荘司哲也さん用ページ
佐久間仁 男 35歳
ぶっきらぼうだけど部下に優しいサラリーマン
部下の女の子の一生懸命な姿に……
①月曜日
じゃ、お前に改めて今後のフローを説明しておくけど。オリエンテーションでも説明を受けたかもしれないが、うちは基本ペアで動く。どちらかの不足をもう片方で補うためだ。そうして商談時に持ち帰る課題を最小限に抑え、クライアントの満足度に繋げる。決して若いやつだけが補われるほうとは限らないからな。考えられる出来る限りの状況に備えておくんだ、わかったな。
それから、質問が多いことは悪じゃない。むしろ不明点をそのままにしておくことのほうがこちらとしては困る。俺が入社したのはもう何年も前だからな、お前が何に躓くかも予想がつかないんだ。悪いが、わからないことがあれば必ず俺に聞いてくれ。全体のチームもまとめているからずっと構ってやれるわけではないが……まあそこはうまくやるから心配しなくてもいい。で、俺が、お前のパートナーになる佐久間だ。歳は35、犬か猫かだったら猫派だ。……？なんで笑うんだよ？……意外？そうか？昨日お前達新入社員が入ってくるにあたって会議が開かれてな。最初の印象が肝心だと言われたんだ。俺は人当たりがいい方ではないからな、部長に動物の話は間違いないと聞いたから言ってみた。……そうか、笑ってもらえて良かった。それじゃあこれからよろしく頼む。
②火曜日
ありがとうございました。それではご検討よろしくお願いいたします。はい、失礼いたします。
……お疲れ。うん、良かったんじゃないか？あの企画書はよく出来てたし、クライアントの反応も悪くなかった。昨日頑張って作ったかいがあったな。
まあ確かに俺が色々と手を加えたか。……じゃ、この契約は俺の手柄ってことで。……(少し笑う)冗談だ。俺が触ったのはデザインの部分で、大枠と内容はお前が考えたものだ。ここは素直に喜んでおけ。……あ、悪い、年の離れた妹がいるせいか、つい癖で頭撫でちまった。前にも男の部下に同じようにしてしまって、注意されたところなんだよ。
最近はなんとかハラスメントとかって注目されてるしな……すまない、気をつける。
それじゃちょっとカフェに寄って帰るか。戻ったらまたこの件をまとめないとな。……え？いいんだよ、たまには。俺だって毎日寄り道して帰ってるわけじゃないが、こういうこともないと仕事なんて頑張れないだろ。…部長には内緒な。
③水曜日
へえ……器用なもんだな。ああ、悪い、さっきお前の周りに人が集まってたから気になってな。この弁当を見てたのか。……自分で作ったのか？朝も早いのによく毎日作ってくるな……。料理が得意だなんて知らなかったな。いいじゃないか、俺はそういうのは全く出来ないから尊敬するよ。
俺か？今日はコンビニに行く暇も無かったし、もう良いかと。一食くらい抜いたって大丈夫だろ。え？…いいよ、それお前のだろ、俺に分けなくていいから。ああ……そういやさっき営業が差し入れ持ってきてたな。それで、腹がいっぱいだって？ったく…ほんと断れない言い方するよな。違う、迷惑なわけないだろ、美味そうだからちょっと気にはなってたし。……そんなにわかりやすいか？俺。あんまりそうは言われないんだけどな。
はは、ペアのカンってやつか、まあ悪い気はしないな。じゃ、いただきます。(食べる)……うん、うまい。ああ、なんか久しぶりに人が作った弁当食った。……そう、いつもコンビニ弁当で3食済ましちまうから。嫌いじゃねえんだけど、やっぱり手作りとは違うな。ありがとう、お前のおかげで午後も頑張れる。なーんて、……ふっ、自分が食わせたくせになに照れてんだよ。
④木曜日
おい。……もう遅いから帰れ。……いいから。言っただろ、ペアにしてる理由。何のために俺がいると思ってる。それはお前だけのミスじゃない、防げなかった俺にも責任はある。
それに、これは取り返せる案件だ。やりようによってはうまく繋がる。……俺が繋げる。
だからお前は帰れ。切り替えて、で、明日また笑顔で会社に来い。そんな顔してたら上手くいくもんも駄目になるぞ。
