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聖女になりたい訳ではありませんが【書籍化・コミカライズ】  作者: 咲倉 未来
第3部:成金大国の金策騒動 編

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10.ジルバ国滞在記 魔石採掘場

 ジルバ国到着翌日


 案内された謁見の間で、玉座に構える竜王ブラウと竜妃ヴェルデの前に進み出ると、ダニエルは膝を折り頭を垂れた。

 声を掛けられ顔をあげると、威圧を(まと)った竜王と竜妃らは、ねぎらいと歓迎の意を示し、早々に解放された。



 非公式であり、また元々両国の交流は盛んでないため、互いに様子見というところだろう。



 謁見を済ませたあとは、与えられた部屋でエリオットが迎えに来るのを待っていた。


「竜王と竜妃は普通に接してくれたのに、不思議だなあ」


 先ほどの謁見よりも、ジルバ国に到着してすぐに出会ったリーラが気になって仕方ないのだ。

 怯えて悲鳴をあげながら逃げていった姿が頭から離れない。


「彼女の様子で、竜王と竜妃からも冷たく当たられると思っていたのに。分からないなぁ」


 悩み続けるダニエルの膝の上には、体力温存のため出発当初から子犬姿で過ごす銀が丸まっている。

 ダニエルは、ずっとその背中を撫でまわしていた。


「ダニエル、撫でるの楽しいか?」

「ああ、動物を撫でるのって心が休まるものなんだよ」

「ふーん。いいけどさぁ」


 体力を消耗したくない銀は抵抗せず好きなようにさせる。

 目を閉じ丸まって、時折耳を瞬かせた。

 ダニエルは心地の良い手触りに癒されながら、自らが何故嫌われたのか悶々と悩み続ける。


「あんまり気にしなくても良いと思うけどな。部外者に見られたら不味い着物だっただけかもしれないだろ?」


「あ、なるほどね! 服装の文化が違うからわからないだけで、そういう可能性もありそうだね」


 ダニエルは銀の言葉に頷いた。場面で服装を選ぶ文化なら聖アウルム王国にも根付いているので理解できる。


「でも、それなら失礼なことをしてしまったから、それはそれで……」


「俺たちのせいじゃない。エリオットが案内したんだから、あいつに何とかしてもらうしかない」


 銀はパタリと尾を一振りして、ダニエルを慰めた。




 そこへエリオットが戻ってくる。手には丸めた羊皮紙が握られていた。


「お待たせしました。これが滞在期間中のスケジュールです!」


 パラりと開いた面には、びっしりと文字が書き記されている。


「今からは魔石採掘場を案内します。その後は国の中心部にある噴火口の溶岩を見て、夕方から夜にかけては宮殿のバルコニーで空の切り替わりを堪能しながら、夕食を摂りましょう。明日は――、それから――」


 エリオットは流れる様にギッチギチに詰め込んだスケジュールを読み上げる。

 ダニエルと銀はそれらを聞き漏らさないよう、耳に神経を集中させた。


 なぜなら羊皮紙は竜人族の扱う文字で書かれていたため、全く読めなかったからだ。


「――で、最終日は昼頃にジルバ国を出発して夕方に聖アウルム王国に到着となります」


 読み上げたエリオットは満足顔だ。


 ジルバ国のことを知ってもらえる最良のコースを選んだので当然である。


 ダニエルは目を閉じて、しばしのあいだ説明を脳内で繰り返して確認したあと、頷いた。


「うん、覚えたよ。それではよろしくお願いします」

「はい!」


 こうして、エリオットの自国紹介ツアーが幕を開けた。










 けれど、最初の魔石採掘場に到着するまでに、エリオットの計画は大きく崩れ去った。


 今は地下深くに続く大きな穴の側面にある道を、ゆっくりと下っている最中だ。


 エリオットの計画では、一番下にある採掘場の横穴まで、翼で一気に降りることになっていたのだが、ダニエルと銀に翼は無い。

 仕方なく荷運び用の傾斜道を利用することになったのだ。


 ひどく落ち込むエリオットとは対照的に、ダニエルと銀は周囲をきょろきょろと見学するのに忙しい。

 見るものすべてが珍しい二人は、今この時を存分に楽しんでいた。


「エリオット君、私はこうして見て歩いているだけで非常に勉強になるから、気にしないでね」


「ですが、予定をすべてこなすのは難しくなってしまいました」


 エリオットは唇を噛んで、己の落ち度を恥じた。


「ならさ、もう一度招待してくれよ! 一回なんて勿体ないだろ」


「そうだね。私も一度よりは二度三度とお邪魔して、ひとつひとつをじっくり見るほうが嬉しいな」


「――ありがとうございます。一度計画を見直します」


 また来たい、もっとじっくり見たいと言ってもらえて、エリオットの心は幾分か軽くなった。


 一番下までたどり着くと、ぽっかりと口をあけた洞窟があり、近づけば見上げるほどの大きさの入り口であった。

 その手前には、赤や青、緑色をした拳大の宝石が無造作に積まれている。


「あ、魔石の山だ! あんなにたくさん?!」


 銀はダニエルの腕からすり抜けて転換し、人の姿で走り出した。

 魔石の山の前まで行くと、それらを食い入るように見つめる。


(すげぇ。めちゃくちゃ上物だ!)


