洞窟に男が落ちた話前編
今日も上を見上げれば、いつものように少し雲の混ざった青空が見える。夏休みの真っ只中、特にすることもない学生としては「空が綺麗だな」という感想しか出てこない。勿論今頃忙しく学祭の準備にかかる学生もいるだろうが、友達も学弁に対する熱意もない自分には縁遠い話だった。
そんな今日は台風で潰れた授業の振替日だった。そんなのをわざわざ夏休みのど真ん中に用意した教師どもには殺意がわいたがそうなったものはしょうがない。
そう諦めて日が照る暑い中通学路を歩いている時、ふと背後に気配を感じた。
反射的に振り返ったが誰もいない、不審な点もない。さっき横を通り過ぎた自転車がすでに遠く後ろへと行っていたのが見えたというくらいだ。
気のせいだったろうか?ただ確かに何かを背中あたりから感じて、勘違いと切り捨てるには妙に現実感があった。
もしかしたら怠けすぎて肩でも凝ったかもしれない、薄寒い気分を無視してそう思い込み、前を見て再び歩き出そうとすると、
そこには見慣れた歩道でなく薄暗い洞窟がただ奥深く続いているのが見えた。
て、いやどうなってんの!??
いやまず落ち着こう。
さっきまで普通に歩道を歩いていたはずだ。ふらっと足を滑らせ近くの洞穴に落ちたのかも知れない。
.....いやさっき振り返った時、ちらっとだがとなりに駐車場が見えた。そんなものはなかった。まずこんな街中に人が入れる穴なんかあったら真っ先に埋められるはずだ。うっかり足を滑らせて入ってしまったってのは有り得ない。
一旦心を落ち着かせ取り敢えず一度周りを見渡す。ゴツゴツした岩がどこを向いてもある。次に自身がどうなったか確認すると、私服はそのままだが鞄がなぁかった。肩に掛けていたはずだが突然の事が続き今の今まで気付かなかった。そしてもう一度見渡しても周りには自分以外何もなく水滴が落ちる音だけが聞こえる。
四方洞窟の暗闇しか見えないがまずは動くしかない、周囲を調べ終えた冴えない見た目の高校生、黒須次郎はそう結論付け、前に歩き出した。