ちくり魔
高校を退学しよう。
そう決意して、僕は校舎に戻っていた。これから僕のすることは情けなくて悔しくてどうしようもない、がきんちょのすることだ。
教員室に行き、先生に言いつけるのである。
ちくるのだ。
僕はこれから学校中でちくり魔と呼ばれ馬鹿にされることだろう。
仲の良い友達はいないどころか、ちょっと会話する知り合いさえもいなくなる。
また明日には不良にどこかへ連れていかれリンチされるかもしれない。
それを防ぐためには退学するしかない。
そしてキララを助けるためには、ちくるしかない。
情けないけど、これが僕に出来る精一杯だった。
教員室の扉の前、体ががたがたと震えた。・
この向こうには正義の味方・教師たちがいっぱいいる。
さあ、開けようじゃないか。
はあ。
はあ、はあ。
はあ、はあ、はあ。
くそう。
「シクラ」
呼ばれて振り向くと、シロネコがいた。片手にはメモ帳、もう片方の手にはボールペンを持っている。
「……ラコル」
「少し、見直したニャ」
「ついてきて、いたんだね」
「貴方の物語、最後まで見届ける責任が、あたしにはあるからニャ」
「僕は」
「うん」
「ちくり魔になるんだ」
扉に手をかけたその時だ。
「待って!」
ラコルがメモ帳を開いた。ボールペンを走らせる。
「貴方は何か忘れてるニャ」
「忘れてる?」
「貴方には、読者の力がついている」
「読者の、力?」
「お願いするニャ」
「お願い?」
「きっと、叶えてくれるはずニャ」
「ぼ、僕は」
「シクラは?」
「僕は」
「僕は?」
「やつらに、勝ちたい」
「リピートアフタミー」
「ん?」
「読者様、お願いします」
「読者様?」
「リピートアフタミーニャ」
「読者様、お願いします」
ラコルがメモ帳にペンを走らせる。