13 三人寄れば猫の知恵
13 三人寄れば猫の知恵
金曜、午後。中学生が考えた児玉市再生プロジェクトのプレゼン当日。
約束通り、大平さんはよっちゃんを説き伏せて、聞きに来てくれた。
「呼んでくださってありがとう。とっても楽しみ。」
猫柄のカバンを携えたよっちゃんは、会場の後ろの席に大平さんと共に陣取った。
地域の方も期待して聞きに来てくださるということで、生徒のモチベーションも上がっている。
校長もデジカメを準備して待ち構えている。
児玉市再生プロジェクトの取り組みを最初に持ちかけたとき、校長はそこまで乗り気ではなかった。しかし、総合の時間、生徒が活動している様子をちょこちょこ見に来ているうちに、徐々に気持ちが変わってきたようだ。
「何より、一人一人が自分でしっかり考えているっていうことが素晴らしい。これぞまさに『主体的』な取り組みですね。」
さらに
「生徒が頑張っている姿を、いろんな人に見てほしいです。」
ということで、今日のプレゼンの様子も、児玉中のホームページでアップしてくださるという。有難いことだ。
そんな話を子供たちにすると、さらに意欲は高まった。
いよいよプレゼン開始。
3Aと3B、一クラス四グループで計八グループ。
トップバッターのグループは、「焼き物よ再び」というテーマで挑んだ。
「児玉市を通過して隣の県にいく観光客を呼び込むんです。特に外国人観光客を。土ひねり体験によって、日本文化を味わってもらいます。」
「今でも児玉市のふるさと納税返礼品には、児玉市で作られた焼き物がありますが、それに、土ひねり体験のチケットを加えます。」
「隣県の城とコラボして、城の入場券と児玉市の土ひねり体験のセット割引。」
土ひねりの映像や返礼品の焼き物の写真などが、プロジェクターにつないだ教材提示装置で、前面のスクリーンに映し出される。
プレゼンに対して、早速質問が出た。
「土ひねり体験というのは、いろんなところがやっています。児玉市の独自性はあるのでしょうか。」
「隣県とコラボするというのがポイントです。」
「しかし、県外とのコラボはなかなか難しいのではないでしょうか。向こうは観光地としてすでに定着しているのだから、受けてくれるかどうか。」
なかなか鋭い意見が飛び交う。
二つ目のグループの提案は「ゆるキャラ・こだまん」。
かわいいイラストも使用してのプレゼンだったが、
「どこの自治体でもしている。」
「こだまんのキャラ設定が弱い。」
ということで、評価は今一歩だった。
三つめは「IT企業の誘致」。
「観光客を呼ぶだけでは、税収の伸びは低い。企業誘致、その中でも、今、時代の先端をいっているIT企業の誘致、これを積極的に進めればよいと思います。」
「児玉市は温暖な気候で地震や台風などの自然災害も少なく、海あり山あり、絶好のロケーションに恵まれています。温泉もあります。これを前面に押し出して、誘致に乗り出します。」
「これをご覧ください。」
写真が提示された。
「これは、和歌山県白浜町の貸しオフィスビルの写真です。白浜町は、元々保養所だったこの建物をリノベーションして、IT企業を誘致しました。オフィスとビーチにWiーFi環境を整えたそうです。海の見える素晴らしいロケーションのこの場所で働き、疲れたら温泉に入ってひと休み。ストレスをためずにリフレッシュすることができ、生産性が二十%向上したそうです。この取り組みは、体験=ワークと、休暇=バケーションを組み合わせた『ワーケーション』という発想です。パソコンを使ってリゾート地で仕事をする、この働き方は海外でも定着しているそうです。」
「児玉市にも海と温泉があります。この資源をしっかりアピールし、活用すべきだと思います。児玉市の良さを伝えて、IT企業を誘致し、安定した税収を確保する、これこそが児玉市の生きる道だと思います。」
プレゼンが終わると、大きな拍手が起こった。
「いやあ、すげえなあ。中学生がこんなことを考えるのか。」
大平さんが小さな声でつぶやくのが聞こえてきた。生徒からは賛同する意見も出たが、疑問も示された。
