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人竜千季  作者: 秋谷イル
第三部(後編)

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八章・進化(3)

「そうとは限りませんよ。烈花の場合、勘の方が良く当たりますので」

 二人の会話に割り込み、頭を下げる斬花。

「ご苦労様です、皆さん」

「あいよ」

「これで良かったの?」

 友之と共に合流した小波も、DA一〇二を脱ぎつつ問いかける。

「ええ、十分でしょう」


 ──今回のデモンストレーションは朱璃と月華が共同で発案した。目的は京都の意識をしばし大阪から遠ざけること。


「この忙しい時に、わざわざ京都まで挨拶に来いとかぬかしてたッスからね」

「新兵器をお披露目することで彼等の興味を逸らし、時間を稼ぐ。このために持って来たのだとすれば、王太女殿下は慧眼です」

「あの子なら当然、その程度のことは考えてるだろうさ。ただ……」

 胸一杯に煙を吸い、若者達の方へ流れて行かないよう顔をそむけつつ吐き出した門司は、火のついたタバコを目の高さまで持ち上げて語る。

「元から南に売り込むつもりだったんだと思うよ。MWシリーズとアシストスーツの両方をさ」

「え?」

 意外な推測に術士の少女達は驚いた。

「せっかくの新兵器を、すぐさま敵国に与えるつもりだったと?」

「敵に塩を贈るってヤツ?」

「違う違う。うちの班長は敵には容赦しない性格だ。でも、当面は技術や情報を共有する必要があると思ってんだよ、多分ね」

「ドロシー、ッスか?」

「あ」

 友之の呟きで彼女達も気が付いた。

「共闘するつもりですか? 今回のように」

「そうしなきゃ勝てないってんなら、迷わないよ、あの子は」


 ──蒼黒との戦いが終われば、次はドロシー。当然そうなる。どれだけ猶予が残されているのか不明だが、だからこそ早期に決着をつけなければならない。

 それには戦力が必要だ。北日本だけではとても足りない。

 なら、南と手を組むしかない。


「班長から聞いた話じゃ、そもそもあんたらの、あのちっこいおっかさんから提案されたそうじゃないか」

「ええ、母様は以前から北と協力しなければならないと仰っていました。でも、だからといって新兵器をこちらに供与する必要は無いのでは?」

 南から持ちかけた要請なら、北はそれに乗っかるだけでいい。わざわざ敵国を強化する意図がやはりわからない。

 いや、違う。斬花は勘違いに気が付いた。

「共闘の話は、まだあくまで母様個人から持ちかけた段階……政府は全く関与していない。しかも彼等は──」

「判断が遅え」

 烈花も理解する。南日本の国会は、もはや単なる飾りだ。長年この国を守って来たのは自分達術士であり、その頂点に立つ月華。民の信頼もこちらへ向いている。

 けれど彼等にも、まだ権威は残っている。京都には当代の天皇陛下がいらして、議員はその威光を笠に着ているのだ。南日本には皇室に対する敬意を失ってない人々が数多おり、月華はそんな彼等と他の住民達の対立を避けるため、あえて国会の面子を保たせてやっている。その気になればいつでも陛下の身柄を確保し、こちらへ移すことが可能なのに。

 そんな実権の無い、というより、あっても何もしない連中の唯一の楽しみは国会を開催して議論を重ねることだそうだ。

 南日本の政治形態は今も民主主義を謳っている。しかして実態は封建制。そもそも選挙なんて一〇〇年以上行われていない。

 議員達は世襲で入れ替わり、大阪よりは安全な京都を占拠して貴族のように振る舞っている。塩害で米や麦を育てられなくなった大阪に代わり、地下都市京都内でそれらを栽培。その際に動員する人手も大阪から借り受けたもので、自分達は草の一本も刈らない。

 代わりに彼等は暇潰しを兼ね、会議を開く。日本国が以前のような繁栄を取り戻すにはどうしたらいいか。収穫した作物をどれだけ大阪に分配するかなどといった、さして意味の無い議論を交わし、わざと結論を先送りにして話を長引かせる。

 まったくもって馬鹿馬鹿しい生態なのだが、月華曰く、それでいいとのことだ。彼等のような役立たずも、この過酷な世界で人々が生きて行くには必要な存在なのだと。彼女は彼等を一種の娯楽として扱っているのかもしれない。

 以前そう聞いたことを話すと、門司は「なるほどね」と頷いた。

「北とは違うやり方だけど、そうやって住民の感情を調整してるのさ。わかりやすい悪役がいれば、そっちにヘイトが集まるだろ。かといって大阪で一番偉い人が勝手を容認してやってるんだから、暴動なんかを起こすこともできない」

 そもそも、住民も大半はそんな余裕など無いご時世だと理解してるだろう。国会を悪役に仕立てる理由は、むしろ人々の怒りを燃やすことで生きる気力を奮い立たせることなのかもしれない

「持ちつ持たれつじゃないかね。案外、議員さん達も自分の役割をちゃんと理解していて、道化を演じてるだけかもしれないよ」

「……」

 斬花と烈花は沈黙して、互いの顔を見つめた。今までそんな風に考えたことは無かった。事の真偽はともかく、自分達がいかに幼いのかは再認識させられてしまった。

「まあ、なんにせよ、班長は議員さん達を抱き込むために切り札を使ったと」

「多分ね」

 友之の言葉に頷く門司。議員達の悪癖が演技か否かはともかくとして、今は余計な時をかけていい状況ではない。だから共闘の話が持ち上がった今、彼等が決断を早めるための材料を一つ与えてやった。これは多分そういう話。

