選ばれたのは…?
「ほ~ら! これで倉庫で解呪した装飾品は実験資材に回してもらえるよ~!」
許可証を高らかに掲げ、鼻高々に見せびらかすダニエル。
「ありがとうございます。ダニエル様!」
胸の前で両手を組んだリリィは、小さく跳ねながら喜んでいる。
その様子を、ソファに掛けたアーサーが、じっと眺めていた。
(手堅いところを突いていったな)
くすねた宝石類を誤魔化すよういわれたリリィは、アーサーの作った魔法を宿す宝石を借りて、ダニエルに交渉することを選んだ。
『ダニエル様。解呪の宝石は人工魔石を作る資材によさそうです。見てください。大きさも透明度も最適ですよ』
近頃、西の書物の翻訳と陣の研究に明け暮れて、他事に一切目もくれなかったダニエルの視線が、宝石へと向けられる。
実は銀が装飾類をくすねてリリィと言い合いをしていたときも生返事をしただけで、状況は一切把握していない。
ダニエルの脳は、はじめて情報を受け取ったようだ。しげしげと魔法を宿した指輪を観察している。
『へぇ。――面白いね!』
『はい! こちらで使えるように回してもらうことってできますか?』
『ああ。元々呪の品々は城の目録にも登録されていないからね。なんとかなるよ』
研究絡みとなれば、ダニエルの行動は早い。
日頃から研究の邪魔をされる彼は、本当に必要なものを確実に入手する方法を隠し持っているのだ。
そのことを知ってか知らずか、ダニエルの研究にからめて問題を突破したリリィ。アーサーがみるに、気に掛けていなければ見過ごしてしまうほど、地味な立ち回りだった。
(普段から困り事は叔父上に頼んでいるから、特に悩まず聞いただけかもしれない)
アーサーは、リリィを特別視するに値しないのではないのではないか、と疑っているのだ。
(そもそも良い人材など、そうそういない)
血筋も、成績も、優良な人材を保証する定規にはなり得ない。
側近のディランが送り込んできた従者たちは、家柄も良く学園での成績も優秀だったが、相手するのは面倒くさいだけだった。
指示待ち、考えなし、配慮なし。困ればアーサーの名をだし、実家のコネと権力を使って強引に進めて亀裂を生むことまでしてしまう。
リリィの選択は無理がない。普通で、妥当で、凡庸だった。だからこそ――
(どうしてリリィは、叔父上に頼んだんだろうか)
そう、聞いてみたい気がした。
「なんで、アーサー殿にお願いしなかったんだ? リリィ」
銀だ。
部屋に持ち込まれた装飾品の選り分けをしていた彼は、最初にリリィとアーサーが一緒に戻ってきたことと、ダニエルに対応をお願いしたことに違和感を持ったのである。
「えー?」
「アーサー殿は偉いから、お願いしにいったんじゃないのかよ。断られたのか?」
「違うわよ。んーと。私の周りで一番お願いするのに適した人を考えるようにいわれたの」
「ダニエルより、アーサー殿だろう」
「んー」
最初から、リリィの選択肢にアーサーは浮かんでいなかった。
「アーサー殿下から、誰が一番良い人か聞かれたから、考えたらダニエル様だったの」
「いや、その振りは。アーサー殿に頼めってことだろう」
「銀、アーサー殿下は無駄なことが嫌いなの。そんな回りくどいことしないわよ」
きっとひとりで決めて、すべてを済ませて、許可書をリリィに渡してくれたはずだ。
いつもと違うから、なにか意図があると受け取った。
もちろん、その意図にはまったく興味がない。アーサーの話はいつも難しくて聞き流しているリリィは、必要なことだけを忠実に考えて実行したのだった。
「アーサーが考えるよういうなんて、めずらしいね」
甥っ子の普段と違った行動は、誰より周囲がどうでもいいダニエルですら興味をそそられたようで、会話に混ざってきた。
「ええ、まあ。そうかもしれませんね」
なにもかもを自分で済ませるのが一番楽で確実だと考えているアーサーは、見透かされていたことにショックを受けていた。
リリィと接した期間は短く、特別近しい間柄でもないから余計に驚いたのだろう。
(まあ、近しい間柄だから、わかりあえるわけじゃないからな)
仲の悪い父と叔父をみて育ったアーサーは、家族を理由に仲良くなれるわけじゃないと知っていた。
好意を向けてくる相手は数多いるが、アーサーを知ろうとする者は少ない。
だれもが理想の王太子を想像して、アーサーに接しているので当然であった。
(人間関係なんて、面倒で難しいものだ)
だから、余計なことは喋らないし、人に任せたりしない。
そう、決めている。
「この人工魔石なら、ダニエル様と一緒に研究するのにピッタリだって思ったんです!」
「そっか~! 中々可愛いことを言ってくれるね。おじさん、嬉しくてオヤツを奮発しちゃおうかな」
面白い研究資材に、懐いてくれる子供たちに。ダニエルのテンションはおかしくなっているようだ。
「叔父上、ほどほどに」
「そうだね~」
浮かれたダニエルに、アーサーの忠告は届かない。
賑わう研究室を、アーサーはそっと抜け出した。
彼は、リリィが凡庸なのかどうか、結論をだしかねていた。
普段なら、顔をみただけで相手の資質はある程度把握できて、接し方を決めてしまえるのに。
こちらが見定めるより先に、相手が見透かしているような感じがするので落ち着かない。
「気になる、か――」
どうかしていると、振り払ってしまうほうが楽な気がした。
ダニエルの研究室では、リリィが箱の中から、とびきり大きな宝石のついたペンダントを取り出していた。
「ダニエル様、この宝石で試してみてもいいですか?」
「すぐに実験するのかい?」
「はい!」
許可を得て張り切るリリィを、不満げな様子の銀が止めにはいった。
「おい、リリィ。いきなりそんな大きな石で試すなよ」
「さっきアーサー殿下が作ってるところみたから、大丈夫!」
「小さい宝石で試してからにしろよ。何事も試して確認するのは大事だろう」
早く作りたくて仕方のないリリィは、銀の真っ当な指摘を無視した。
「照明魔法!」
暗がりに明かりを灯す魔法。攻撃でも治癒でもない。簡単な家庭魔法なら繊細な加減も不要とばかりに、力いっぱい魔力を込める。
ミシミシ――バリン!
リリィの手の中にあった宝石が、粉々に砕けて床に散らばった。
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