1 プロローグ ~桃栗三年猫五年~
大好きな「猫」を軸に「街おこし」ができないかと、妄想してみました。
現実の厳しさに、心折れそうになることもありますが、「夢」を追ってみました。
長い目で見ていただいて、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
※「第八回ネット小説大賞」二次選考通過しました。残念ながら、最終選考には残りませんでしたが、このテーマで、10332作品中の76作品に選ばれたことが、奇跡だと思っています。ありがとうございました。今後も、いろいろな方に読んでいただけると幸いです。よろしくお願いします。
1 プロローグ
~桃栗三年猫五年~
十月の風がさわさわと頬をなでる。足下の草が揺れる。あの夏の暑さは嘘のように影も形もない。人間、喉元過ぎれば熱さを忘れるとは、実によく言ったものだ。
公園の青々とした芝生を踏みしめ、栄子は大きく深呼吸した。
ふと気づけば、一匹の猫がすり寄ってくる。
「くろこ」と栄子が名付けた黒猫だ。魔法のステッキのような長いしっぽを、栄子の足にからめてくる。どうやら、今はかまってほしいモードらしい。
「よしよし。愛いやつよのう。」
栄子が耳の後ろをなでると、ぐるぐるという喜びの音を発しながら、くろこは横向きに寝そべった。「もっとなでて」と言わんばかりに細い目で栄子を見上げる。猫の「ぐるぐる」には猫自身を癒やす効果があると聞いたことがある。そして、それを発している猫だけでなく、そばにいる人間をも癒やす働きがあると栄子は思う。他ならぬ六十四才の栄子自身がまさに癒やされている。
振り返れば、この五年間、本当にめまぐるしい変化があった。
この町は変わった。
人も変わった。
猫も変わった。
学校も変わった。
中学生も変わった。
そして、何より、栄子自身が変わった。
始まりは何からだっただろうか。白髪の増えた頭をひねりながら思い出す。
そう、きっかけは、「酷暑」と「働き方改革」と「一本の映画」と、そして、「猫」だった……。