どうするのか気になる
手のひらにのせると存在感のある指輪は、贅を凝らしたと主張するように大きな宝石が付いている。
持ち込まれた箱の中には、ほかには、腕輪に耳飾り、ティアラにペンダントがどっさり入っていた。
どれも透明度の高い大小さまざまな石が、贅沢に散りばめられている。
「装飾が派手過ぎるし宝石が大きすぎる。宝石商でも買い取りをする者は限られるだろうな」
アーサーが感じるに、この手の下品な華美さのデザインは貴族の間では流行らない。
装飾に負けない容姿とドレスを用意したところで、上品にはまとまらないので敬遠されてしまう。
宝石商も、買い取り後は、即、工房へと持ち込んで別の品へと加工をするに違いない。
一体、獣人はどういった理由で装飾品を選んだのだろうか。
もしくは、銀が好んだという可能性もある。
昨今、外交で他種族との交渉に明け暮れているアーサーは、亜人が何を好み、どういう条件に好意を示すかに、非常に興味があった。
手のひらの上の指輪を転がして角度を変えながら、宝石の瞬きや透明度をみて思考を巡らせている。
アーサーの沈黙に耐えかねた様子で、リリィがおずおずと口を開いた。
「きっと、深く考えずに持ってきちゃったんだと思うんです」
「そうなのか?」
何気ない弁明を口にしたところ、間髪入れずに追及がはいったせいで、リリィは言葉に詰まってしまう。なんとなく想像で語ったから、雰囲気で流してほしかったのだが、現実は想像していた話の流れとは違う方向へといってしまった。
「――聞いたわけでは、ないです」
気まずい。アーサーの視線に見据えられて、居心地の悪さが増していった。
「憶測をでないのであれば、安易に口にするのは控えたほうがいい」
自分がしでかしたことなら、理由を考えることも、取り繕って謝罪することもできる。
でも、人がしたことの理由など、考えたって分かりっこない。
(なんで、聞かれてもないのに、知らないことを話しちゃったんだろう)
安易な発言を諭されてしまったリリィは、親に嘘をついたことがバレたような居心地の悪さと似た感情に襲われていった。
「リリィが俺に教えてくれたことだ。他種族の考え方は違う、と」
「そう、でしたね」
どうやら、怒られていたわけではないらしい。
ほっとしたリリィは、起きてしまった宝石横領事件の清算しなければと思い直した。
「――でも、銀の主は私なので、私にも責任があるって」
「なら、リリィを従者にした俺にも、責任がまわってくるな」
「――そんなことは……」
ない、と言いかけて、リリィは言葉をのみ込んだ。
アーサーの言い分は正しい。
(どうしよう……)
軽率な行動で周囲に迷惑の輪が広がっていく。
そんなつもりじゃなかったのに。
そんなことをしたい訳じゃなかったのに。
言い訳じみた自己便宜が、心の全部を埋め尽くす。
噛み締めた唇が、ゆっくりと、への字に曲がっていった。
「どうにか誤魔化そう。大した話じゃない」
まるで絵に描いたように萎れていったリリィに、アーサーはちょっとだけ焦っていた。
従者になった自覚を少しづつもっていってほしいと会話していただけで、泣くほど落ち込ませたいわけじゃない。
それに、他種族の突飛な行動を事前に予測して問題を回避させるのは難しく、リリィひとりに責任を問うのは間違っている。
こほん、と小さく咳払いしたアーサーは、手のひらの上で転がしていた指輪をぐっと握りしめて、拳に魔力を集中させてみる。
特に考えての行動ではない。思いつきだったが、拳の中では興味深い反応があった。
「――へぇ」
発した魔力が吸い込まれるように消えていった。手を開くと、透明な石の中央には、小さな炎の揺らめきが瞬いている。
「え! なんですか、それ」
「呪が入っていたのなら、魔法も入るのだろうかと思って、試してみた」
「なるほど。どちらも属性が違うだけで、魔法だからですか?」
「そんなところだ。――これを使って正攻法で宝石を入手すればいい」
目を細めて、うっすらと笑みを浮かべたアーサーに、リリィはゴクリと唾をのむ。
(悪い顔、してるようにしか見えない……)
けれど、アーサーがまとう雰囲気は軽く、楽しそうな感じがするのはなぜだろう。
「リリィ、当ててみろ」
「へ?」
「これを使って、リリィが誰に何を、どうお願いすれば、上手く事が運ぶことができる?」
答えがひとつとは限らない。
問われたリリィの視線が宙を泳ぐ。最適解を探しているのだろうと想像がついた。
凡庸な容姿と自信のない振る舞いが通常運転だが、玉に空いた小さな穴に細い細い糸を通すような、目を見張る解決策を導きだすリリィ。
彼女がどう動きだすのか気になるアーサーは、静かに待つことにした。
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