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身軽な悪役令嬢と、花砂糖の精霊

花砂糖の精霊ですっ!

 庭をぶらぶらと歩き回りながら、私は精霊のことを考えていた。

 精霊は、出身鬼没の気分屋さんだそうだ。どの事典だったかは忘れてしまったが、そう書かれていた気がする。


 そう、出身鬼没なのだ。目の前にいる、このかわいらしい小さな子のように。


「ん…?目の前?」


 自分で思っておきながら、思わず二度見してしまう。

 そこには、にこにこと笑う掌サイズの精霊らしき者が一人。

 重要なことなので、もう一度言わせてもらおう。

 そこには、にこにこと笑う中性的な顔立ちの精霊らしき者が一人、花壇の端に腰掛けていた。


「ひ、ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」

 思わず、淑女らしからぬ悲鳴を上げてしまった。

 目の前の生き物は呑気に『まあまあ落ち着いて…』と、驚かせた本人のくせに宥めてくる。


 前世では悲しくも、彼氏いない歴=年齢ではあったが、私も花の女子高校生であった。このような叫び声を上げたことは、一度だってない。


 私はドレス姿であることも気にせずに近くの木の上によじ登る。

「なんなのっ?!あなた何者っ?!精霊っ!?」

 小さな生き物は、苦笑いしながら浮き上がってくる。

 「き、きゃあ!お願いだから理解する時間をちょうだいっ!」

 小さな生き物は、苦笑いを深めて頷いた。

 「いいよ。落ち着いたら教えてね」

 私はとりあえず深呼吸する。スーハースーハー、スーハースーハー。よし、少しだけ落ち着いた。


 私は目の前の生物を見つめる。とてもかわいらしい。愛嬌のある顔立ちに、くりくりとした鳶色の瞳。そして極め付けには、艶のある銀の髪がとても美しい。

 「ごめん、もういいよ」

 私がそういうと、彼は軽く笑った。…多分、『彼』だと思う。


「はじめまして、おねえさん?僕は、『花砂糖の精霊』だよ」

 花砂糖の精霊は、美しく、綺麗に笑う。

「僕と『契約』しない?」

………………………………

 私は木の上で花砂糖の精霊と話しながら、重い溜息を吐いた。

「まあ、だいたいの事情はわかったわ。それはいいんだけど、なぜ私と契約するっていう話になるのよ?」


 花砂糖の精霊は、かわいらしく首を傾げる。

「あれ?話してなかったっけ?」

 話してないわよ、と心で毒を吐きつつ、私は先を促した。


 花砂糖の精霊は、誇らしげに胸を張る。

「それは、花壇が綺麗だから!」


 …もう、何も言えやしない。無言の時間が三秒間、虚しく過ぎていった。


「ちょ、ちょっと!それだけ?それだけが理由なの?!」

 私の必死の抗議に対して、花砂糖の精霊は小首を傾げる。

「まあ、おねえさんの心が綺麗っていうのは少しあるけど、大きな理由はそこかな。後はなんとなくおもしろそうだったから!」


 …そんなキラキラとした純粋な瞳で言わないでくれ。なんだか大切なものを持っていかれたような気がするから。


 なんとも言えない喪失感を抱いていると、花砂糖の精霊がにっこりと笑う。


「なので、僕と契約してください!」

 輝かんばかりの笑顔に、私は溜息を吐いた。そんな私の様子に、花砂糖の精霊が文句をつける。


「ダメダメっ!溜息ばっかり吐いていたら、幸せが逃げちゃうよ?」

 私は大声で叫びたい衝動を堪え、小声で怒鳴る。

「誰のせいだと思ってるのよっ!…っとまあいいわ。後に置いておきましょう。

 で?どうやって契約するの?」


 花砂糖の精霊は嬉しそうに微笑んだ。

「まず、名前を教えてくれる?」

 あ、精霊の存在が強烈すぎて、完全に自己紹介を忘れていた。

 慌てて私は言う。

「私の名前はルイスチア。ルイスチア・ルシェルカよ」

 その言葉を聞いた花砂糖の精霊は、不満そうに頬を膨らませた。

「その名前じゃなくて〜。ううん、その名前もいるんだけど、真名の方は?」

 私は驚いて目を丸くする。

「真名って、パートナー以外に教えていいの?」

 パートナー以外はいけないって本に書いてあったけど?


