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律儀な悪役令嬢と、家族公認の精霊

ハクルとの契約が、家族公認になっちゃいます!

「お願いっ!お父様!」

 私は、お父様の手を両手で握り、精一杯のかわいらしい顔をして言った。


 ルイスチアとて、もともとゲームのキャラクターである。ゲームのディスプレイで見た限りでは、顔の造形がとても美しい。自分で言うのもなんだが、まだ幼いながらに美しさとかわいらしさを兼ね持つ、とびっきりの美少女、ルイスチアちゃんなのである。


 そんな『かわいらしい』私の様子に、お父様は困ったように眉を下げた。

「でもね、ルイスチア。ルイスチアは女の子だろう?どうして急に剣を習いたいなんて言い出すんだい?」


 私は少し、うっと詰まった。『ここはゲームの世界で、私は悪役令嬢だけど死にたくないから』と答えると、護身術どころか病院に連れて行かれてしまう。


 私は、俯き加減の上目遣いで言った。

「護身術です、お父様…。女の子だからといって、自分で自分の身を守ることができなかったらいけないし、それに…」

 お父様は、それに?と首を傾げる。

「それに、お父様が剣を振っているのを見て、ずっとかっこいいな、と思っていたのです。私もお父様みたいになりたいし、明日、弟がいらっしゃったら一緒に学べるでしょう?」

