失敗では終わらせない!
「こんなもの欲しいのか。ボウズ、変わってんなぁ」
「おう。ちょっと実験に使うんだ。譲ってくれて、ありがとな!」
老兵士から手渡された姿見を、銀は小脇に抱えてニカっと笑う。
「ひび割れてるところは、気をつけろよ」
「おう!」
軽い口調で銀と会話する老兵士。彼とは、銀が城を探検していて出会ったのだ。
老兵士は、壊れた備品の修理や廃棄の仕事をひとり任されていて、銀が話しかけると気さくに応えてくれた。
今では、廃棄する備品を譲ってくれる程度に仲良しである。
別れを告げて意気揚々と歩きだした銀は、少し離れたところに待たせていたエリオットと落ち合った。
不満げな顔をしたエリオットに、銀は渋い表情をする。
「なんですか、あの老人は。僕らに対しての敬意がなさすぎます」
「いいんだよ。あのじーちゃんは、あれでいいの」
「よくないだろう。態度を改めさせるべきです」
「あのな、つっけんどんな態度だと、縁もチャンスも逃すんだぞ」
むっとした表情のエリオットを無視して、銀は再び歩きだす。
「俺は落ち込んでるリリィを元気にするほうが、大事なんだよ」
「それは大事です。――でも、そんなゴミで元気になるわけがない」
「分かってないなぁ。こんなに面白いモノ作ろうとしてるのに」
ゴミはゴミでしかないだろう、とエリオットの眉根が寄った。
(鏡が必要だって相談してくれたら、良い品を国から持ってくるのに)
聞いても教えてくれず、提案すれば分かってないなんて言われたら腹が立つ。
でも、喧嘩をしたい訳じゃないエリオットは、ぐっと堪えて今一度、教えてもらうことにした。
「何を作るか、教えてくれたっていいじゃないですか!」
「知らない方がワクワクするだろ♪」
誤魔化された気がして、増々苛立った。
「そんなゴミで何が出来上がるのか、せいぜい楽しみにしていますよ!」
「おう。期待していいぞ!」
エリオットの嫌味は、銀にはまったく通じないのだった。
◇◆◇◆
窓辺に置かれた瓶に光が当たり、中に納まっている細かな宝石がチラチラと瞬いている。
机に寝そべりながら眺めていたリリィが、深いため息をついた。
「光魔法だけ、宝石が割れちゃうなんて、聞いてない」
研究用に確保した解呪済みの装飾品。長年、闇魔法を含んでいたせいか魔法との相性がよく、魔法を留めやすくなっていた。
地・水・火・風の四大魔法は、スルスルと入っていったのに。
リリィが光魔法を込めると、宝石は粉々に砕け散ったのである。
『闇魔法と相殺関係にある光魔法だと、長年闇属性だった宝石は耐えられないんだね』
いくつか試した結果、ダニエルが行きついた答えである。
この結論に辿り着くため、リリィはいくつかの宝石を粉砕してしまった。
タダで入手したものとはいえ、高価な品を壊してしまったことに、ひどく気持ちが沈んでいる。
集めた欠片を瓶に詰めてみたものの、見るたびに溜息が洩れてしまう。
「リリィ、元気出せよ」
「銀。何貰ってきたの?」
元はと言えば、銀が解呪した装飾類をネコババしたせいで、今に至る。
彼は再び何かを手に入れて帰ってきた。どうして、そうなんでもかんでも持ってくるのか。
「壊れた鏡だ。粉々の宝石もつかって、工作しようぜ!」
「でも、また――」
「工作しようぜ! どっちも壊れたものだから、誰も怒ったりしないって!」
気乗りしないリリィの発言を打ち消して、銀は鏡を長方形に切断していく。
不満げに後ろに立っていたエリオットも、器用な手さばきに、いつの間にか見入っていた。
「ここを、くっつけて。――こうして、こうじゃ!」
三角の筒に、小さな蓋のようなものができた。
「何コレ?」
「リリィ、この中にあの宝石を入れてくれ」
言われた通りに、瓶から小さな宝石粒を取り出して入れた。
「んで、こいつをくっつけたら出来上がり」
パーツをすべて結合したあとは、リリィが好みそうな花柄の端切れで三角錐の周囲を包んでいく。
我ながら綺麗な仕上がりになったと悦に入った銀は、ご機嫌でソレを差しだした。
「ここから、中を覗くんだ」
握らされた筒の穴の開いたところを指したので、リリィは受け取った筒を斜め上に掲げて中を覗きこむ。
「ふわぁ!?」
「万華鏡だよ。綺麗だろう。宝石で作るなんて贅沢品だぞ」
「まんげきょう?」
「こうやって、ゆっくり回すと、どんどん変わっていくだろう?」
「ふわぁぁぁ!」
赤、青、黄色、緑に紫。
リリィが粉砕したカラーストーンが、ゆっくりと動いて大輪の花のように視界を彩る。
窓の方に向き直ると、宝石の透明度があがり、瞬きまで加わった。
「綺麗! え、もっと別の色でも作ってみたい」
「おう! なら他の宝石も砕いちまおうぜ」
「え!」
「冗談だよ。でも、砕けたら、こうやって再利用すればいいだろう」
だから大丈夫だと励まされて、リリィに笑顔が戻った。
「僕にも、見せてください」
「おう、見ろ見ろ! 宝石の万華鏡なんて、まずないからな!」
「……悪くはないですね」
へそを曲げていたエリオットは、素直に褒めることができないようだ。
「最高だろ!」
「うん、すっごく可愛くて綺麗! エリオット、ここに立ってみると綺麗に光るのよ」
興奮するふたりに構われて、気持ちが柔らかくなっていったエリオットは、最後には「そうですね」と頷いた。
砕いた宝石に手付かずの装飾品、銀が城内でもらってくる廃材で、素敵なものが作れるなんて、とリリィは感激した。
元々資源の少ない西の砦では「欲しい物が無ければ作ればいいじゃない」精神が推奨されていた。リリィが廃材の工作に夢中になるのは予定調和だろう。
ふたりの工作に混ざりたいエリオットは、自国の宝物庫からめずらしい品を持ちだしてきた。
銀は興奮し、ダニエルが興味を示して参加メンバーが増えていく。
彼らがレアアイテムを発明するのは、また別のお話で。
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