 竜の鱗を狙っていたが、目の前の魔石は負けず劣らずの価値があった。

 後から小走りで追いついたダニエルも、その魔石に魅入られる。


「へえ、これはすごいね。大きさも質も中々だ」


 聖アウルム王国にも魔石は流通している。

 手のひらサイズの小さなものが家事魔法や装飾品として使われていた。

 目の前の魔石は普段手に取るものよりも五、六倍の大きさがあり、装飾加工にもできそうなほどに透明度が高い。


「あの、見学する魔石は洞窟の中にあります。それに、それは本来ここにあるべきものではないので」


 エリオットは、どうしたものかと口ごもった。

 事前に片付けとくように言ってあったのに、どうやら不手際があったらしい。


 二人の前に身を乗り出して、体で魔石の山を隠したエリオットは洞窟の奥を指さして二人の視線を遠ざけた。


「これは、すぐに捨てさせるので、今は先を急ぎましょう!」


「「捨てる?」」


「はい、事前に片付けておけず恥ずかしい限りです。こんな小粒のクズ石を見られるなんて」


 耐えかねたエリオットは、銀とダニエルの腕をつかんで洞窟の奥へとものすごい力で引っ張っていった。








 念願の採掘場は、ダニエルも銀も少し進んだところで気分が悪くなり動けなくなってしまった。


「魔力が強すぎる。俺には無理だ」

「本当に凄いね。私も――これ以上は無理みたいだ」


 銀はすぐに子犬に戻り、()()いしながら、ダニエルを置いて出口へ向かった。

 その後ろから、壁に手をついて何とか一歩ずつ歩いて進むダニエルが続く。



 魔石採掘場は地下深くまで掘り下げられ、大地の奥深く、エネルギー源の影響を存分に受ける場所にある。

 膨大なエネルギーは、地中に埋まった鉱石に長年蓄積され、留まると凝縮し定着する。

 含まれる不純物が高エネルギーで消滅すると、鉱石は透明化し色を変えて輝きを放ちはじめるのだ。


 ここには、そうしてできた魔石が、ゴロゴロと埋まっている。


 当然、洞窟内は魔力が充満し、竜人でも長時間過ごすと魔力酔いすることが稀にあると聞く。


 ダニエルと銀は、踏み入れてすぐに高濃度の魔力にあたってしまったのだった。


 エリオットは、生まれてはじめて種族の個体差を目の当たりにした。


 教育の一環で知識として理解はしていたが、聖アウルム王国ではみんな同じように生活していたせいで失念していた。


「そ、そんなに影響があるなんて……」


 目の前の酷い状況に、思わず手が震えた。




 ダニエルと銀は、どうにか外まで這い出たあと休息を要した。

 幸いすぐに回復したが、エリオットの心は軋むばかりである。


「こんなにも違うなんて、思いもしませんでした」


「私もだよ。体験してみなければ分からないものさ。互いに知り合えることは得るものが大きいから、気にしないでほしいな」


「そう、でしょうか」


 エリオットにしてみれば、出だしから失敗続きなので前向きになどなれなかった。


 洞窟内には巨大な原石の塊が山ほど埋まっていて、天井に壁中にとむき出しになっている。

 魔石の輝きで洞窟内はほんのりと明るく、足元は溢れた魔力がそこいら中に流れ出て、光りの靄が見えるほどだ。


(本当は、それを見てもらいたかったのに)


 良いものを見せようと、あえて採掘せずに残したままの魔石もあった。

 驚かせようと準備していただけに残念である。




「なあ、エリオット。外にあった魔石が見たい!」


 元気になった銀は、先ほどの具合の悪さなどすっかり忘れて、入り口でみた魔石に心を躍らせた。


「あれは捨てるものなんだ。そんなものを見せるなんて気がすすまない」


「俺が扱ってた魔石の中では、ダントツで良い質だ。捨てるなら譲ってくれ!」


「……冗談だろ?」


 納得いかないエリオットに、銀は前足を振って否定する。

 そしてエリオットのズボンに前足を引っ掛けておねだりした。


「あれがいいんだ! あれが欲しい!」


「わ、わかったから。爪を引っ掛けないでくれ」


 エリオットが頷くと、銀は喜んで魔石のところへ走っていった。

 全然想像していなかった展開に、エリオットはついていけなくて目を瞬く。


「エリオット君、私も相談があるんだけど」


「なんでしょうか?」


「私にも、あの魔石を譲ってくれないかな?」


「……好きなだけお譲りできますが、いいんですか?」


「私も、あれが良いんだ」


 未だ混乱から抜け出せないエリオットだったが、ダニエルや銀が喜ぶのならと帰りの土産物にそれらを積むように手配したのだった。


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