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王女ウィステリアは芽生える

皆さま、初めまして。

わたくしはウィステリアと申します。

さる王国の第一王女として生を受けまして、5歳の誕生日を迎えるまでは、王妃であるお母様の宮にて大切に育てていただきました。


それなりの歴史を誇りますわが王国は、ご多聞に漏れず美形の遺伝子が濃く、国王陛下であられるお父様も美形、お母様も美形、3人の兄王子も美形。さらには万一陛下のお手付きとなるやもしれない王妃宮では侍女から下女にいたるまで皆美形。

しかして、美形の過剰供給状態で育ったわたくしの審美眼は、どうなったと思われますか?

5歳にして、いかなる美形にも心乱されない悟りの境地に達したのでございます。

わたくしの世話係の侍女は「王女様にかかれば、どんな美形もジャガイモですわね。」と言うのですが、わたくしは生のジャガイモを見たことがございません。

そう、わたくしにとってジャガイモは、美形よりもレアなのでございます。


話がそれました。


王女は5歳になりますと、王族としてお披露目されます。

お城の中に自分の宮を頂いて、新しい一歩を踏み出すのです。


最初に行うのは、王座におわします国王ご夫妻へのご挨拶です。

もちろん、初めてのことなので、両親であるお二人は根気よく練習に付き合ってくださいました。

そのおかげで、手順や振る舞いに不安はないのですが、なにぶん本番には観客が大勢います。

主だった大臣、文官、騎士様など、中には明け透けに値踏みの視線をよこす方々も。

そんな中、挨拶を終えたものの周りの雰囲気にすっかりのまれて、わたくしはしばし動けなくなってしまったのでございます。


そんな時でした。

何かが視界の端で動いたような気がしました。思わず、少しだけ顔を上げてそちらを見ると、人波の中に、そこだけ柔らかな空気が流れている場所がありました。

そこには文官の男性がいて、その方はわたくしに向かって励ますようにニッコリと微笑み、小さく頷いてくださったのです。

気を取り直したわたくしは、手順通りに、もう一度深く礼をして、練習通りの位置に戻ったのでございます。


「お疲れ様、ウィステリア。」

第三王子のミシェルお兄様が労ってくださいました。

「ちゃんと出来ましたでしょうか?」

「最初にしては上出来だよ。大丈夫。」

「ありがとうございます。あの…わたくしを助けてくださった方はどなたでしょう?」

「助けた?」

ミシェルお兄様は何も気づかなかったようで、怪訝顔です。

「宰相のところで文官をしてる、シモンだ。」

ミシェルお兄様の隣の隣にいた、第一王子のヴィクトルお兄様が教えてくださいました。


「シモン様。」

お名前を口にすると、なんだかとても心が温かくなったのでした。



お母様の宮から出たわたくしは、お兄様たちのお茶会に参加させていただけるようになりました。

兄弟だけの集まりは、くだけた態度も許される、ホッとする時間です。


そこでシモン様のことをお尋ねすると、学園で彼と同級生だったヴィクトルお兄様が教えてくださいました。


シモン様は伯爵家のご次男。16歳で王立学園を卒業後、伯爵家がお持ちだった子爵位を受けておられます。

約二年間、宰相様の下で働かれ、たいへん頼りにされているようです。

「あいつ、ずるいんだよなー。」

「ずるいのですか?」

「ほら、なんというか貴族なのに平民から見ても、受け入れやすい容貌というか。警戒されにくいんだ。」

「優しいお顔立ちですものね。」

わたくしに笑いかけてくださった、あのお顔を思い出すと、またほっこりと温かくなってしまいます。

「だから、市井の調査だったら、俺はまったく敵わない。」

シモン様と同じく宰相様の下で研修されたヴィクトルお兄様。

学園でも優秀な成績を収めてきたお兄様が、素直に負けを認めるとは。


出来る御方なのですね、シモン様。

わたくしも負けませんわよ!



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