騎士団長①
カルナが居なくなった後、騎士団長のアルバートは彼女が出て行った扉を呆然と見つめる。
辞めろと言って本当に辞めるとは思わなかった。
何時も澄まし顔をしていたカルナが最後に見せた笑顔。それを思い出したアルバートが吠える。
「あのクソトカゲ女がぁっ!! 俺様に歯向かうなどっ!! ふざけるなよぉおお」
怒りの矛先を向ける相手がいなくなり、二度三度机を強く叩いたアルバート。
机の上に数本置かれていた酒瓶を乱暴に一つ取ると、中身をあおる。
ふーふーと鼻息荒く、カルナが置いていった剣を睨む。
「あの恩知らずめ……俺様が態々気にかけてやっていたのにっ!!」
亜人のくせに人間を守りたいと言うから鍛えてやった。
強くなりたいと言ったから最前線に送ってやった。
増長するといけないからカルナが立てた武功を代わりに受け取った。
王国騎士団初めての亜人の騎士という事で、騎士団全員で奴を世話してやった。
それなのに。それなのに!
「最近は少しは使えるようになったと思ったのによぉ……くそがっ!!」
自分の足元には到底及ばないが、それでもカルナの実力は目を見張るものがある。
魔王軍を相手に傷だらけになりながらも勝利したのがその証拠だ。
「いや、待てよ……カルナごときでも勝てるという事は、魔王軍はクソ雑魚の集まりという事か」
軍を相手に一人で戦って生き残るなど、カルナが強いのではなく相手が雑魚中の雑魚である証だ。
それならば納得がいく。いや、それしかない。
「なら、俺にも出来るな。騎士団長であるこの俺様にもなっ!!」
アルバートはカルナの剣に唾を吐きかける。
カルナが、城塞都市シスタ・ソレイユで「片翼の英雄」と民たちから敬われているのは知っている。
その仕立て人は、あの忌々しい冒険者ギルドのギルドマスターだろう。騎士を辞めた後も、忌々しい野郎だ。
奴のせいで、騎士団長であるアルバートを差し置いて、ただの騎士であるカルナが英雄と称えられている。例え過大評価であったとしても、彼のプライドを大きく傷つけた。
だから、王都では民たちに本当のことを言った。
カルナは、血に狂った汚らわしい亜人であると。そのお陰で王都の民たちは騙されずにすんだが、それでもアルバートの気は収まらない。彼女に対して、罰として徹底的に教育をした。
「っは、次に魔王軍が攻めてくる時が、俺様の栄光ある第一歩の幕開けだなっ!!!」
カルナに出来るのならば、騎士団長である自分にも出来て当たり前だ。何故、今までそのことに気付かなかったのだろう。
そうと決まれば早速戦の準備だ。英雄に相応しい武具を身に着け、王国を勝利へと導く。
誰もがアルバートを英雄と褒め称えるだろう。
金。地位。名誉。そして美しい女。英雄になったら全て彼の思うがままに出来る。
(そう思えば、カルナには勿体ないことをした。竜人ではあるが、奴もかなりの美人だったな……)
竜人、それも片翼を失っているがカルラは美しい。時々口答えする愚かな女だが、命令通り動く従順さも持ち合わせている。
「俺様が英雄になったら傍においてやるか。嫌がったら奴隷でもいいな……ッフ、ハハハハハハ!!!」
何時も何時も澄ました顔のカルナが、英雄であるアルバートに心酔して劣情の眼差しを向ける。もしくは自分の元を離れ、後悔したカルナが泣いて許しを請う姿を想像したアルバートが、そんな未来を想像して意地汚く笑う。
まぁ、そんな事は起こるはずもないのだが。
かなり短いですが、読んで頂きありがとうございます!
そして、ブックマーク登録&評価してくださった方、ありがとうございます!! うれしいです!! とっても励みになります!!