リリィと祝福の飴ちゃん
「祝福の飴ちゃん」騒動、決着です!
赤と白のストライプの包み紙を両手で引っ張り、でてきたハート形の飴をみて、小さな溜め息をつく。
「可愛い……」
口に入れると、苺ミルクのあまい味が口いっぱいに広がった。
「美味しい……」
王都の食べ物、特に菓子類はどれも見た目が凝っている。
どこから食べていいのか悩むほど繊細な細工は、どれも心が躍るものばかりだ。
「ふにゅう……」
素朴な「祝福の飴ちゃん」は、どうしたって見劣りする。
きっと誰もがポピィのくれた飴を好むはずだと思えた。
「どうしよう……」
ひとりだけ、リリィの飴を欲しいといってくれる人がいる。
求められるままに渡してきたけれど、やはり最初に遠慮すればよかったのだと思った。
『作るなら、自分が美味しい! って思うものにしろ。こだわれ』
『一度ふつーに作ってみない?』
『効能がちゃんとわかる飴を作りたいんだけど、どうかな?』
周囲の遠回しな批判が、ついにリリィの心に届いてしまった。
(――もう作らない。頼まれたら断ろう)
祝福の飴ちゃん、製作終了のお知らせである。
****
「どういうこと!?」
「もう作るのをやめたの」
飴の在庫が減ったので次が欲しいとアーサーに頼まれたノアは、いつも通りにリリィへ補充を頼んだところ、お断りされた。
「殿下が欲しいっていってたよ!」
「ノア従兄さまのオススメの飴を渡してあげてください」
「そのために用意してあるわけじゃないから!!」
余計な詮索をする連中をかわすための代替品である。
本物の「祝福の飴ちゃん」を欲しがる王太子に渡せるわけがない。
「なんで、どうして。お願いだからいつも通りに作ってよ」
「……やだ」
「せめて作らない理由を教えてよ!」
「……ないしょ」
そのままピュッと逃げていった。
「えぇぇぇえ!」
突然の出来事に対応できず、ノアは逃げていく背中を見送ってしまった。
****
さて、「祝福の飴ちゃん」を作らないと誓ったリリィだったが、そう簡単にはいかなかった。
「リリィ、新しい薬草が収穫できたぞ!」
研究室の周辺で薬草のプランター栽培を世話している銀が、収穫したての材料を持ってくる。
「これは乾燥果物なんですけど、飴ちゃんの材料にどうでしょうか?」
飴作りにまざりたいエリオットが、自国から持ってきた材料を差しだしてくる。
好意を断るのは心苦しかったが、リリィは事情を説明したあと、ポケットからポピィにもらった飴をとりだしてみせた。
「「……」」
そろって微妙な反応が返ってくる。
「どういう意味?」
「いや~、だってなぁ」
「そうですね……」
「え、ええ!?」
てっきり可愛いと称賛されて、同意してもらえると思ったのに。
「女子が喜ぶデザインだろ」
「僕は、もう少しシンプルなものがいいですね」
「……そっか」
可愛い飴を手に取った銀が、口に入れてガリガリと噛み砕いて飲み込んだ。ありふれた飴の味がする。
「激甘だな。エリオットの持ってきた果物で甘味を足してみようぜ。――あとコレ美味いな」
「あっ、どうして銀が僕のもってきた材料を食べるんですか!」
「味見しただけだろ。ケチケチすんなよ」
ふたつ目を強奪した銀が、エリオットの目の前でわざとらしく食べる。
「お、おまえー!!」
材料は残っているが、隙を突かれて盗み食いされたのが許せない。
怒ったエリオットが手をだすとを、子犬に転換した銀が攻撃をひらりとかわす。
「ちょ、ちょっとふたりとも、やめてよ」
「へへっ。そら、もうひとつ、もーらい!」
「うわあああ!」
我慢のきかない堪忍袋の緒が解けて、エリオットが雄たけびをあげた。
「やめて、やめてよ。飴を作るの、手伝ってくれるんでしょ!」
銀とエリオットの喧嘩を止めるために、リリィは製作終了宣言を撤回したのだった。
****
ティナム伯爵邸。
学園から戻ったノアは、リリィにどうやって飴を作らせようか頭を悩ませていた。
正直、授業中も休み時間も、絶え間なくそのことを考えている。
ふと視線を感じて顔をあげると、少しだけ開いた扉の隙間から、ヘーゼル色の瞳が様子を窺っていることに気付く。
「どうしたの、リリィ」
「……」
飴を作らないといって逃げた日から、口をきいてくれなくなった従妹からの返事はない。
「リリィ?」
「……」
もう飴作りをせがんだりしないから、いつも通りに口をきいてくれないだろうか。
邸のなかでも避けられると、とても悲しい。
「……ノア従兄さま」
「っ!」
まるで心の声が聞こえたように、リリィが話し掛けてきた。
「お願いがあるんですけども――」
「なに!? どんなことでも教えてよ! ――っ!!」
慌てて駆け寄ろうとして椅子に足をぶつけた。
当たり所が悪かったようで、しゃがみ込んで立てなくなっている。
そこにリリィが近寄ってきて、ノアにそっと耳打ちをした。
「――――――そ、そんなのお安い御用だよ」
「本当? やった」
痛いのと安心したのとで、ノアは涙目になった。
「また、飴を作ってくれるのかい?」
「うん。だからノア従兄さまも、素敵なラッピング材料を選ぶの手伝ってね」
喜んだノアは、翌日にはリリィがドン引きするほどの材料を取り寄せた。
ほどなくして「祝福の飴ちゃん(改良版)」は、無事に王太子の元へと届けられたのだった。
「祝福の飴ちゃん(改良版)」を食べたアーサーの反応は、本編(第2部)に続いてます!
➡第2部:3.王太子の周辺事情(1)
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