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結晶の魔術師  作者: 古口 宗
第五章 数多の試練を越えて
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第百一話

「それで、何か申し開きは?」

「ございません……」


 人払いをすませた部屋、正座したエミオールの前で、女性が仁王立ちで問う。

 村についた後、事情説明を終えてすぐである。


「確かに原罪の悪魔は危険でしょうともよ、でも狂信者越しでしょ?」

「はい……」

「貴女なら、もう少し落ち着いて対処出来た筈。あの顔無しはテキトーなんだから、鵜呑みにしたらダメ。」

「もっともです……」

「それに王国である以上、王様はその国の顔よ? 人として大切でも、王の謝罪は国が相手に借りを作ったのと同じ。軽々しくしない。まず、謝罪を必要としない振る舞いを!」


 王相手にあんまりな物言いだが、それを咎める者もいない。


「気を付けるよ、ポイエン。」

「頼むわよ? 本当にもう……」

「……終わったか? エルガオン。」


 ストラティが部屋に入ってくる。彼は既に鎧を外し、楽な格好になっていた。


「村の者が食事を作った様だ、呼んでいる。陛下もお越し下さい。」

「すぐに行くわ。」

「僕も……着替えたら行くよ。」


 腰に差した剣を叩きながら、エミオールは呟く。その荘厳な服装も村の食事には相応しくないだろう。

 二人が出れば、既に村人達は食事を始めていた。まだ国としての機能も怪しい王国だが、王が来るのはそれなりに大きな意味を持つ。広場に集まって皆で談笑しながらの食事となっていた。


