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結晶の魔術師  作者: 古口 宗
第2章 若き魔術師達の休息
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第24話

「……兄さん、何してるの?」

「アホに金返せって言ってる。」

「それはっ肉体っ言語でっ!無くても伝わっ痛たたたっ!!」


 見事に関節が極ったベルゴが、悲痛な声をあげる。ソルが何かを読みながら、煩いぞ、と呟いている。


「あ、おはようございます、ソルさん。」

「おぅ、おはようエアル。これ描いたの、お前か?」

「えっ? ……はい、僕ですけど。」

「結構良く纏まってるな。ここは繋げた方が早いけど。」

「まだ制御が難しいので。」

「あぁ、自分用に調節したのか……なるほどなぁ、良く出来てる。」


 自分の魔力を理解するのは、存外に難しい。自分の感情や思考の動きを、辿り、読んで、理解する事と同じだからだ。自己分析とは、若い程困難になるだろう。

 魔力の動かし方に慣れるのは、若く素直なほど容易だ。しかし魔方陣の調節となれば、その特性について完璧に理解しなくてはいけない。故にそのほとんどは、マギアレクが設計、制作している。


「どうよ、俺の弟は凄ぇだろ?」

「あぁ、認めるよ。」


 感心して「旋風鳥乱」の改造魔方陣を眺めるソル。少し遠回しだが、マギアレクの認める弟子に褒められ、エアルは顔に喜色を浮かべる。


「やっぱり兄弟だかんな、俺が出来る事はエアルも出来んだって。」

「そのうち越されるんじゃね?」

「いや、俺は更に先を行くから。」


 謎の自信に裏打ちされたカークの宣言を、ソルは聞き流した。


「あの……そろそろ許してくんない? 助けて~ソル君~。」


 ついでにベルゴの懇願も。




 朝食を取りに書斎を出る三人。ベルゴは侯爵家で食事なんて信じられない、と逃げ出した。そんな殊勝な奴ではないし、おそらくカークが財布を探り始めたからだが。


「そういや、ミダロス様を見ねぇな……」

「ん? 外に居たぞ?」

「いや、そろそろ入って来るだろ、朝食だしよ。」

「そのまま城に行ったんじゃ? ほら、ミダロス様は正式な跡取りだし。」


 三人が話ながら食堂に入り、並べられた料理を取っていく。魔方陣を取り出して、さりげなく温め直しながら、席に着く。

 そのタイミングで、食堂の扉が再び開いた。


「……モナクスタロ。」

「だから……もう良いや。おはようさん。」


 少しずつ驚きを顔に浮かべるミゼンに、ソルは苦笑を浮かべて挨拶をした。

 ソルが魔人であることは、公言されてはいない。しかし、魔人の噂事態は広い。関わりの深いものは、何となく感づいていた。ソルを聞き慣れぬ名前で呼ぶミゼンも、また魔人であろうとも。

 それはともかく、ソルは変わりたくて魔人実験に候補したのだ。あまりモナクスタロとは呼ばれたくは無い。そのうち直して貰おうと、改めて思った。


「ミゼンさん、おはよう。」

「……ん、おはよう、ございます。」

「なんか、ちょくちょく敬語になるよな。シラルーナみてぇ。」


 既に食べ始めているカークに、ミゼンは顔を向けた。少し不満そうにしながら、カークの対角、正面にいたソルの隣に据わった。広い食堂には徐々に人も集まる。他人よりは知った人間と座りたかったようだが、カークは嫌われているらしい。


「年上、だから。」

「そこを気にするなら、隣に来るのに少し躊躇しようぜ? 魔界のオークションの時を思い出すわ。」

「……覚えてたの?」

「文句言われたのに、何で嬉しそうなんだ?」


 明らかに避けられたカークが、舌打ちをして食事を再開する。別に怒っていないのは知っているので、誰も気にしない。

 向かいのエアルが、ミゼンに尋ねる。


「ミゼンさんは、魔術師の集いはどうする?」

「出ない。その……あんまり、大勢の人に見られるの、嫌だから。」

「見せ物になって、喜ぶのはいないだろ。」

「見せ物ってなぁ。いいじゃんかよ、注目を浴びんのも……てか、お前が出ないとか言うなよ?」


 カークにニヤリと笑みを浮かべて、ソルは一つだけ問う。


「そうだった、こいつを聞かないとな。お前は挑戦戦と防衛戦、どっちが得意だ?」




 休日、というか祭の日は何も当番が無い。その為、少し気が抜けていたのだろう。シラルーナが目が覚めたのは、朝と言うには少し遅い時間だった。

 既にしっかりと辺りを照らす太陽に、眩しさを感じて目を細める。すぐに慣れてきた眼に痛みは無い。今日も左手を握れば、中指にいつもの感触を感じて安心する。


「……なんか、騒がしいような?」


 まだ半分寝ている頭を揺らし、窓を覗く。庭に集まる人々と、聳え立つ結晶に、シラルーナの頭は動き始める。


「嘘、寝過ごしちゃった!?」


 準備もそこそこに、シラルーナは庭に急いだ。

 飛び出した彼女を押し返すように、大きな歓声が広がる。ステージの上で、結晶が霧散する中、ソルが一人の傭兵に手を貸して立ち上がらせる。


「かぁ、英雄様にゃ敵わねぇか。」

「いや、お前も無理だろ? あれ。」

「魔術師に鞍替えした奴にゃ、言われたかねぇよ!」


 どうやら今しがた、一戦が終わった様である。とにかく見える位置に回ろうと、小さな体躯でシラルーナは人の波に乗り入れた。

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