 ついでに今回の戦いが終わるまで、これ以上余計な茶々を入れて来ないようにもできる。少女達は別の意味でも納得した。

「流石は星海ですね」

「おっかねえ」

 北日本王国を統べる星海家は、初代王・旭のせいで武に長けた家柄だと思われがちだが、二代目の光理からは、むしろ知略により民を導いて来た一族だ。そうでもなければ初代王という絶対的戦力を失った後で二〇〇年以上王国を守り抜けたはずがない。

「ううん、自分にはちんぷんかんぷんな話です……」

 まったく話について来られなかった風花は、目を回してしまっている。苦笑した烈火が懐から何かを取り出し、そんな妹へ与えた。

「ほら、これでも食って元気出せ。お前は難しいことを考えなくていい」

「ありがとう、姉様」

 受け取ったのは煮干し。ゴリゴリ音を立てて齧る風花。頑丈な歯と顎だ。門司は医者として感心する。


 そこへ、朱璃とカトリーヌが戻って来た。


「おかえり班長」

「ただいま」

「マーカスは? 一緒じゃなかったかい?」

「友之の方のDA、こないだの戦闘でダメージを受けたでしょ。修理を手伝えそうな職人に渡りをつけてもらってるわ」

「こんくらいなら平気じゃないスか?」

 自分のアシストスーツを見下ろす友之。あの巨大ヤドカリにのしかかられた時、装甲の一部がひしゃげてしまった。今は外している兜にもダメージがある。しかし戦闘に支障が出るほどではない。

 ところが朱璃は呆れ顔で返す。

「あのね、少しでも万全な状態にできる機会があれば、しておくべきなの。ここはなんも無い地上とは違うんだから」

「それもそうッスね」

 納得した友之は、続けて小波が身に着けている同じスーツをじっと見つめた。視線に気付いた彼女は怪訝な顔で訊ねる。

「なに?」

「いや……」

 言葉を濁し、今度はカトリーヌと小波を交互に見る彼。

 そういうことか。朱璃はすぐに方針を定める。

(問題はタイミングね)

 カトリーヌは当面、手が離せない。今から教師となって自分に霊術を教えなければならないから。

 友之と小波を二人だけにするのも、このタイミングでは悪手だろう。

 なら、今はとりあえず仕事を与え、余計なことを忘れさせる。

「アンタ達、装備を護衛隊に預けて検査を受けて来なさい。霊術の適性があればアタシと一緒に習えるわよ」

「え? あたし達にも可能性があるんですか?」

 目を丸くした小波に、小魚を食べ終えた風花が回答する。

「霊力は誰にでもあります。ただ、霊術が使えるほど強い人は貴重なんです。才能がある人は女性の場合が多いので、小波さんと門司先生は有力候補ですよ!」

「そうなんだ」

「男って、そんなに少ないの?」

「ご覧の通りです」

 不服そうな顔の友之に問われ、今度は斬花が運動場を示す。さっきまでデモンストレーションを見学していた術士候補生達が訓練を再開していた。

 なるほど、明らかに女子の方が多い。数えたところ一二人が訓練中。そのうち一〇人が少女。男女比一対五。圧倒的に女性陣が優勢。

「くそう、なんか悔しいな。ウォールさん、俺らは駄目みたいッス」

「そうか」

 本日初の一言。実は大阪までの道中、一度もウォールの声を聴いたことが無かった少女達はギョッと目を見開く。

「喋った!?」

「こ、こら風花」

「巌倉さん、喋れたんスね……」

「……」

 巨漢は照れ臭そうに頬を掻いた。特に烈花に見つめられるとくすぐったい。一番上の娘に似ている。

 そんな彼等の意識を引き戻すべく手を打つ朱璃。パンと音が鳴り響く。

「はい、無駄話はおしまい。時間が無いのよ、ちゃっちゃと進めましょ」

「押忍!」

「了解です」

「それでは私達が案内します。こちらへ」

 友之、小波、ウォールを先導して校舎へ歩いて行く斬花。烈花と風花も後に続く。何故か残った門司は新しいタバコを取り出しつつ、うんうんと頷いた。

「あたしは班長が怪我した時に備えて、一緒にいるよ」

「いらないから、さっさと行きなさい!」

 彼女の尻を引っ叩き、走らせる朱璃。門司は「年上を労われ!」と憤慨しながら駆けて行く。

 カトリーヌはぷっと吹き出した。

「あによ?」

「いや、らしくなってきたなと思っただけだ。昨日から思いつめたような雰囲気に見えていたが、気のせいだったか?」

「気のせいよ」

「そうか」

 そういうことにしたいなら、あえて問い質すまい。

 ただ──

「何かあるなら遠慮無く話せよ。私は一応、貴重な友人だぞ?」

「……そうね」

 朱璃も頷き、そして答えた。

「後で話すわ。今はまず、やるべきことをやるわよ」

「了解だ」

 表情を引き締めた二人は、また肩を並べて歩いて行った。

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