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聖女になりたい訳ではありませんが【書籍化・コミカライズ】  作者: 咲倉 未来
第2部:聖女候補生編(後編)

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27.悪役令嬢の誕生(1)

 

 閉じられたカーテンに灯りを消した暗い部屋で、オリビアは鏡台の前に座りぼんやりと鏡に映る自分の顔を見ていた。

 その頬は赤く腫れあがっている。





 数日前、父であるゴルド公爵と兄のディランを交えて、オリビアは今後の進路について話し合った。


 父と兄からは王太子妃になる夢は諦めるよう諭された。


 聖女候補生の仕事はほとんど残っておらず、このまま聖女候補生という役割だけ持っていても得るものは無いといわれた。

 ディランからは、王太子妃に相応しい実績を挙げれば交渉が可能だと言われたが、ならそれはどういうものなのか聞けば、具体的なものは何も無いといわれてしまった。


「王太子妃に相応しい教養も能力も身についているのに、これ以上何をしろというのよ」


 ぽつりと呟いたオリビアの悲痛な声が、暗がりに吸い込まれていく。


 どう考えても、他の候補を召し上げるために袖にされたようにしか思えなかった。


「こんな風に干されたままでは成果なんて出せない。どうせ意中の相手にはチャンスを与えて実績を積ませるのでしょう。ずるいわ」


 こんなのはフェアじゃない。ちゃんと実績を積み上げる場に立たせてもらえれば、自分は絶対に目立てるはずだった。


 オリビアの瞳に薄っすらと膜がはり、俯けばボロボロと大粒の涙が零れ落ちた。


 ――ずるい、ずるい、ずるい、ずるい


 ちゃんと努力した人間にこそ、チャンスは与えられるべきなのに。



 そんなオリビアに、父と兄は諦めて他家へ嫁ぐ縁談を探す話を持ちかけてきた。

 けれど、今さら年頃の子息で条件の良い相手が見つかるわけもない。出てきた候補は数人で、どれもアーサーに遠く及ばなかった。



 全てを聞き終えると、オリビアはその話を蹴った。



 聖女候補生を続けるのも辞めるのも、本人の意思に任せるという話だった。なら、何とか実績を積むほうが、まだ努力の甲斐があるというものだ。


『わたくし光魔法士の試験を受けて出仕します。それで実績を作ってみせます』


 父は良い顔はしなかったし、兄もどちらかといえば反対のようであった。


『ゴルド家はお兄様が継ぎますし、我が家は他家の支援を当てにして婚姻関係を結ぶ必要もありませんし。このまま王太子妃を目指しても問題ないではありませんか』


『オリビア。今や望みは薄いのだから、意地になってしがみつくものではない』


『意地になってなどいません。純粋に望んでいるだけですわ!』


 父や兄にどう説得されても、オリビアは言葉を尽くして突っぱねた。

 頑なに首を縦に振らないオリビアに、父は痺れを切らして平手をくらわせたのだった。





 □□□



「まったく、誰に似たのだか頑固で困る」


 珍しく言うことを聞かない娘に、ゴルド公爵は小さく溜息をついた。

 どうせすぐに諦めて出てくるかと思いきや部屋から全然出てこない。このままでは死んでしまうが、それでも構わないということなのだろう。


 我儘を許す気はないが、このまま無理に他家との婚約話をすすめれば、なにをしでかすか分からない。

 せめて本人が諦められるような理由が必要だと考えた。


「オリビアを呼べ。話をする」


 暫くして姿を現したオリビアは、数日前に話合ったドレス姿で現れた。髪は乱れ、目は真っ赤に晴れて、見るに堪えない姿であった。

 自慢の娘のどうしようもない格好に、ゴルド公爵は折れるしかないのだと諦める。


「出仕の話だが、オリビアの好きにしろ。ただし二十歳までだ。そこでダメなら、お前は私が決めた縁談を素直に受けろ。それが条件だ」


 光を失った瞳と目が合う。その瞳に徐々に光が戻っていき、顔がくしゃくしゃに歪む。


「そのみっともない姿のまま邸をうろつくな。直ぐに身支度してこい。いや待て。食事して横になるほうがいいか。お前たち、オリビアの面倒をみてやってくれ」


 控えていたメイドが一斉にオリビアを取り囲み連れて行く。成すすべなく世話されたオリビアだが、心の中は歓喜に満ち溢れていた。






 暗闇の先に小さな光が見えた気がした。

 再びチャンスが舞い込んだのだ。小さなチャンスで可能性は高くない。

 でも、確かに途切れた道の先が現れたのだ。


(わたくし、何だってするわ。どんな努力も仕事もする。今度こそ失敗しないように気をつけるわ)


 これが最後のチャンスなのだから今までのように体裁など気にせず、それこそポピィが言っていた通りに目的をしっかり定めて直球勝負していこう。


 彼女のことは大嫌いだったが、男を次々と誑かしていった手腕は見事であった。

 もう失敗したくないオリビアは、上手く立ち回っている者から学び、なりふり構わずに結果を手にしようと考えたのだった。


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