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結晶の魔術師  作者: 古口 宗
原罪と言う存在
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第四十話

「ミフォロス、その格好で行くのか?」

「これしか持ってねぇよ。」


 簡素なシャツとズボンのみのミフォロス。防具は革鎧なので、流石に外してきた。

 ソルは紫のコートに赤いバンダナ。シャツとズボンは安物だが、装備がそういう場に合っている。


「構いませんよ。領主様がお待ちです、此方へ。」

「構わないのかよ……まぁ有難いがな。」


 今から買ってこいと言われると痛い出費だ。それに着方も良く分からない。端から期待していないからこそ出来る手抜きである。とは言え、流石に領主が滞在する屋敷であり、浮いて見えるのは否めないが。

 ソルとてバンダナを外すわけにもいかないが、かなり目立つ。一手に視線を集めてしまい、注目されることに慣れない二人は、ばつの悪い時間を過ごす。


「この部屋でお待ち下さい。」

「あぁ、分かった。」


 そのため、部屋に入り二人だけとなった彼等は、自然と肩の力が抜けた。


「しかし、可笑しいもんだな。」

「イヤに対応が親切だもんな。部屋にも色々あるってのに、世話人っていう見張りも居ないし……」

「いや、何で学んだか知らねぇが、世話人は見張りじゃねぇからな?」


 同じようなもんだろ? と肩を竦めるソルに、全然違うだろ多分、と返しながら奥に歩くミフォロス。部屋の窓から外を眺めれば、良く手入れされた庭が見える。この辺りでは見ない植物も多く、伝の広さが伺える。


「まっ、感性は変人でもポンコツなら領主なんざ務まんないわな。」

「んっ? ……あぁ、確かに。」


 最近流れた噂に、魔術を使う道具があると聞く。魔方陣や魔道具の事だ。その素材になる触媒の元が見られたのだ。ミフォロスもソルに聞いて、主要な一部は把握している。ソルには使い方まで分かるが、結構デタラメな配置なので効能までは聞き及んでないだろう。

 まぁ西の国から最東端の此所に、触媒の情報が回っているだけでも驚くべき速度だが。それだけ領主が上手く立ち回っている証拠だろう。


「後で少し買わせて貰えないかな。」

「止めとけ、変わりに講師にされんぞ。」

「あー、自由に動けないのはダメだな。」


 悪魔を追う身の上のソルには、定職に着くことは邪魔になる。魔術師であることは隠せるなら、そちらの方が良いと言うことだ。

 そんな下らない話をしていると、扉が開き人が入ってくる。すぐに振り向いたミフォロスが頭を下げたのを見て、ソルも振り向いた。


「えっ? あなたは……!」

「よー、ソル君! 元気してたぁ?」


 そこには礼装に身を包んだロイオスが、快活な笑みを浮かべていた。




 路地裏から遠く離れ、多くの村や町を巡った。昔馴染みの奴の手伝いだ、しかもようやく賊をやめると言う。いつもの盗品捌きより遥かに力が入っちまった。

 金を返し、足りない分は情報を渡していった。アイツの盗品のお陰で食ってけた所もある以上このくらいはサービスだろう。


「……たと言う事ですか?」


 突然聞こえてきた声が、俺の体を強ばらせた。何せここは街の外。俺のホームから離れちまってる場所だ。しかも夕刻間近とあっちゃ嫌な予感も膨らむもんだろ?