「ワーケーションという新しい概念。素晴らしいと思います。ただ、白浜町は、もともと南紀白浜温泉地して有名な観光地だった場所です。リゾート地としてのネームバリューや実績があっての誘致成功ではないでしょうか。児玉市にも温泉は確かにありますが、ちっちゃいし、そこまで有名ではありません。はたして企業がその気になってくれるかどうか。」
「そこは熱意で。」
「う~ん。答えとして弱いなあ。」
四つめのグループは「児玉市B級グルメ」を提案した。
「海の幸、山の幸を生かした『児玉ピザ』を提案します。海でとれた穴子や牡蠣などのシーフードと、山でとれたキノコがたっぷりのったピザです。それを児玉焼で作った焼き釜で焼くのです。遠赤外線効果で、おいしく焼き上がるというのが売りです。」
「児玉焼の焼き釜って、本当にあるんですか?」
「いえ、作ってみたらどうかなと思って。」
「実現可能かどうかは、微妙ですねえ。」
五番目のグループは「児玉市で素敵な田舎ライフ」というコンセプトで起案した。
「先ほど、観光客だけでは税収につながりにくいという意見がありましたが、私たちも同意見です。」
児玉市の人口推移グラフが提示された。
「このグラフからわかるように、児玉市の人口は急激に減り続けており、ここにストップをかけねばなりません。」
「私たちは、児玉市に移住してくれる人を募集したらいいと思います。これも、先ほどの提案とかぶるのですが、児玉市は、海、そして山、自然に恵まれた素晴らしい場所です。今、都会暮らしに疲れた人たちが、田舎で暮らすというのがプチブームです。そんな人たちに、ネットで情報発信して、児玉市に移住してもらいましょう。少子高齢化を食い止めるのです。」
「まず、児玉市で休耕地となっている田んぼや畑を調査して、それを『貸し農園』として移住者に貸します。空き家情報も市で管理して、格安の値段で移住者に貸し出します。必要なら、古民家のリノベーションというのもありだと思います。」
日本各地で実際に行われている貸し農園のデータ、現代風にリノベーションされた古民家の写真などに、「お~」っと、どよめく声。
「ステキ。こんな家なら私も住んでみたい。」
「でも、リノベーションって、お金かかりますよね。児玉市はそんなお金、ないですよ。」
「じゃあ、そこは利用者負担で。」
「それじゃあ、わざわざ児玉市に移住するメリットが弱いなあ。」
「貸し農園も日本全国ではやってるのなら、『ぜひ児玉市で』っていう必然性がないかもしれない。」
六番目のグループは、若者の流出を防ぐため、市内に若者に喜ばれるスポットを作ろうと提案した。
「だって、今、何にもないんですよ。映画館もない。マックもない。そりゃあ、都会に出たくなりますよ。」
「でも、それこそ、お金がかかるし、作っても人が来なくて経営が成り立たないんじゃない?」
「……確かに。」
七番目のグループの企画は、「海街留学」というものだった。
「今、山村留学、離島留学というものがあるのをご存じですか? これは、小中学生が自然豊かな農山漁村に一年間単位で移り住み、現地の学校に通いながら休日などを使用して、その土地、その季節ならではのさまざまな体験を積むことによって、豊かな心を育み生きる力を身につけるというものです。」
「児玉市は、海あり山あり、様々な活動が可能です。一年間かけてじっくり児玉焼に取り組むこともできます。」
「海という資源を使った活動として、シーカヤック、釣り、地引き網、魚介料理作り、貝殻を使ったクラフト作りなどが考えられます。」
この企画には疑問が出された。
「確かに面白い企画だとは思うけれど、これがはたして児玉市の再生につながるのでしょうか。」
「海街留学って、そんなにたくさんの人数を受け入れるわけではないですよね。しかも、一年限り。人口増加にはつながらないんじゃないかなあ。」
「テレビでどこかの離島留学を取り上げていたのを見たけれど、あれは、もっと過疎化が進んで、学校の存続すら危うい、子供が島にいないという、危機的状況を救う手段ということだった。児玉市の現状とはちょっと違う気がする。」
さまざまな意見が飛び交った。




