表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女になりたい訳ではありませんが【書籍化・コミカライズ】  作者: 咲倉 未来
番外編:祝福の飴ちゃん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/106

銀と祝福の飴ちゃん

書籍発売記念SSその①です!

(こちらは、第1部終時点のお話になります)

美味(うま)くはない」

不味(まず)いってこと?」


 不満げな表情に普段より少しだけ低いトーンで、リリィが答えた。が、銀には相手が主だからと遠慮する気はさらさらない。


「歪曲解釈するなよな。美味くはないっていっただろ」

「それって不味いって意味と同じでしょ!」

「あのな、どうして美味いと不味いの二択しかないんだよ!」

 膨れっ面のリリィに、銀の耳がへにゃりと下を向いた。


「だって――」

「だって、なんだよ」


 きゅっと下唇を噛んだリリィは黙ったままだ。言い返されると分かれば、言うのを止めてしまう奴だと契約従者になってから知った。


「大体、なんで飴なのに薬草を入れて苦くするんだ? あまいまんまでいいじゃねぇか」

 リリィの周囲で彼女お手製の飴を食べた者のほぼ全員が、同じことを思っている。

 約一名を除いて。


「だって、体にいい味がするでしょう?」


 体にいい味。――銀の視線が少しだけ遠くへと向けられた。彼は今、生まれ育った故郷に思いを馳せているのだ。

(リリィのかーちゃんは、アレか。体にいいからって食材を追加するタイプか)

 銀の村にもいた。それも結構な人数が。

 アレが体にいいんだって、と誰かが言いだしたとする。すると毎回の食事に、はてはおやつまでアレが入ってくるのだ。文句を言おうものなら「体にいいのよ!」と一蹴されて聞き入れてもらえず、ブームが去るのを待つしかないのであった。


「この味、アーサー殿下は気に入っているみたいだけど――」

「お、おう」

 アーサーの名前に銀はたじろいだ。

(アーサー殿ってリリィの()じゃねーか)


 番とは運命の相手であり生涯添い遂げる伴侶のことを指す。銀はリリィとアーサーが番であると信じていた。

 だがしかし獣人族では当たり前である番の文化は、人間の世界には存在しないので、これは全くの誤解であった。


「でも、みんながイマイチっだっていうし。どうしたらいいんだろう」

「まてまてまて。アーサー殿が好きなら、そのまんまでいいだろ」

「でも、みんなが……」

「いやいやいや。みんなは関係ない」

 番以外を優先しようとするリリィに、銀は必死になって思い留まるよう説得した。


「だって銀もさっきイマイチだっていってたじゃない」

「ふっざけんな。お前は俺を殺す気か!」

「ふざけてないし殺す気なんてないもん。なんでそうなるのよ!」


 銀は口をへの字に曲げた。もしリリィがアーサーより銀の好みを優先したのなら、間違いなく番であるアーサーは嫉妬に駆られて銀を殺しにくるはずだ。そんな簡単なことも分からないなんて――


(もしかして、リリィはまだ、お子さまなのか?)

 こういった男女の関係というのは、大人の仲間入りとなる年齢になって教わるのが獣人族の通例だ。リリィと銀は同い年だが、種族が違うため成人となる年齢が違うのかもしれない。

 種族の違いはとてもよい気付きであったが、番そのものの文化に種族差があることに、銀は思い至らなかった。


(でも、だとすると俺が勝手にアレコレをリリィに教えるのはダメだな。ダニエルが口止めしたのは、こういうことだったのか!)

 バラバラだった事実が急に繋がったことで、銀は自分の気付きが真実なのだと思い込んだ。


 それなら、とリリィが元通りの飴を作るよう仕向けることに決めた。

「なぁリリィ、アーサー殿はその飴が気に入ってるんだろ」

「それは――、そうかもしれないけど」

「なら、そのままでいいんだよ」

「でも、別の人の意見も参考にしたいし。アーサー殿下も実は微妙だと思ってるかもしれないし」


 銀は腕を組み目を瞑って、この危機的状況を打破しなければと必死に考える。


「リリィの飴があまいだけになれば、みんなは喜ぶかもしれないけど、アーサー殿はがっかりするんじゃないか?」

「うーん」

「リリィも気に入ってるんだろう。体にいい味」

「そうなのかな?」

「っ! はぁぁぁぁ!? 気に入ってないんかい‼」


 ガッカリだ。作った本人が気に入っていないモノを勧められていたなんて。そんなものを人に勧めていたなんて、と銀は激怒した。


「作るなら、自分が美味い!って思うモノにしろ。こだわれ!」

「むぅ。だから、どうしたらいいか銀に相談しているのに」

「~~なら、薬草入りの理想の味を探求しよう。あまいだけの飴ならどこでも買える。差別化とブランディングは大事だぞ!」


 飴の味は、上位互換を追及するという方針で固まったようだ。

(でもなー。コレどうやったら美味くなるんだ? 無理だろ)


 従者である銀は、この事案から逃げられない。そしてアーサーの好みから外れることだけは阻止しなければならないのだった。


 ****


 クツクツと煮立つ鍋をかき回しているリリィの横から、銀は鼻を近づけて匂いを嗅いだ。旬の熟れた果物の香りがする。


「順調そうだな!」

「いつもここまでは、あまい匂いなの」


 ということは、ここから味変ルートに入るということか。


(正直このまま煮詰めたら美味しい飴になるのにな。でもそれだと番問題が勃発するんだよなぁ)

 美味しいものを食べたい気持ちをぐっとこらえて、銀は黙って見守ることにした。


「あのね、たまーにね、すっごくおいしいのができるの。西の砦のみんなが、それはアタリで祝福だっていってたんだ♪」

 リリィにとって懐かしの顔ぶれが思い浮かんで、思わず顔がほころんだ。


「だから、祝福の飴ちゃんなんだな」

 奇妙なネーミングに納得した銀は、置いてあった飴をひとつ(つま)んで口へと放りこんだ。

(――やっぱり、美味くはねぇなぁ)

 どうやら自分は祝福にはありつけなかったようである。

(これが美味くなる、ねぇ。まぁ薬草絡みならアドバイスもできるし、ちょっといろいろ試してみるのも面白いかもな)


 きっとこれから何度も食べることになるだろうから、ある程度(無論アーサーの好みからは外れない)は美味しいレベルに到達してほしいものである。


 銀は首を動かして肩をまわしたあと、いくつかの薬草と果物を選んで、リリィに勧めたのだった。

【宣伝】

下スクロールしたところに、情報掲載しています。


・書籍情報

・特設サイトURL


ぜひご覧ください!

書籍は、お手に取っていただけると嬉しいです(✿ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾


=====================================

【お願い事】

楽しんでいただけましたら、下にスクロールして

【☆☆☆☆☆】で評価 や いいね

を押していただけると、すごく嬉しいです。


(執筆活動の励みになるので、ぜひに!!)


。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。.。:+*゜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