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どこまでプライベート

 ピンポンが鳴って、扉を開けると、スーツを着た女性が立っていた。

 話した事は無いが、顔は覚えがある。彼方の保護者、未成年後見人、と言ったか。弁護士の菅崎かんざきさんだ。

「え、と……」

「彼方ちゃんから連絡がありまして、相談があると……聞いていませんか?」

「あっ、菅崎さん、こっちこっち~」

 廊下の奥からひょっこりと顔を出し、笑顔でちょいちょいと手招きする彼方。聞いていないとはいえ、確かにこちらが呼んだのであれば追い返す訳にはいかない。どうぞ、とスリッパを差し出し、リビングへ案内する。

「んっとねぇ、コト、ちょーっと、席外しててくれないかな」

 三人分のお茶を出した時、彼方にバツが悪そうな表情でそう言われた。仕方なく、自分のコップを持って二階へ移動する。


 何の話をしているのだろう。その気になれば盗み聞きも出来るのだが、それはちょっと、人間として駄目な行為だと思う。いや、言いようによっては、恋人なのに隠し事をする方が悪い、という考えもあるのだろうが。


 わたし達の間に、一切の隠し事がない訳ではない。彼方と出会う以前の事は、互いに聞かれた時にしか答えないし。出会ってからも、傍にいない時……『天仕』としての彼女の事は、ほとんど知らない。教えて貰っても、多分モヤモヤが溜まるだけなので、聞く気もない。

 相手の全てを知りたいと思う気持ちと、自分の知らない相手の顔が出てくる事への不安が、何時もせめぎ合う。

 恋人という、他人以上の他人に、どこまで踏み込むべきか。時々ふと感じて、思い悩む事がある。

 お互いのプライベートを、どこまで守るべきか。きっと正解は「お互いに丁度良いと思うころまで」だろうけれど、それが簡単に出来れば苦労はしない。丁度いいを少しでも超えたら、嫌われてしまうかもしれないのだから。


 しばらく二階の元自室でスマホをいじっていたが、同じ家に居ると思うとどうにも悪い考えが浮かんでしまう。

 外に出ようと決めて、外出を伝えるにも部屋に行って話が聞こえてしまうといけないと気付き、少し悩んでスマホのメッセージを送信して、音を立てない様に階段を下りた。


『お腹空いた~、帰ってきて~』

 気の抜ける様なメッセージが届いたのは、夕焼け色の雲が漂う時間だった。

 夕食のリクエストであるステーキの、消化の良い物に変更した材料を買って、家に帰る。玄関に菅崎さんの靴はなかった。

 聞いても、良いのだろうか。

「こんなに遅くまで、何の話してたの?」

 何の気なしに、世間話みたいに。今日一日ずっと引っかかっていた質問を、投げかける。

「ん~っとねぇ、法律の話で聞きたい事があって」

 彼方の返事は、そこで止まった。それ以上は話す気は無い様だった。

 そうか。わたしには話せない事か。どこかがチクリと痛んだ気がしたが、今はまず夕飯の支度だ。

 台所に材料を並べるわたしの背中に、彼方が飛びついてきた。

「ごめんね~コト~、今日は寂しい思いさせちゃったねぇ~。いっぱいよしよししなきゃね~。外で何してきたのぉ? じっくり聞かせておくれ~」

 バランスを崩している彼女の全体重がわたしの足に掛かり、返事どころではないのだが。わたしは苦笑いしながら、彼方を椅子まで連れて行く。

 自分の事をあれこれ聞かれるのは、嫌いじゃない。

 時間を潰したカフェが存外に良かったとか、ハトがいっぱい歩いてたとか、夕焼けが綺麗だったとか、話している内に、どこかに刺さったトゲが消えていく様な気がして。


 アンフェアだけど、これがわたし達の「丁度いいくらい」なのかもしれない。

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