「………」

「あぁ、実に面白い! 彼が生きていたとは! アラストール殿も粋な事をしてくれる!」

「…………」

「なるほど。では、彼には悪いことをしますね。せっかくの再開など露と消えてしまう。」

「…………?」

「えぇ、私が求めるものは原罪の再集結よりも、自身の興味ですよ。本懐からは考え付かない、彼のあの美しい魔法です。魅力とは、他者に対して磨かれるのですよ?」


 片方の声は小さくて聞こえねぇが、もう一人の声はデカイせいで聞き取れる。しかし……聞き覚えがあるな? それに何か引っかかる……


「所で……」


 ふと声が消え、肩に手が置かれる。背筋に氷でも突っ込まれた感覚を味わう俺に、声が語る。


「貴方は何方です? 『答えなさい』。」

「あっ……俺は情報屋をやっている。」


 次の瞬間には、気付いたら朝だった。白み始める空に、俺は命の喜びを知った。


「あの野郎……こんな事になるなんてな。報酬上乗せさせてやる。」


 追加報酬を要求しようと考えている相手が、まさか宿屋で働いているとは露知らず。彼は街の門をくぐる。


「今日のニュースは一大事だな。()()()()()()()()()()()()いう動きがあるなんて。」


 街に不穏な風が流れ始めた。




 部屋に三人が座り、ミフォロスが口を開く。


「此度はお招き感謝します。」

「別に改まんなくて良いのに。」


 ロイオスが茶菓子を摘まみながら言うと、ソルに視線を向けた。


「そんで? 最近は上手くいってんの?」

「ミフォロスさんに色々と師事しています。」

「おぉ、そりゃ良い。指針があれば迷わずに進めるのは、人生も一緒だからね。」


 経験則だろうか、やけに嬉しそうに頷くロイオス。ミフォロスが気まずそうにしているのは、蠍型の討伐で一悶着あったからだろう。

 ロイオスが更に話を続けようとした時だった。


「待たせてすまなかったな、私が現在のこの街を治めている……お前は何をしているんだ、ロイオス?」

「やべっ、バレた。」


 窓から飛び出そうとするロイオスに、彼は手を伸ばして捕まえ床に押し倒した。


「さぁロイオス。説明しろ。」

「兄さん、前前。」


 ロイオスが必死にソル達を指し示すが、抵抗虚しくそのまま縛って部屋の隅に転がされた。

 事態に着いていけず困惑する二人に、男が向き直り服装を正す。


「座ったままで結構だ。私がロルード、この国の南東の領主だ。今は、この街の頭でもある。」

「……ミフォロスと言います。お呼び立てとあり、伺いました。」

「ソルです。あの、ロイオスさんは……?」


 ソルが疑問に満ちた視線を向けたのを見て、致し方ないといった様にロルードがロイオスの縄を解く。

 ロイオスは手首を捻ったり肩を回したりした後、服装を正して喋る。


「……何で縄なんて持ってたん?」

「吊るされたいのか、お前は。」


 ロルードが睨むと、姿勢を正して敬礼するロイオス。


「先日までこの街で数人と纏め役を行っていたロイオスだ! よろしく。」

「よ、よろしくお願いします。」


 いまいちロイオスの事を掴みきれないミフォロスは混乱気味だったが、段々と慣れてきたソルは、じいちゃんみたいな奴だな、と勝手に納得した。

 街をぶらついていたり、門番になってみたりと結構好き勝手やる人なのだろう。多分例の移民募集も彼だ。ズレ具合が感じられる。


「まぁ、愚弟の事は置物と考えてくれて良い。今回は報告書の真偽について聞きたい。」

「待ってください。真偽についてというのは、内容が信じられないと言うことですか?」

「その通りだ。俄に頷ける物では無かった。」


 あのバカ何て書いたんだ? とミフォロスが頭を抱えるのに構わず、ロルードは淡々と手元の書類を読み上げた。


「『魔獣狩人のミフォロスを筆頭に大型の蠍型を討伐に出発。メンバーは十名。先行した子供が一名いる模様。

目的地到着後、先行者捜索開始。巣穴にて遭遇。入り口へ逃げて討伐を再開。足二本を奪い、尾へと傷あり。狂信者乱入。先行者射ぬかれ、二手に別れる。』

ここまではまだ良い。いや、良くは無いがあり得る話だ。」

「その報告書が届いてることはあり得ねぇ~。」


 ロイオスが笑いだし、ロルードがロイオスの口に縄の端を突っ込んだ。噎せるロイオスを見もせずにロルードは続ける。


「問題はその後なのだ。

『対象は再生する変異種。狂信者は全滅。しかし、強欲を名乗る悪魔が出現。

悪魔においては不完全な様で契約者共々逃亡。契約者はエーリシ商団の一人である。魔獣は先行していた魔術師の元に誘き寄せ爆発させた。』

……訳が分からない。」


 頭を振るロルードに、若干罪悪感を伴うソル達。ロイオスだけは珍しく真面目な顔をして考え込んでいる。


「とりあえず、これは事実か?」

「一応は。ただ、商人を名乗るクレフが手助け致しました。」

「クレフ? あの盗賊団の頭か。」

「今は求職者だと言っています。狂信者を追っていたのかと。だよな? ソル。」

「痛め付けられて、その仕返しだと。元手が出来たので盗賊から職探しに移ったと言っていました。」

「そうか、被害者が納得しているなら何かしら用意してやっても良いかもな。」


 もし、彼が来ずに悪魔が準備を万全にしたら……この街は無くなっていただろう。盗賊とは言え、その働きは無視できない。若干、罪状が金額以外子供のイタズラに近いのも理由になっている気もするが。


「……兄さん、原罪の悪魔が現れたってんなら考えもんだが、強欲なら此所に来てもおかしくないだろ。最近は()()()金属も多く入ってきて潤ってるからな、此処は。」

「そうだな。簡単に考えれば二つの街の財産が揃っている。商人も多い。マモンならばうってつけの療養所という訳だ。」


 しかし、と続けたロルードはソル達を見やる。


「契約者が居て、それが我が街一番の商団の者で?挙げ句、最近聞こえ始めた噂の大本が魔獣を爆発させた? これはなんの冗談か、と言いたくなるぞ。」

「「そこは思う。」」


 一斉に視線をソルに向けられるが、ソルとて知っていることなど無い。いや、魔術師の事は知っているが前半に至っては被害者である。

 ソルがそう伝えれば、三人はそれもそうだろうな、と頷く。分かっていたなら振らないで欲しかったが、一縷の望みを託したくなる情報なのは事実だ。


「はぁ、つまりこの街にはまだ原罪の悪魔が潜んでいる訳だな?」

「おそらく。」


 ミフォロスが答えればロルードは疲れた息を吐く。


「十年ぶりの復讐の悪魔が来たと思えば、今度は強欲の悪魔か……呪われているのかと思いたくなるよ。」

「兄さん、何で生きてんのか疑うレベルな。」


 ロイオスが笑い、ロルードがしばき倒す。床に這いつくばったロイオスを引きずり、ロルードが扉に向かう。


「まぁ、事実だと言うのならば何らかの対策が必要だろう。なんとかしてみよう……とは思うが、出来ぬかもしれない。その時は力を貸してくれるな? 傭兵団「白い羽」に、魔術師ソル殿。」

「報酬次第で傭兵はいつでも動きますよ。依頼があれば、仲間を募る位はしましょう。」

「マモンの奴を殺せるなら、いつでも。」

「ははっ、一癖ある協力者達だな。君達が休めることを望むよ。」


 領主との謁見。それは、想像以上に重要な物になった。

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