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数奇な運命

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 K氏はある日、川沿いで散歩をしているとスケッチブックを見つけた。何気なく拾ってパラパラとページをめくるとなにも書かれていない。表紙は真っ黒でいたって普通のスケッチブックだった。紙をが貴重なK氏にとっては嬉しい落とし物だった。K氏はそれを橋の高架下の段ボールの家に持ち帰ると、時間もあるので拾った鉛筆で絵を描くことにした。彼はお腹が空いていたのか、何気なくおにぎりを描いた。すると突然、スケッチしたおにぎりが膨らみ始めた。K氏は驚いた。見る見るうちにそれはリアルなおにぎりになった。

 K氏は初め、ことの状況が理解ができなかった。自分の描いた絵の通りのおにぎりがスケッチブックの用紙の上に現れたのだ。K氏はしばしおにぎりを見つめた後に一口だけ恐る恐る食べた。

「うまい・・・」

 ホームレスのK氏は久しぶりに食べるおにぎりに感動して、ものの10秒で完食をした。

 どうやら、とんでもないものを拾ってしまったらしい。K氏はおにぎりを食べ終えるとようやく起きたことを理解することができた。

 K氏は次のページをめくり、もう一度、おにぎりを描いた。そしてK氏ははおにぎりの上に梅干しも書き加えた。するともう一度、スケッチしたおにぎりは膨らみ始め、用紙の上に現れた。しっかりとスケッチした通りに梅干しも乗っていた。

 K氏はその後も飲み物や洋服、靴など、自分の生活に必要なものを次々とスケッチをして手に入れた。そしてK氏は毎日の食事と日用品でかなりの枚数を使ってしまった。こんなものは二度と手に入らないだろう。K氏は残りのスケッチブックはよく考えてから大切に使うように心に決めた。


 そんなある日、台風が上陸して大雨になった。高架下は川の影響を受けるために、K氏はいつも通り公園の遊具に鉛筆とスケッチブックを抱えて避難していた。公園の遊具の中はよく冷えた。冷たい風が通り抜け、雨で気温は下がっていった。

「はあ、早く止まねえかなあ」

 K氏の目に公園の向かい側の家が目に入った。カーテンが少しだけ開いており、中の様子が見えた。子供たちがソファーでジャンプをしている。母親がそれを注意して子供を抱きかかえている。子供はけたけたと笑いながら暴れ回っている。こんなに外は寒いのに、家の中だとなにも起こっていないように感じる。

「家があればなあ」

 そう一人呟いて、K氏ははっとして手に持っているスケッチブックに目を落とした。もしもそれができるとするのならば・・・試してみる価値はあった。


 翌日、K氏は高架下に戻ると、家をスケッチすることにした。

「(今までスケッチブックで書いてきた洋服や靴はなぜだか全て自分にぴったりのサイズで現れた。おにぎりは大きなものを食べたいときには大きなものが出てきた。もしもスケッチブックに書いたものに自分自身のイメージが反映されていると仮定するのならば、家だって、この高架下にピッタリのサイズで出現してくれるはずだろう)」

 K氏は朝から夜までたっぷりと時間をかけて家を丁寧に書き上げた。内装は描くことができないため、鮮明に自分の住みたい内装をイメージしながら鉛筆を動かした。そしてついに、K氏は家を書き上げた。その途端、スケッチブックが震え始めた。K氏は家が立ってほしい位置にスケッチした紙をちぎってを放り投げると、距離をとった。

 スケッチした紙はいつもの通りに盛り上がり始めた。

「よし!!!やっぱりきたぞ・・・!!!」

 K氏はその様子を眺めて興奮した。自分の喉から手が出るほどにほしかった家が今目の前の現れようとしていた。家は膨らみ続けてどんどん大きくなっていった。そして、高架下に収まるほどのサイズになると膨らむのが止まった。K氏は奇跡を目の当たりにしてしばらく放心していた。