……泣くなよ……、あー…このハンカチ使え。はやく取れって、ほら、スーツが濡れるだろ。あ、ちゃんと洗ってあるから安心しろ。……あ、あと、これ……好きなの持ってけ。缶ならコーヒーがあって、ペットボトルならお茶とか紅茶とか、あとは甘いのも例えば……。え？俺が色々買ってきたんだよ。コンビニの店員には変な顔をされたが……仕方ないだろ、お前の好きな味がわからなかったんだから。ふっ、そうか、買い過ぎか。それは俺もちょっと思ってた。……ココアね、どうぞ。でも笑ってくれて良かった。…そういや入社のときもお前を笑わせようとして必死だったな。……(優しく)全く、世話の焼けるパートナーだよ、お前は。
⑤金曜日
……さっきの一次会でも言ったがよく頑張ったな。チームの皆も言ってたとおり、今回の受注はお前の努力の賜物だ。夜遅くまで必死に準備もして、何度も足を運んで頭を下げて……俺のサポートがなくてもここまでやれるまでに成長した。まあ残業に関しては、会社的には褒められたことではないけどな。……はは、謝ることじゃない。
でも、良かったのか。何がって……この状況だよ。チームでお前を祝うために飲み会をひらいたのに、そのあと俺と2人で飲んでも楽しくないだろ。まあ、お前がそれが良いって言うから俺も承諾したけど……正直さっきの会で散々あいつらに飲まされたから割と酔いが回ってる。
…っ、覗き込むな、なんだよ。……ああ、俺は顔には出ないタイプなんだよ。……つまらないだ？はは！言うようになったなぁこの小娘！(頭をくしゃくしゃにする)
…ま、でも、普段と変わらないように見えるなら良かった。(意識しているのを知られていないことに対して呟く)なんでって……、いや、別に。なんでもない、その、あれだ、俺はもう35だからな、若いやつの前で堂々と酔いつぶれるなんて、そんな恥ずかしいことは出来ないだろ？ほら、そろそろ帰るぞ。
⑥土曜日
悪いな、呼び出して。……ああ、急な報告となって悪いが、今日からお前のパートナーは俺じゃなくなる。お前はもう一人前だ。俺は新しく入ってきた社員を見てやらなきゃいけないし、お前もいずれは部下を持つようにもなる。ずっと俺とペアでいるより、いろんな奴とペアになってサポートする側にもなったほうが、よりお前の成長になるんだ。今までだって俺のペアになったやつは独り立ちして離れていった。お前だけ特別扱い出来ないだろ？
そんな顔するな。ふっ、チームは変わるがフロアは一緒だぞ？すぐ近くにいるのに今生の別れみたいな反応だな。……まあそうだな、今までほど一緒に過ごす時間はないな。
……寂しい？……そうか……そうだな。俺も寂しいよ。……当たり前だろ、ずっと可愛がってきた…っ、(言いとどまって)…お前は俺の部下だぞ？…でもお前の成長を見れるほうが俺は嬉しい。……そうだ。上司は上司でいろいろとあるんだよ、あんまり大人を困らせるな。(でていく)あっ、おい！……はぁ、何やってんだ俺は…。
⑦日曜日
お疲れ様。久しぶりだな、元気か？このココアお前好きだっただろ。…覚えてるよ。ああ聞いたぞ、また契約数増やしたんだって？順調だな。お前がうちに来てくれてよかったとチーム長が言ってた。こういうことは直接本人に伝えてやれって言ったんだが恥ずかしいんで佐久間さんから伝えてくださいだってよ。あいつそんなキャラじゃないのにな。嬉しい？……その割にはあまり嬉しそうじゃないが、なにかあったのか？
……すまない、俺も人が悪かった。白状するよ、お前の気持ちに気付かないふりをしてた。……馬鹿、俺はそこまで鈍感じゃない、あんなに好意を寄せられて可愛いと思わないわけがないだろう。
そうだ、部下としてだ。……部下として、だと必死にそう思うようにした。
じゃないと駄目だろ普通、俺は35で、お前の上司で。……こっちにも大人のプライドってのがあるんだよ。鈍臭くて、煩くて、負けず嫌いで……、妹みたいだと思ってたのにな。
こっちの気も知らないで飲みに誘ってくるし寂しいとか言うし……そう、それ、そうやってお前は笑うだろ？……ほんとに参ったよ。だから言っただろ、あまり大人を困らせるなって。
