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15.ジルバ国滞在記 帰国の時

 帰国当日、エリオットは一匹の飛竜に土産物を積み、もう一匹には鞍を付けて出立の準備をしていた。

 ダニエルは少し離れた場所で、膝の上に銀を乗せて撫でながら、作業を眺めている。


(あっという間に帰国か。名残惜しいな)



 移動の準備が終われば、すぐに聖アウルム王国へ出発となる。

 お忍びなので見送はなく、既に、竜王、竜妃との挨拶も簡単に済ませたあとである。

 二人からは、ぜひまた来てほしいと言ってもらえたため、建前と知りつつも額面通りに受け取ってまた来るつもり満々だ。


 ダニエルは、次はいつ来ようかと、そればかり考えていた。

 彼の心を、あの蔵書室が捕らえて離さない。

 正直あの部屋に住み着いて、一生書物を読みふけっていたい欲望に今も駆られている。


 総じて有意義な訪問となり、ダニエルにとって人生で一番楽しい王族の仕事となった。



 エリオットが、出発を知らせにやってくる。

 ダニエルは、寝入ってしまった銀を懐深くにしまい込み、準備された飛竜に(またが)ると、手綱を握り、前を見据えた。

 飛竜が翼を上下に動かせば、周囲に風が生まれ、思わず目を細めた。


 ふわりとした浮遊感に体を任せていると、飛竜が洞窟を抜けて外界へと飛び出す。

 ダニエルの足元にプラータ山脈の積雪が広がり、近場から遠方へと、しばしのあいだ目を楽しませた。


 ダニエルが興味の向くまま、周辺を見まわした時だった。


 白い雪の積もる大地の上に、人が立っていた。

 白い幾重にも重ねた服が風でひらひらとはためき、白銀の髪が乱れるのも気にせず、ずっとこちらを見上げてくる者と目が合った。


「リーラ様が外に出るなんて、珍しい」


 荷物を積んだ飛竜を連れ、横を並走していたエリオットの呟きは、風の音で掻き消されてダニエルには届かなかった。


 まだ距離がそこまで離れていないせいか、リーラの表情がなんとなく見えた。

 彼女は相変わらず不機嫌そうに顔をゆがめている。


(嫌われているなぁ……。でも、また来ますから。その時は、どうか蔵書室に入れてくださいね。放置で構いませんから)


 そういう意味をこめて、ダニエルは笑顔でひらひらと手を振ってみた。

 リーラからの反応は無く、彼女は絶えず飛び去る飛竜を睨みつけるばかりであった。



 ◇◆◇◆


 聖アウルム王国の郊外にて降り立った飛竜は、荷物と人を降ろし終わると、二頭並んでプラータ山脈へと帰っていった。

 その姿を見送ったあとは、迎えに来ていた馬車にダニエル、銀、エリオットで乗り込み城へと向かう。


 到着し執務室へたどり着くと、アーサー、ノア、リリィが出迎えてくれた。


「ただいま、アーサー。念のため聞くけど、私の不在はバレていないよね?」

「そうですね。訪問者すらゼロでした。全くバレていません」


 アーサーは留守中の執務もバッチリこなしたので、親指を立てて問題無しの意を示す。

 ダニエルはその結果を大いに喜んだ。これなら今後もお忍びで気兼ねすることなく出かけられるだろう。



 ご機嫌な銀が、土産物の入った袋をローテーブルの上に置き、中のものを取り出して並べ始めた。


 その近くでは、直前で行けなくなったことを謝ろうと、リリィがエリオットに声を掛けている。


「エリオット、ごめんね。一緒に行けなくなっちゃって」


「いいんだ。無理して倒れたら大変だし。もう具合はいいのか? どこも悪くはない?」


 エリオットは心配でリリィの肩に手を掛けて、全身をくまなくチェックし始める。

 その距離感が近すぎる気がして、リリィは赤面して慌てふためいた。

 そもそも仮病で行くのをやめた気まずさもあって、余計にしどろもどろになった。


「だ、大丈夫。大丈夫! もう元気になったから。ね」


 エリオットの体を押し返そうとしたがびくともしない。

 そうこうしているうちに、安堵したエリオットはリリィに思わず抱きついてしまう。


「よかったぁ」

「え、エリオット?! どうしたの?」


 どんどん抱きしめる力が強くなっていき、リリィが身の危険をうっすら感じた時、アーサーが無言で二人を引きはがして事態は収束した。


 エリオットの顔色が良くないようにも見えたが、直後に銀がお土産の話をしようとリリィを呼んだため、その場は流れてしまった。



 銀が騒げば執務室は笑いで溢れ、エリオットも喜んでジルバ国の話に混ざる。


 いつも通りの賑やかな時が流れた。


 けれどふとした瞬間に、エリオットは種族の違いを憂いて、気分が落ち込んでしまうのだった。

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