


少しテンポの速い曲でした。

婚約者のリール様はスリムなシルエットのドレスをお召しでした。

フェルディナンお兄様がリフトするたびに、ふわりと広がるレースの美しさに見惚れてしまいました。


「ああ、素晴らしいわ。

なんだか、気後れしてしまいますわ。」

「私もです。」

エスコートしてくださるシモン様と笑いあい、少し緊張がほぐれます。


次の曲は、ゆったりしたテンポでした。

大人っぽい曲、いいえ、わたくし、もう大人ですわ。

「顔に力が入ってますよ。」

顔が赤くなったのは、指摘されて恥ずかしかったのか、それとも、耳元で聞こえたシモン様の声のせいか…。


ダンスを終えて、わたくしを元の席に送ろうとしたシモン様に

「テラスに出てみたいんですの。」とお願いしました。

「ご気分がすぐれないとか?」

「いいえ、大人はダンスの後テラスに出るのでしょう?

小説に、そんなシーンがよくありますわ。」

「お供しましょう、王女様。」

少しおどけて、シモン様がおっしゃいました。


わたくしには、目的がありました。

シモン様は、大人の男性。

国王であるお父様や、宰相様、お兄様たちからの評価も高く、注目も集まっているはずです。

まだ独身ですが、いつご結婚されてもおかしくないのです。


きっと、わたくしがこんなことを言えるチャンスは最初で最後。


テラスにはちょうど、どなたもいらっしゃいませんでした。

手すりに近寄って庭を眺めれば、ライトアップされた噴水の水がキラキラ光っていました。


黙りこくってしまったわたくしに

「ウィステリア様?」とシモン様が声をかけてくださいます。

シモン様はお忙しい方、お時間を取らせてはいけませんわね。


「夜会に出られるようになったのですから、わたくしも、婚約のことを考えないといけないのでしょうね。」

「…そう、ですね。」

「王女ですから、好きな方と結婚できるとは限らないですわね。」


「…お好きな方が、いらっしゃるのですか?」

「ええ」

「…もし、ウィステリア様がお望みなら、私がなんとかしてさしあげますよ。」

「ほんとうですか?」

「これでも、宰相の懐刀と言われております。」

シモン様は、道化師みたいなお辞儀をなさいました。







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