終.エピローグ
陣のぼんやりとした光が、だんだんはっきりとした光線を放ち始め、眩しさに思わず目を細める。
中央に揺らぐ影が現れ、徐々に姿が鮮明になっていった。
次いで現れた、アーサー、ノア、リリィ、銀、エリオットの顔を見て、ダニエルは破顔した。
「え、一度にこんなに来る予定だったんですか?」
横に立っていたオリバーは、初動確認と聞いていたので、せいぜい二人位だと思っていた。
「ああ、全員来たいと言って選べなかったからね。そのために大型の陣を準備したんだよ」
だからって、そんな無茶を通さず順番に転移するなりすればよかったのに、オリバーは心の中で突っ込みを入れた。
よりにもよって人体実験に王太子が入っていたことにも、驚きすぎて言葉を失ったようだ。
「あ、お父さんとお母さんだ!」
アダムとエマの姿を見つけて、リリィは走り出した。
その後ろを銀とエリオットは、当たり前のように着いていった。
陣の発動という大役をおえたターニアは、リリィの頭上を並走する。
「(なんだあれ。どういうことだ?!)」
「(ちょっと、あなた。ひっぱらないでよ!)」
同い年の男の子を二人従えて走ってくるリリィに、アダムは狼狽える。
早すぎる、早すぎると、うるさくするので、エマは鳩尾に肘を食らわせ黙らせた。
「(ぐぇ)」
「(ほら、しゃんとして。)リリィ! 久しぶりね」
「おかーさん、元気してた?」
飛び込んできたリリィを受け止めて顔をよく見ようと近づけたエマだったが、その横に小さな妖精がいるのを見つけて、笑顔がぴしりと固まった。
「あのね、紹介したい人がいるの! 手紙でも書いたんだけどね、実は秘密にしていたことがあってね!」
「そ、そうなの?」
「うん! えっとー。彼が銀で、こっちの彼がエリオット。銀はノグレー樹海の獣人族で、エリオットはプラータ山脈に住む竜人族だよ」
「あー。……そうなのね」
両脇の少年たちが軽くあいさつしてくれたので、エマもなんとか笑顔で返した。
ふと顔を上げると、アダムは両手で顔を覆っていた。
(逃げないで頑張りなさいよ! もう!)
同い年の男の子を紹介されたせいで、アダムは叫びそうなのを堪えているようだった。
せめて同性の友達なら戻ってこられるだろうか。
エマはすぐに唯一知っていた女の子の名前を口にした。
「リリィ、手紙に書いてあった、ターニアさんは一緒じゃないの?」
「ターニアも一緒だよ。ほらここにいる」
リリィの手のひらに舞い降りた妖精がぺこりとお辞儀した。
頼みの綱が、まさかの妖精だった。
「銀とターニアは私の従者なんだ。エリオットはね、――お友達!」
たった半年離れただけで、巻き込まれやすい体質の娘は複雑な交友関係を構築してしまったらしい。
「(従者ってなんだよ。ボーイフレンドより近いのか? 遠いのか?)」
アダムの小さな声は、エマにしか届いていない。
そろそろ本当にしゃんとしてもらいたいものである。
様子のおかしい父親を一切気にも留めないリリィは、何かを思い出したような顔をした。
「あ、そうだ。ダニエル様に渡すものがあったんだ。ちょっとお仕事してくるから、またあとでね!」
エマの手をするりと抜けて、リリィは従者と友達も一緒に連れてさっさと行ってしまった。
心待ちにしていた両親との再会は、あっさりと幕を閉じたのだった。
「なぁ、なんかさっぱりしすぎじゃないか?」
「子供なんてそんなもんよ。目の前のものに、いつだって夢中なのよ」
思っていたよりも元気そうで、仲良くしてくれる友人に囲まれていたリリィの姿にエマは胸をなでおろした。
そして――
「私、ちょーっとノアに事情を聞いてくるわ。あれだけ説明したのに、なんでこんなことになったか気になるもの」
エマは笑顔を浮かべてはいるが、腕を組んで青筋を浮かべているので、大層ご立腹のようだ。
「待てよ。今さら言ったところで手遅れだろう。それにリリィは仲良さそうにしているんだから、親が口を出すことじゃない」
「でもだって、あんなに事前に説明したのに。見てよ、人がひとりもいないのよ?!」
全部人外だった。
せめてひとりくらい、人間の友達がいても良いではないか。
「あのー、ご無沙汰しておりまーす」
ばつの悪そうな表情を浮かべたノアが、自ら歩み寄ってきた。
怒られることも文句を言われることも悟っているようである。
「久しぶりね。リリィを預かるのって思っていたより大変だったでしょう?」
「はい、それはもう! 本当にすぐに攫われるの、なんとかならないんでしょうか?」
ノアが泣いて訴えたことで、エマは溜め息をついて仕方ないのだと彼にも自分にも言い聞かせた。
親や預かり元の心労など微塵も知らないリリィは、少し離れた先で元気に騒いでいる。
「元気で楽しく過ごせていたのなら良いんだ。ありがとう、ノア君」
「そうね。我慢させているんだから楽しく過ごしてくれているのなら、なんにも言えないわ。ありがとう、ノア」
「アダムさん、エマさん!」
何を言われるか戦々恐々としていたノアは、感謝の言葉に滂沱の涙を流したのだった。
この後、転移で来たメンバーにダニエルとオリバーが加わって、全員王都へと帰っていった。
王弟ダニエルが確立した転移魔法陣は、翌年の春に王都と東の砦の移動手段として常用設備される。
陣を利用してアダムとエマは王都へ戻れる頻度が上がったのだが、その頃には十四歳に成長して、日々忙しくする娘に相手にされなくなるという悲しい現実が待ち受けていた。
ただ、忙しくて両親が中々王都に来なくなると、リリィが転移魔法を使って東の砦に顔を見せにいくのだった。
~第三章・終~
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )❤
あとがきは【活動報告】に掲載します。
=====================================
【更新中コメントを下さった皆様へ】
楽しく拝見させていただきました!
更新中は返信を控えていますので、その点だけご理解ください。
質問のあった内容は、この後返信させていただきます。
=====================================
【お願い事】
楽しんでいただけましたら、下にスクロールして
【☆☆☆☆☆】で評価を押していただけると、すごく嬉しいです。
(執筆活動の励みになるので、ぜひに!!)
。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。.。:+*゜