銀と祝福の飴ちゃん
書籍発売記念SSその①です!
(こちらは、第1部終時点のお話になります)
「美味くはない」
「不味いってこと?」
不満げな表情に普段より少しだけ低いトーンで、リリィが答えた。が、銀には相手が主だからと遠慮する気はさらさらない。
「歪曲解釈するなよな。美味くはないっていっただろ」
「それって不味いって意味と同じでしょ!」
「あのな、どうして美味いと不味いの二択しかないんだよ!」
膨れっ面のリリィに、銀の耳がへにゃりと下を向いた。
「だって――」
「だって、なんだよ」
きゅっと下唇を噛んだリリィは黙ったままだ。言い返されると分かれば、言うのを止めてしまう奴だと契約従者になってから知った。
「大体、なんで飴なのに薬草を入れて苦くするんだ? あまいまんまでいいじゃねぇか」
リリィの周囲で彼女お手製の飴を食べた者のほぼ全員が、同じことを思っている。
約一名を除いて。
「だって、体にいい味がするでしょう?」
体にいい味。――銀の視線が少しだけ遠くへと向けられた。彼は今、生まれ育った故郷に思いを馳せているのだ。
(リリィのかーちゃんは、アレか。体にいいからって食材を追加するタイプか)
銀の村にもいた。それも結構な人数が。
アレが体にいいんだって、と誰かが言いだしたとする。すると毎回の食事に、はてはおやつまでアレが入ってくるのだ。文句を言おうものなら「体にいいのよ!」と一蹴されて聞き入れてもらえず、ブームが去るのを待つしかないのであった。
「この味、アーサー殿下は気に入っているみたいだけど――」
「お、おう」
アーサーの名前に銀はたじろいだ。
(アーサー殿ってリリィの番じゃねーか)
番とは運命の相手であり生涯添い遂げる伴侶のことを指す。銀はリリィとアーサーが番であると信じていた。
だがしかし獣人族では当たり前である番の文化は、人間の世界には存在しないので、これは全くの誤解であった。
「でも、みんながイマイチっだっていうし。どうしたらいいんだろう」
「まてまてまて。アーサー殿が好きなら、そのまんまでいいだろ」
「でも、みんなが……」
「いやいやいや。みんなは関係ない」
番以外を優先しようとするリリィに、銀は必死になって思い留まるよう説得した。
「だって銀もさっきイマイチだっていってたじゃない」
「ふっざけんな。お前は俺を殺す気か!」
「ふざけてないし殺す気なんてないもん。なんでそうなるのよ!」
銀は口をへの字に曲げた。もしリリィがアーサーより銀の好みを優先したのなら、間違いなく番であるアーサーは嫉妬に駆られて銀を殺しにくるはずだ。そんな簡単なことも分からないなんて――
(もしかして、リリィはまだ、お子さまなのか?)
こういった男女の関係というのは、大人の仲間入りとなる年齢になって教わるのが獣人族の通例だ。リリィと銀は同い年だが、種族が違うため成人となる年齢が違うのかもしれない。
種族の違いはとてもよい気付きであったが、番そのものの文化に種族差があることに、銀は思い至らなかった。
(でも、だとすると俺が勝手にアレコレをリリィに教えるのはダメだな。ダニエルが口止めしたのは、こういうことだったのか!)
バラバラだった事実が急に繋がったことで、銀は自分の気付きが真実なのだと思い込んだ。
それなら、とリリィが元通りの飴を作るよう仕向けることに決めた。
「なぁリリィ、アーサー殿はその飴が気に入ってるんだろ」
「それは――、そうかもしれないけど」
「なら、そのままでいいんだよ」
「でも、別の人の意見も参考にしたいし。アーサー殿下も実は微妙だと思ってるかもしれないし」
銀は腕を組み目を瞑って、この危機的状況を打破しなければと必死に考える。
「リリィの飴があまいだけになれば、みんなは喜ぶかもしれないけど、アーサー殿はがっかりするんじゃないか?」
「うーん」
「リリィも気に入ってるんだろう。体にいい味」
「そうなのかな?」
「っ! はぁぁぁぁ!? 気に入ってないんかい‼」
ガッカリだ。作った本人が気に入っていないモノを勧められていたなんて。そんなものを人に勧めていたなんて、と銀は激怒した。
「作るなら、自分が美味い!って思うモノにしろ。こだわれ!」
「むぅ。だから、どうしたらいいか銀に相談しているのに」
「~~なら、薬草入りの理想の味を探求しよう。あまいだけの飴ならどこでも買える。差別化とブランディングは大事だぞ!」
飴の味は、上位互換を追及するという方針で固まったようだ。
(でもなー。コレどうやったら美味くなるんだ? 無理だろ)
従者である銀は、この事案から逃げられない。そしてアーサーの好みから外れることだけは阻止しなければならないのだった。
****
クツクツと煮立つ鍋をかき回しているリリィの横から、銀は鼻を近づけて匂いを嗅いだ。旬の熟れた果物の香りがする。
「順調そうだな!」
「いつもここまでは、あまい匂いなの」
ということは、ここから味変ルートに入るということか。
(正直このまま煮詰めたら美味しい飴になるのにな。でもそれだと番問題が勃発するんだよなぁ)
美味しいものを食べたい気持ちをぐっとこらえて、銀は黙って見守ることにした。
「あのね、たまーにね、すっごくおいしいのができるの。西の砦のみんなが、それはアタリで祝福だっていってたんだ♪」
リリィにとって懐かしの顔ぶれが思い浮かんで、思わず顔がほころんだ。
「だから、祝福の飴ちゃんなんだな」
奇妙なネーミングに納得した銀は、置いてあった飴をひとつ抓んで口へと放りこんだ。
(――やっぱり、美味くはねぇなぁ)
どうやら自分は祝福にはありつけなかったようである。
(これが美味くなる、ねぇ。まぁ薬草絡みならアドバイスもできるし、ちょっといろいろ試してみるのも面白いかもな)
きっとこれから何度も食べることになるだろうから、ある程度(無論アーサーの好みからは外れない)は美味しいレベルに到達してほしいものである。
銀は首を動かして肩をまわしたあと、いくつかの薬草と果物を選んで、リリィに勧めたのだった。
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