 とうとう、死亡フラグの一つ、もとい弟が明日やってくるのだ。


 お父様が呆気に取られたような顔で私を見つめる。心なしか、瞳がウルウルしているように見えた。

「そ、そうか…!私はかっこいい、のか!」

 お父様の感極まったような声に、そこ?!と心の中で突っ込みながらも、私は大きく頷いた。

「ええ!お父様はかっこいいわ!とても素敵よ!」

 これもラリアと同様、我儘ルイスチアのときから思っていたことである。


 随分、ルイスチアは天邪鬼で捻くれていたようだ。我儘なところを除けば、私からしたらツンデレのかわいい妹を見ているような気分になってしまう。

 ——まあ、前世では一人っ子だったのだけど。


 お父様はニヤけた顔で思案し始める。

 …お父様、性格はいいのだか強面なのだ。厳つい顔をした、体格のよいおじさんが、中途半端にニヤけた顔をしているところを見ると、とても微妙な気持ちになる。


「そうだなぁ。私はいいと思うけど…。リュミエルがどう言うかだなぁ」

 リュミエル つまりお母様は、朗らかで明るい人である。それと同時に、とてもお茶目な人だ。

 祈るような気持ちで、お願い、お母様!と心の中で呟く。


 そのとき、待ち望んだ声が聞こえた。

「いいではありませんか、あなた?」

 そう、お母様が笑いながら立っていたのだ。

 お母様は、歌うようにつらつらと続ける。

「わたくしもルイスチアの意見に賛成ですわ。自分の身を自分で守れてこその女ですもの」


 そんなお母様に、お父様は慌てて言った。

「リュミ!駄目じゃないか、ゆっくり寝ていなけりゃ!また倒れたらどうする?!」

 必死なお父様の言葉に、お母様はころころと笑う。


「あら、別邸でいたときよりも、ここでいる方が元気になれるのですわ。この調子でいれば、新しい息子ともゆっくり過ごせそうですのよ」

 そうだ。お母様は別邸で療養中だったのだか、弟との顔合わせのため、急遽本邸へ帰ってきていたのだ。

 私が見た限りでは、野菜の食わず嫌いと運動量の少なさを改善すればよいと思う。


「うーむ…。よし、息子が来てから、一緒に学ぶことを許す」

 お父様の言葉に、私はとびっきりの笑顔を浮かべた。

「ありがとう、お父様!お母様!大好きです!」

 その言葉に、お父様とお母様は柔和な笑みを浮かべる。


『ちょっちょっ、僕のこと忘れないでよ〜』

 ほっこりとした空間の中、私の耳だけにのんびりとした声が聞こえた。

 のんびりとした声の主は、言わずもがなハクルである。


 本人によると、人間に姿を隠したつもりはないのに、誰も自分に気づかないどころか、声すら聞こえないそうだ。

 だから、契約を交わした人以外がいるときは、遊びとして、その本人の頭に直接語りかけるらしい。

「あ、ハクル。ごめん忘れてた」


 笑みを浮かべたまま、悪びれることなく小声でそう言うと、ハクルはむっと頬を膨らませた。

『まーいいけどさー。僕のこと、ちゃんと紹介してよねっ』

 拗ねているところに悪いのだが、ハクルが頬を膨らませても、ただかわいいだけである。

「はいはい、わかってるわよ」


 適当にあしらい、私はお父様とお母様に向き直った。

「お父様、お母様。一つご報告したいことがあります」

 お母様はうふっと笑い、頬に手を当てた。

「まあ、何かしら?お好きな殿方でもできましたの?それとも、肩あたりにいらっしゃる方?」

 お母様の言葉に、お父様は目を見開く。

「なんだ?!好きな奴なんていたのかっ?!許さんっ!」


 私は、お母様をまじまじと見つめる。

「好きな人なんていませんが…。お母様には、私の肩に何が見えますか?」

 お母様はそうねえ、と朗らかに笑う。

「小さな輝く光の球が、ふわふわと浮いているように見えるかしら」

 お父様は軽く目をみはった。

「そうなのか?!私には、そこだけ薄暗い影が見えるのだか…」


 二人の言葉に、ハクルはピュウ、と口笛を鳴らす。

『さすがルイスチアのご両親だね。精霊のことがぼんやりと見えてる』

 私は少し顔をしかめた。

「ハクルはちょっと黙ってて。後、口笛吹かないでくれる?ほんとに頭痛い」

 私の必死の抵抗に対し、ハクルは『はーい』と軽く躱した。


「そのことなのですが、お父様とお母様がおっしゃる通り私の肩の上に、先日契約した精霊がいます」

 じゃ、自己紹介よろしく とハクルに言い、私は素知らぬふりを決め込んだ。

 そんな私にハクルは苦笑し、両親の前に進み出た。


「はじめまして、こんにちは!僕の名前は、ハクルっていいます!ルイスチアと契約しました!よろしくお願いします!」

 勢いよく頭を下げてお辞儀したハクルは、ゆっくり顔を上げ、にっこりと微笑んだ。


 束の間、空間を静寂が覆い尽くす。そして、

「きゃぁぁぁあ、かわいいぃぃぃぃぃ!!!」

 という、珍しいお母様の黄色の叫び声が辺りに響き渡った。

 お父様はなぜか感極まったかのように、一人で頷いている。


「まあ、まあまあまあ!なんてかわいいのかしら、ハクルちゃん!」

 お母様は、いつもの淑女らしさを殴り捨て、ハクルを抱きしめ頬ずりし出した。

 そんなお母様の様子を見たお父様は、嬉しそうに微笑んで言った。

「ルイスチア、よくやった!あんなにかわいらしい女の子の精霊を連れてくるとは思わなかったよ」


 しばらく、私の中の機能が全停止する。

 お父様、今なんて言った?もしかして、ハクルことを『女の子』って言った?

 いや、どう見たってほとんど男の子だろう!確実に男の子とは、少し言うことを躊躇うほどの美しさだが。だか、あれは絶対男の子だ!


