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聖女になりたい訳ではありませんが【書籍化・コミカライズ】  作者: 咲倉 未来
第2部:聖女候補生編(後編)

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21.王妃のお茶会(3)

 先に口火を切ったのはポピィだった。


「あ~ん! オリビア様が遠回しな言い方ばっかりするから、結局収穫ゼロでおわっちゃったわ!」


「っ! あなたねぇ、自分の発言がどれだけ危うかったか。聞いているだけで心臓が止まりそうだったわよ」


「オリビア様はいつも強気なのに、目的に対して直球勝負できないなんて意外でした。がっかりだわ」



 周囲に誰もいないせいか、オリビアとポピィはそのまま言い争い始めた。

 うしろを歩いていたリリィは、どうしていいか分からずハラハラしながら見守っている。


(どうしよう、どうしよう、喧嘩し始めちゃった。止めた方が良いのかな? でも、どうやって??)


 胸ポケットに収まっていたターニアは、主人の心臓の音がどんどん早くなるのを感じていた。見上げれば非常に困っているので、こっそりと抜け出し耳元までいくと、話しかける。


「我が主、お先に失礼します、と挨拶して、さっさと帰りましょう。付き合う必要はありません」


(そ、そうなの? でもそうかも。私は関係ないみたいだし)


 ターニアの提案は非常に良かった。リリィは息を吸い込むと大きな声で前の二人に挨拶する。


「オリビア様、ポピィ様、お先に失礼します!」


 ペコリと頭を下げたあと、リリィはアーサーの執務室に向かう廊下へと早足で歩いていった。

 引き留められることも無かったので、ターニアの提案はやはり合っていたのだ。


「ありがとう! ターニア。すごく困っていたから助かったわ」


「我が主、もしや毎回そうやって他人の揉め事に巻き込まれてはいませんか?」


「……そうかも」


 揉めている人を見ると、どうしていいか分からず動けなくなるのだ。結果としてなんやかんやで最後まで付き合うパターンが多い。


「わたくしも主の巻き込まれやすい体質のおかげで命拾いしましたけど。今後は厄介ごとから守らせていただきます」


「本当? 困ったときにアドバイスをくれるの、とっても嬉しいわ」


 一人で決めることが何よりも苦手なリリィは、いつでもターニアに相談できるようになったことを喜んだ。

 ターニアも、従者がたくさん増えてリリィの興味が自分から他へ移るのは面白くないので、完璧に主人を守ってみせようと意気込んだのだった。



 □□□



 リリィが去ったあとも、オリビアとポピィの睨み合いは続いていた。


「王妃様に、優しさを説くなど正気の沙汰とは思えませんわ! 笑っていらしたからいいものの。嫌われでもしたら社交界から追放になるところだったのよ!」


「なによ。相手の苦手なことを手伝ってあげるのは優しさじゃない。あたしは間違ったことは言ってないわ。そんなことより、これからどうするのよ。折角のチャンスが逃げちゃった。オリビア様が、もっと頑張ってくれると思っていたのに!」


 社交の場数ならオリビアの方が圧倒的に上なので、ポピィは最初にオリビアが交渉するのを見守っていたのだ。

 けれど歯に何かが挟まったような言い方をするから、失敗すると思って代弁したというのに。


「失敗したのは、あなたのせいです。もう金輪際ポピィさんとは協力しませんわ」


「はぁ? あたしのせいにするの? そうやって都合の悪いことは全部人のせいって、貴族のお決まりよね。意味わかんない。ちゃんと自分と向き合って、目的をしっかり定めて直球勝負しなくちゃ、欲しいモノは手に入んないのに! 世の中そんなに甘くないわ」



 ――パァン!



 ポピィの言葉にカッとなり、オリビアは思わず平手で彼女の頬を張る。


「い、言っていいことと悪いことがあるわ。わたくしは努力しています! 血の滲むような努力をしているわよ!」


 幼少期からアーサーに相応しくなるために、無理と承知で選ばれたいと思いながら努力してきたのだ。

 それなのに選ばれない現実を目の当たりにする日々に不満が募る。その原因をオリビアの努力不足のせいだと言ってくるポピィが、ひどく憎たらしくみえたのだ。


(何も知らないくせに。わたくしの努力を見たこともないくせに!)


「平民上がりの男爵令嬢が、公爵令嬢の苦労など分かりっこないですものね。無知な方は本当に狭い世界しか見えていないようで、逆に羨ましいですわ!」


 精一杯の皮肉を繰り出すと、オリビアは背筋を伸ばす。


「――失礼いたします」


 オリビアはドレスの裾を翻して、ポピィを置いてその場を去る。

 ポピィは叩かれた頬をさすりながら、不満げな顔で立ち去る背中を睨み続けた。


「――みんな努力ぐらいしているわよ。自分ばっかり大変みたいに言うなんて、そっちこそ悲劇のヒロインが過ぎるのよ。鬱陶しいったらないわ。それに、あたしだって死ぬほど努力したんだから」


 平民から貴族社会へ、その変化を全て飲み込んでここまでやってきた。

 自分の苦境を表に出さず周囲に優しさを振りまいて、ポピィは底辺から自分の価値を築き上げてきたのだ。


(恵まれた環境に生まれた人だけが成功するわけじゃない。あたしだって努力に見合う分の結果を手にしていいはずよ!)


 ぎゅっと握った拳を緩めると、ポピィはゆっくりと歩き出す。

 早くポピィの底力と価値に気が付いてほしい。そうしたらポピィは、その全てを捧げて全力で支えてみせるのに。


 その願いを叶えるチャンスが遠のいてしまったことが、なによりも悔しかった。


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