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マスカレード高校 〜貴方は貴女?〜  作者: 白井流川
プロローグ的な
1/7

1 こんにちは私

私の完全な趣味です。連載のペースがどのくらいになるのか難しいところですが、月に2〜3回のペースで進められたら良いなと思っています。

 どうしよ。どうしよ。胸がない。胸がない。いやあったのか怪しいけれど。でも胸は女の命。であり希望。そう、希望は生きるための栄養。私は今栄養を失った。ならどうやって生きれば良い? 分からない。分からない。こうして15年生きてきたのだから。

 ん? あれ? パンツが少しもっこりとしている……。ま、まさか!? いや待て。少し落ち着け。そうだ、深呼吸。深呼吸。

 す〜。鼻からひんやりした心地良い風が肺に届き、新鮮な空気が頭一杯に広がる。

 ……は〜。不安や焦りが口から抜けていき、穏やかな気分になる。

 深呼吸を何度も繰り返すと幾分か冷静さを取り戻したので、バチィン!! と太ももとお尻の付け根辺りを手のひらで左右同時に響かせた。よしっ!! もう大丈夫。大丈夫。私は女だ。私は女だ。私は……ぉおんなだああ!!

 雄叫びのような声が漏れてしまったかもしれないけれど、そんなことはどうでも良い。今は自分の身体が1番の心配だ。ピンク色の小さなリボンを着けた、可愛らしいパンツをほんの少しだけ横にずらすと……、


「あっ、はい」


 単なる事実確認に終わった。

 お父さん、お母さん。百合美(ゆりみ)は元気です。

 感情に踊らされたことで疲れがどっと押し寄せたのか、百合美は着替えの途中でベッドに顔を落とした。



「ん、ん〜〜。ふ〜う、よく寝た〜」


 しばらく経つと、百合美は目を開けて上半身を起こした。腕を高く上げて腰から背中を軽くのけ反らせながら伸びをすると、さっき見た夢が馬鹿らしく思えてくる。


「さてとっ、着替えよっかな〜。」


 百合美にとっては今日初めての朝だと思い込んでいるのでいつものように鼻歌交じりで着替えをしようとした。しかしすぐに手を止めてまばたきを繰り返す。


「えっ……? う、嘘……」


 それもそのはずで、脱ごうと思ったシャツはベッドの上に無造作に置かれていて、自分の体は既に下着姿になっていたのだ。


「あ〜あ」


 百合美は深い溜息を落とすと、そのままベッドに体を預けた。

 やっぱり現実か。膨らもうとしていたであろう胸、さようなら。そしていらぬ気遣いどうも。私のお股に置土産を残してくれたのね。邪魔で仕方ないわよ。まあ、それ以外は特に変化がなくて良かったわ。さっきはかなり動揺したけれど、今からこうして第2の人生を歩めると思うと、なんか心躍る自分がいるみたい。いやけどどうしよっかな。このまま女性で押し通せる気もするけど、男性として生きるべきなのかな?

 百合美は来年度から高校への入学が決まっている。百合美が行く高校は珍しく女子と男子とで制服を分けているわけではない。例えばスカートが苦手な女子はズボンを履いていたり、女装が似合う男子がいたりする。とはいえ、殆どの生徒は男子がズボン、女子がスカートを履いている。その点では今の身体になってしまった百合美にとっては不幸中の幸いといったところだろうか。


「うへぇ、さみぃー」


 日が昇るのが早くなったとはいえど、早朝はまだまだ冷える。不意に来た寒気に、百合美は腕を交差させるようにして肩を擦りながら急いで着替えた。

 百合美は脱いだ服を洗濯カゴに入れに行くついでに、洗面台の前に立って顔を洗うと、目の前には見慣れた自分と目が合う。


「よかった。顔は変化なしか」


 男性とも女性ともとれるその顔に安堵すると、そのままリビングへと向かった。


「おはよ……」

「おはよう。もうすぐパンが焼けるから準備してね」


 台所では百合美の母親である牡丹(ぼたん)がクラムチャウダーをよそっている。それを横目に、百合美は軽く色付いたトーストにバターを塗る。


「続いてのニュースです」


 と、テレビは今話題の原因不明の病気について述べていた。


「そうそう、結構流行っているみたいなのよねぇ。この前なんか買い物中にばったり中学の友達にあったんだけど、その人の旦那さんがかかったみたいで」


 と言いながら母はクラムチャウダーが入った2つの器を持って来ると話を続ける。


「『今更胸が着いたところで何ができるってんだよ。なんだよこれ。肩凝るわ、締め付けられて苦しいわで、誰得だよ』って言っていたらしいわ」

「……へ、へー……。そうか可哀想に」


 は? こっちは無い胸を更に奪われた挙げ句になんか変なモノが着いたんだよ? 肩凝る? 知らないよ。いやほんと。私がお腹を下すまで牛乳を飲んでもなお胸は一向に膨らんでくれないのになんで? なんで? お母さんは毎日肩凝りが辛いって言っているのになんで?

 百合美は母の話に薄っぺらい返しをした後に、母の胸へと目をやったがすぐに自分の胸を睨んだ。


「さ、それでは頂きましょうか」


 2人はいただきますと言うと、少し遅めの朝食をとった。

 塗っていたバターは全体に広がることなくトーストに染み込んでしまったため、食べていくと中央部だけがしょっぱく感じたのでクラムチャウダーで飲み込んだ。


 こうして百合美の第2の人生は始まったのだった。

いちゃいちゃするのは少しお話が進んでからになります。

少し修正しました。

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