桜色
2019/7/24/17:01 感想お待ちしています。
天気の良い空の向こうで稲妻が鳴った。
キララが急に立ち止まりこちらを振り向く。そして何を思ったのか歩いてきた。
「わ、わ、ラコル、どうしよう? どうすれば?」
僕はわたわたした。
「シクラ落ち着くニャ。男なら、どっしり構えるニャ」
「そ、そんなこと言ったって」
「もう、あたしは知らないニャ」
ラコルは僕の肩から飛び降り、桜の木の後ろに隠れた。
「わ、わ、逃げないでよ」
キララが僕の前で立ち止まる。
「高橋、シクラくん?」
「そ、そうですが?」
僕の声はソプラノになってしまった。気をつけをする。
「あのね」
彼女のシャンプーの香りが伝わってきそうなぐらいの距離だった。
「う、うん」
「いま、雷なったね」
「そ、そうだね」
「君、傘持ってる?」
「いえ、持って来てません」
「そっか。じゃあ帰り、雨が降ったら入れてあげる。私、折りたたみあるから」
「あ、ありがとうございます」
「そ、それでなんだけど」
「は、はい」
彼女は両手をすりあわせ、下を向いてもじもじとする。そしてどうしたのか、両手を開いて倒れかかってきた。
「キャー!」
「だ、だいじょう」
転んだようだ。
僕は彼女の体を支えようとした。
僕の唇とキララの唇が重なる。
あまりの出来事に、僕は彼女を支えることができなかった。二人で抱き合ったまま地面に倒れる。柔らかい唇の感触。桜色の彼女の顔。僕は頭がパニックだった。
彼女がゆっくりと唇を離す。そして立ち上がり僕を指さした。
「あー!」
「な、なに? なに?」
僕もゆっくりと体を起こす。
「私のファーストキス! 奪ったわね!」
「いや、奪ったも何も。そう言うつもりじゃ」
僕はただ彼女の体を支えようとしただけだ。何も無い地面で転んだキララに非があるはずだった。いやそもそも僕がお願い事をしたのが悪いのだけど。
「奪ったわね!」
「ご、ごめん」
僕は気が弱かった。
「責任とりなさいよ」
「責任?」
「うん」
キララは両腕を組む。
「付き合ってもらうからね」
「付き合う?」
「付き合ってもらうからね!」
「わ、分かりました」
「分かれば良し」
キララは満面の笑顔で頷いた。エンジェルスマイルだった。
彼女は自分の制服についた汚れを払う。
僕も立ち上がった。ぱんぱんと制服をはらい、汚れを払う。
彼女は腕時計を見た。
「あ、時間、遅れちゃう」
「え、もうそんな時間?」
「早く行こう」
彼女は僕の手を取った。早足で歩き出す。
途中、僕は桜の木を振り向いた。木の根元ではラコルがいて、やはりメモ帳にペンを走らせていた。