 数秒フリーズした私は、掠れる声を絞り出して「ありがとうございます」と言った。もちろん、天使の如き美しい笑顔付きで。


「では、そろそろ下がらせていただきます。ハクルと一緒にお喋りしたいですし」

 とりあえず、真偽をハクルに直接確かめることにした私は、お父様とお母様に適当な理由を説明して、退室の許可を取った。

………………………………

 自分の部屋へ戻ってきた私は、ハクルと共にラリアの淹れてくれた紅茶を挟みながら、ミニお茶会を開いていた。


「で、ハクルくん?私はあなたに聞きたいことがあるのですが?」

 にっこりと笑って見せる私に、ハクルもにっこりと笑って見せた。

「いいよ。どうしたの?ルイスチア」


 私は笑みを消し、真剣な顔で言った。

「あなた、性別はどっちなの?男の子?それとも女の子?男の子よね?」

 至って真剣な私に、ハクルは思わずといった様子で吹き出した。


「ぷっ、ふふふ、あははははっ!」

 あまりに楽しそうに笑うものだから、私はついむくれて頬を膨らます。

「そんなに笑わなくったって、いいじゃないの…」


 目尻に浮かんだ涙を拭いながら、ハクルは言った。

「ご、ごめんごめん…ふふっ。ぼ、僕は、男の子だよ…はははっ」

 ちっとも笑い止まないハクルを、私はキッと睨みつけた。心なしか、涙目になっている気がする。

「じゃあなんでお父様とお母様は、あなたのことを『女の子』って言ったのよ?」


 ようやく笑い止んだハクルは、得意げに話し出した。

「それはねっ、僕が皆からっ、女の子に見えるようにっ、精霊力をっ、使っているからっ!」

 所々声が震えているのだが、それは無視させていただく。考えれば考えるだけ、ハクルをおもしろがらせるだけになりそうだ。


 私は首を傾げ、どうやって?と視線で尋ねた。

 ハクルは未だに笑いながらも、へーんしん!と決め台詞を吐いた。

 その瞬間、ハクルの周りを光が包み込み、キラキラと輝き出した。

「わぁ」

 私は一言だけ呟いて、ハクルの美しさに見惚れてしまう。

 背中の真ん中まである白銀の髪に、長い睫毛が縁取る鳶色の瞳、微かに色づく桃色の頬。

 それはそれは美しくかわいい少女が、そこに立っていた。


「どお?かわいい?」

 柔らかく微笑むハクルからは、全身から光が溢れ出ているような、神々しさが漂っている。

「かわいい…。すごく綺麗…!さすがハクルね!」


 あまりのかわいさに負け、私はハクルに抱きついた。

「かわいい!綺麗!ハクル大好き!」


 私に抱きつかれたハクルは、顔を真っ赤にして手を振り回した。

「は、離せ!僕は男の子だよ?!ルイスチアだって女の子じゃん!離して!」


 もがくハクルから一旦離れ、私は笑顔を浮かべた。

「かわいさの上に性別はないの!男の子の格好のハクルには、さすがに綺麗すぎて勇気はなかったけど…女の子の姿なら大丈夫!」


 それを聞いたハクルは、急いで元の姿へ戻ってしまった。

「あーあ」

 眉を下げて残念さをアピールする私を無視して、ハクルはごほん、と咳払いした。

 そのハクルの頬が微かに赤くなったので、体調不良かと心配になる。


「ハクル、大丈夫?もしかして風邪ひいちゃった?」

 頬が赤いよ? と指摘すると、ハクルはジト目で睨んできた。

「大丈夫だから放っておいて。結局明日はどうするの?『死亡フラグ』の弟くんが来るんでしょ?」


 そうなのだ。とうとう明日になってしまった。

 ゲームでのルイスチアは、初めて義弟と会ったときに、両親が席を開けて二人っきりになったところで、いきなり罵ったり紅茶をかけたりしたそうだ。

 両親を失ったばっかりの義弟くんには、同じルイスチアとして、心から申し訳ないと思う。


 そのような行動を起こさないために、私にできることはできるだけ行った。

 例えば、当然のことだか、今まで迷惑をかけてきた侍女や執事の皆さんに謝ったり、身勝手な都合で辞めさせてしまった侍女たちの情報を集め、慰謝料を払ったりした。

 ちなみにその慰謝料は、ルイスチアが無駄に買い集めた、宝石を売り払ってできたお金である。

 まあ、辞めさせた侍女の多くは、仕事の時間に同僚の悪口を言ったり、悪意のある問題ばかりを起こしていた者ばかりだったから、幼いルイスチアには耐えられなかったのだろう。


 侍女、執事の皆さんはとても優しくて、今までのことを謝ったら、笑顔で許してくれた。

 本当にルイスチアと私は、いい人に仕えられている。


 もうこれ以上、私にできることはないだろう。

「大丈夫よ!きっと、なるようになるわ!」

 能天気な私の言葉に、ハクルは苦笑して頷いた。

「まあ、そうだね」

 でしょ、と微笑むと、ハクルは天使の如き笑顔を返してきた。本当にハクルは美しいと思う。

 ハクルと共に、何気なく楽しい雑談に励んでいると、いつの間にか晩ご飯の準備が整っていたそうだ。


 こんな、何気ない安定した日常が続けばいいな、と思いつつ、私は席を立った。


 転生者には、そんな平穏が最も遠いものだと私が気づくのは、まだまだ後の話である。

題名、わかりにくかったですかね…。

とうとう、次は義弟との顔合わせです!

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