 そう言うと、花砂糖の精霊は苦笑いを浮かべた。

「それ、厳密に言えば間違ってるね。精霊が人間と契約を結ぶためには、真名を含めた本名を名乗ってもらう必要があるんだよ」

 へーとも、ほーともつかぬような声を上げた私に対し、花砂糖の精霊はもう一度笑顔を浮かべ、無言で催促した。


「私の名前は、ルイスチア・ルチア・ルシェルカ。以後お見知り置きを。」

 真面目な顔になった花砂糖の精霊は、小さな手で私の手を取った。


「精霊王の名の元で誓う。我、花砂糖の精霊は、汝、ルイスチア・ルチア・ルシェルカと契約を結ぶ」

 花砂糖の精霊が言い切った瞬間、繋いだ掌が淡く輝く。

 暖かな輝きは次第に薄れてゆき、ふっと消え去った。


「できたよ〜。じゃ、僕の名前つけて!」

 花砂糖の精霊の嬉しそうな声に、私は目を丸くした。


「あなた、名前なかったの?」

 花砂糖の精霊は、さも当然といった風に頷く。

「うん、そうだよ。決まりとして、契約を結んだ相手につけてもらうことになってるんだっ!」


 キラキラとした瞳が、期待を含んで私を見つめる。

 これは、絶対変な名前はつけられない。

 元高校一年生の、なけなしの脳味噌を振り絞って考える。隣からの期待の眼差しが、なんだか少し申し訳ない。


「…じゃあ、ハクル。ハクルは、どう?」

 花砂糖の精霊は、視線で意味を尋ねてくる。

「他国の言葉で『砂糖』を意味するの。単純だけど、ハクルっていう言葉、私的には好きかな」


 花砂糖の精霊は、満足気に、嬉しそうに笑った。

「僕はハクルだよ!よろしくね、ルイスチア!」


 花砂糖の精霊——ハクルと私は、お互いを見つめ合い、にこっと笑った。

今回は、かなり少ない量になってしまい、申し訳ございませんっ!

かわりと言わせていただきますが、おまけをつけておきまっす!


………………………………

〜ルイスチアとハクルのお茶会〜

 私はラリアの入れてくれたお茶の香りを楽しみながら、目の前でパリポリとお菓子をつまむ精霊を睨んだ。

「あなた、精霊のくせにお菓子を食べれるなんて生意気ね」

 お菓子を食べれる精霊 ことハクルは、私を見つめてにっこりと笑った。

「なんといっても、僕は『お砂糖』だからね。当然甘いものは食べれるよ?」

 偶然を装いながらも、言葉の端々に嫌味を交える様子からして、かなりの修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。

 ハクルが私と契約を交わしてから一日。明後日には、義弟との顔合わせが迫っていた。

 ゲームとはかなり違いが出ているとはいえ、死亡フラグの一人がやってくるのを黙って見つめているのは気が気でならない。

 サクッとしたクッキーの味を楽しみながら、私は重い溜息を一つ吐いた。

 そんな私の様子に、ハクルが形の良い片眉を上げ、どうしたのさ、と言った。

「どうしたのさ?ルイスチア、さっきからいかにも『私は悩んでいます』ってオーラ振り撒いてるよ?話だけなら聞いてあげようか?」

 ハクルの申し出に、私は弱々しく頷く。

「もし、ハクルの周りに、これでもかっていうぐらい死亡フラグがたくさん立っているとするよ。そんなとき、明後日にとても確実なる死亡フラグがやってきたとしたらどうする?」

 私の深刻な悩みの質問に、ハクルはん?と首を傾げた。

「死亡フラグって、何?」

 ああ、と私は呟く。そういえぱ、ここは日本じゃなかった。『死亡フラグ』っていう言葉がないんだっけ。

「死亡フラグっていうのは、ある人物が死亡したときに、生前に特定の行動・発言をしていたために死亡が確実になったとされる、一種の説のこと、らしいよ。要は、死亡が確実になるための原因みたいなもののこと、かな?」

 ハクルは綺麗な顔に皺をよせ、考え込んだ顔をする。

 そして、いい笑顔を浮かべた。

「うん、力と魔法を身につけて、その『フラグ』とやらをボコボコにする!」

「うわ、思ってた以上に好戦的な言葉が返ってきたわ」

 つい、輝く笑顔と裏腹に、過激な内容を話すハクルに突っ込んだ私は、とても重要なことに気がついた。

「そっか…。力をつければいいんだ…。魔法も練習して…。剣術も!いっそのこと、男装してみるか!」

「あの…ルイスチア?あくまで例えだからね?」

 困ったような顔で言うハクルに、私はとびっきりの笑顔を向ける。

「うん!わかってるから大丈夫!あくまで例え、なんだね!」

 そしてハッと思いついた。

「こうしちゃいられないわ!部屋に戻ってノートに全部まとめなきゃ!ハクル、名案ありがとう!大好きだよ!」

 私はハクルを抱きしめ、額にキスを落とした。


 バタバタと部屋に戻った私は気づかなかったのだが、一人残され、額を押さえながら真っ赤になったハクルは、

「あのっ…!天然人誑しルイスチア…!」

と呟いていた………そうだ。

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