「ヤッホー、なんだったのん?」

「王と今後の予定について話していました。変わらず、このまま一晩すごし、皆様と王都に向かおうと考えています。」

「それで、そちらはよろしいだろうか?」

「いいんでない? ねぇ、ソル君。」


 勝手に返事をするベルゴを結晶ではたきつつ、ソルはストラティ達の元に歩いてきた。


「俺達はそれで構いません。お願いします。」

「ソル君……礼儀って知ってたのね。」


 すぐに足を踏まれたベルゴが悶絶し、ストラティは慣れた様子で頷いた。数回見ただけで、なんとなく察しがついたのだろう。

 年齢的に、ベルゴが音頭を取っていると考えた女性が、少し驚いている。そんな彼女に、ソルの後ろからシラルーナがたずねた。


「あの、そちらの方は……」

「あぁ、私はポイエン。ポイエン・エルガオンよ。そこのゴツいのと同じ纏め役なの、一応ね。」

「俺と態度違~う。」

「公と私事は分ける物よ? まぁ、貴方に畏まるのは違ったみたいだけど。」

「俺にも畏まる必要はないですよ?」


 視線を向けられたソルが言えば、ポイエンは首を振る。


「今は貴方達は客人ですから。形的には、互いに礼節は必要です。」

「そういうものですか。」

「本来なら、ずっとそのままでいて欲しいが……」


 後ろでストラティが何か呟けど、ポイエンは頑として無視をする。恐らく、格式的な対応は本来なら苦手なのだろう。


「なので、王都に入れば人目の多い公の場では、お願いしますよ?」

「俺なの? まぁ勿論、その辺は心得てるよん?」


 どちらかと言えば堅気の者ではないベルゴに、ポイエンは視線を向けた。彼はヘラヘラと流したが。

 そんなタイミングで後ろの扉がひらき、簡単な衣服に着替えたエミオールが出てきた。皆が食事を止めて礼をするのに習い、三人も礼を返す。


「ありがとう、皆楽にしてくれ。」


 ひどく簡易的だが、エミオールが許可を出せば皆が食事に戻った。ソルたちもとりあえず食事に戻る。多分、問題ないはずだ。

 まだ国となって一年程のテオリューシアは、礼節や身分序列にはかなり緩い様だ。気心の知れた仲らしい。


「ソル君……と言ったかな? 隣はいいかい?」

「専用の場所とかあるのでは?」

「ははっ、王都というか、唯一の街でしかそんなものは無いよ。まだまだ、国と言うには小さすぎるからね。」

「そうですか……あっ、どうぞ。」


 いつまでも立っているエミオールに、ソルは隣にずれて席を開ける。本来なら立つべきだったのだろうが、魔力量が急に減ったためにダルかった。

 座れそうな所に適当に腰かけている皆に、エミオールはぐるりと目を向ける。ソルがそれに習い視線を追えば、急に振り返ったエミオールと目があった。


「家も人も、少ないだろう? 一月前に立ち上げた村だ、まだ畑も機能していない。」

「端、といった所ですか。」

「そうだね、ただ西に進むには海に近づくし。冬は深くにいる魔獣も、温かくなれば上がってくるから、ここもすぐに端では無くなるけど。」


 東にはぐんぐん進んでいるらしい。他国も滅ぶか逃げるかした西の地は、彼等には都合がいいらしい。


「皆、何かしら追い出された者たちだ。ここにしか住めないけど、西は獣人も他国の軍もないから、魔獣と悪魔が多い。」

「だから、集まって対抗すると?」

「そうだね。悪魔はともかく、魔獣ならば数で補えばなんとかなる。策を練らないから。」


 罪、迫害、権力の敗北、国の滅亡。身を隠さねばならない事情など、いくらでもある。力や逃げ隠れるのに自信のある者は、こうして西に来るか、残っているのだろう。

 それらを纏めあげている。エミオールはどうやらそんな人物らしい。


「俺にそんな事を話しても、良かったんですか?」

「構わないさ。君は別に、むやみに僕らと争うつもりは無いだろ? なんだか無関心に見える。」

「国って良く分からないですし。話が大きすぎて。」

「君の力の方が、よほど大事だけどね……」


 体ごと向き直り、エミオールはソルと体ごと向き合う。それに、ソルも器を置いて向き直った。


「こんなことを話すのは、君に知って欲しいからだ。君は見たところ、まだ若いだろうし……故郷、と呼べるところも残っていないだろう?」

「まぁ……そうだな。放浪の身です。」

「だから、ここを故郷と、いつしか呼んでくれると願って、かな。」

「……誘われてますか?」

「人手が欲しいからね。それも優秀な程いい。」


 あっさりと言いきったエミオールは、どうだい? と重ねて尋ねた。

 ソルは今は分からない、と首を振った。エミオールも、すぐに色好い返事は期待していなかったのか、頷いて器を手に取る。


「明日は早い。日が暮れたら、早めに寝ておくといい。」

「ありがとうございます。」


 態度を決めかねていたソルは、エミオールが去って少し肩の力を抜く。

 そんなソルに、ベルゴが飛び付いてきた。体重の差で、当然ソルは前につんのめる。


「なんの話してたのん? お兄さんにも教えてちょー。」

「……そい!」


 空になった器を顔に叩きつけて、ソルは立ち上がる。少し離れた所で座るシラルーナの横に、ソルは改めて座り直した。


「どんなだった?」

「村の人ですか?」

「あぁ、何人だった?」

「えっと、王様以外はいないみたいです。」

「まぁ、端ならそうか……一年程度で魔術師としては、そうそう無理だよな。」


 シラルーナとて、まともに魔術を使えたのは二年間の後だ。マギアレクとソルが、シラルーナ一人と向き合ってそれ。まだまだ、途中過程だろう。

 とはいえ、シラルーナは半分は魔力の扱わない獣人だ。ソルも特異であるし、もしかしたら一人か二人、鬼才の持ち主はいるかも知れないが。それなら簡単な魔術は使いこなすかもしれない。


「なんの話してんのん?」

「魔術が広がってんなら、俺達が行っても対応なんかも手慣れてるだろうから、ありがたいだろ? 心の準備ってモンが違う。」

「あぁ、シラちゃんがキョロキョロしてたのはそれかぁ。魔術師がいないか探ってたんだ?」


 ソルの上に座ろうとしたベルゴを、蹴りあげたソルが肯定する。

 避難するようにシラルーナの隣に逃げたベルゴは、少し離れて集まった三人を見た。


「エミオール、ストラティ、ポイエンだっけ? あそこだけ感覚が違うねぇ。」

「そうか?」

「エミオールに至っては、まず庶民の出じゃないね。纏めて率いて……人の上って物に慣れてる。魔術師ってだけでも無いでしょ?」

「ティポタスってのが中にいるんだと。契約者じゃないか?」

「ティポタス……まじで?」


 若干引いたベルゴ。シラルーナが、話しやすいようにとソルの反対側に移動する。

 ソルが、目で訴えれば、ベルゴは嫌そうに話した。


「ティポタスってのは、虚無の悪魔だよ。アラストールと同じくらい、十年前位だっけ? に姿を消して、それっきり。」

「それで? なんで、そんな反応なんだよ?」

「驚くなら分かりますけど、別に嫌がる様な事は何も……」


 不思議そうな二人に、ベルゴは首を振った。


「話を遮らないでよ。あれは悪魔なんて生易しいモンじゃないよ?」

「悪魔が生易しいかは置いといて、そこまでだったか?」

「彼が動いたら、国家が一つ全滅する。」

「アラストールも同じだろ。」


 最近になって再び動き出したアラストールの方が、ソルには遥かに凶悪に思えた。灰さえ燃やし続ける炎は、軽く都市を滅ぼす。

 国としての機能等、彼の悪魔の前には薪にしかならない。


「国家だよ、大きさに関わらず国だ。そして文字通りに全滅した。」

「……?」

「つまり、一人も生きて……!?」

「一部に至っては、正しくは一つも残って、だ。生き物に限った話でもないんだ。土地とか、ね。西側が壊滅したのは、何もレヴィアタンだけの所為でも無いって事さ。」


 そんなのが何故? と思わなくも無いが、現在はとくに問題ないはずだ。若干不安になったが、今は昼。移動するには遅く、何もしないには早い時間だ。

 暇を使って聞く機会くらいは、あるかもしれない。とりあえず疲れた体を休める為に、ソル達は家屋を一つ借りる事にした。




「……ん、寝ちまってたか。」


 窓を開き、外を見れば夕暮れ。いや、夜といっていいかもしれない。数える程の時間で、完全に太陽は隠れるだろう。


「しまったなぁ。王様に色々聞ければと思ってたのに……」

「僕にかい?」

「っ!?」


 声のした方、窓の下を慌てて見れば、エミオールがしゃがんでいた。杖を手に取りながら立ち上がると、王はソルに問いかける。


「何を聞こうと?」

「あの、もう少し右です。」

「……すまないね、今はティポタスが出ててさ。」


 まさか部屋にと思ったが、部屋の中にはシラルーナしかいない。丸まって寝ている彼女は、窓を開いた所為か、少し寒そうに毛布を握る。


「とりあえず出るので、場所を開けてください。」

「窓からとは、大胆だね。」

「こんな時間に出歩くのも大胆ですよ。」

「眠れなくてね、そんな時は少し歩くようにしているんだ。君もどうだい?」


 物のついでと思い、ソルもエミオールと共に歩く。冷たい風が辺りを吹く。塔をでた時は、まだ残暑が厳しかったが、随分と冷えた。かなり北にいるのも関係してそうだが。

 二人は街の外れへと、ゆったりと歩を進めていった。

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