 家に入ると、さらに驚いた。自分のイメージして書き上げた内装がそのまま具現化されていた。広々としたリビングに自分専用の一人部屋。トイレにお風呂。テレビまでもが完備されていた。

「なんてことだ。家を描いたことで、様々な家具が手に入った。これは新しい発見だ」

 K氏はスケッチブックの奥深さに感動して、この夢をかなえてくれるスケッチブックをもっと大切にしなくてはならないと考えた。


 しばらくして、初の来訪者が現れた。K氏が覗き窓を覗くと、少年が一人、玄関先に立っていた。何のようだろうとK氏が扉を開けると二人はK氏の写真を撮り始めた。K氏は不快に思い、少年に質問をした。

「何だね。やめなさい。何かようかね??」

 少年はなにやらにこにこしながら答えた。

「おじさんの家有名だからおじさんの写真もっと取らせてよ」

 言ってる意味がわからずに、K氏は質問を続けた。

「有名?何で私の家が有名なのだ?」

「おじさん知らないの?ほらこれ見てよ」

 少年は自らのスマートフォンをK氏の前に差し出すと、あるインターネット記事を見せつけた。

 K氏は記事を目で追った。

『「高架下に一軒家があるんだがwww」

  1.名無しさん@暇人

   俺、〇〇に住んでるんだけど、つい最近高架下の道路から見えないところに一軒家が建っててびびったわwwwこれって違法じゃないの?詳しい人教えてくれ。

   http://asfejifjrgrglejgoikloutyeikijfifrt.com


  2.名無しさん@一周年おめ

   これまじ??www


  3.名無しさん@86

   >>2

   くだらな。絶対合成だろ。

  

  4.名無しさん@暇人

   >>3

   まじだって。何なら住所晒せる。


  5.名無し@昆布

   ホームレスがホームレス界で成り上がってて草wwwwww


  6.名無し@一周年お目

   >>5

   草に草生やすな


  7.名無し@86

   >>4

   住所はよ

   

  8.名無し@暇人

   〇〇の〇〇〇〇。川沿いの高架下に入ってすぐのところにある。』


 何だこれは。K氏は驚愕した。このあたりに住む何者かがK氏の家をインターネット上にアップして家の知名度が上がっていっていた。

「いいか少年。撮った写真を絶対にインターネットにはアップするなよ。これ以上広めるんじゃない」

「わかりました」

 K氏は少年を追い返すと、焦り始めた。警察が来るのも時間の問題だ。すぐに何か策を練らなければならない。何か武器を描くか?いや戦って追い払うのは現実ではない。

 考え抜いた末、K氏にあるアイデアが浮かんだ。そしてすぐにそのアイデアを実行に移した。


 数日して、K氏の家のインターホンが再び鳴らされた。覗き窓を見るとそこには男性の警察官二人が立っていた。K氏が玄関の扉を開けると警察はいった。

「Kさんですね?警察のAと申します。あなたのこの家が違法に建てられたものではないかと近隣の方々から何件か通報がありましたのでご確認に伺いました。土地の登記事項証明書などはお持ちでしょうか?」

「少しお待ちを」

 K氏はリビングの書類ケースから行くとかの書類を取り出すと、警察に全て手渡した。警察は二人でしばらく書類を見た後に、渋々うなずいた。

「確かに。ここはあなたの土地みたいですね。詳しく調べる必要があるためにこれらを預かってよろしいでしょうか?」

「はい。コピーでよろしければ、構いませんよ」

 そう言うと警察は帰っていった。K氏は先手を打っていたのだ。まず売っている土地を描いた。そしてそれを自分の家のある箇所に出現させた。K氏にとって一か八かではあったが、このへんの土地を取り扱っている会社に電話をすると、不思議とその土地が存在することになっていた。そしてそこはもうすでにK氏の土地として登録されていたのだ。

 その後、警察が来ることはなかった。K氏はこの一件でもスケッチブックの可能性を垣間見ることができた。


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