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第4話 飛んで火に入る謎の虫

1.



そこにいたのは、クラスメートの川村駿(かわむらしゅん)だった。


まだあまり喋ったことはないが、イメージ的には優等生といった類の奴だ。

長身で運動神経も良く、成績も上位。

確か部活は、陸上部だったはずだ。


「どうした、何か俺たちに用か?」


「いや…、3人に、というよりは石原さんに…ちょっと。」


「えっ!? 私っ…!?」


唐突な出来事に、石原はまるで鳩が豆鉄砲喰らった顔をしてやがる。


「…な、なに?」


恐る恐る聞く石原に対し、川村は深刻な顔をして言った。


「ちょっと、この場所じゃまずい。3人とも、こっちに来てくれ。」


「え…?」


俺たちは廊下の突き当たりまで連れてこられた。

皆が騒いでいる休み時間だ。確かにここなら、誰にも話は聞こえないが…。


川村は息を深く吸い、切り出した。


「…ごめん!!」


「え!?」


さらに川村は頭も下げた。


「君の二千円は、俺が持っているんだ…。」


「は!?」


「悪気はないんだ。ちゃんと返す。だから、誰にも言わないでくれ。」


その発言には流石の俺も驚きを隠せない。

冷静沈着で泰然自若の俺も豆鉄砲を喰らいそうになった。


だがそれでも俺はポーカーフェイスを維持したまま尋ねる。


「どういうことだ?」


「いや、申し訳ない。実は…」


川村は深刻な顔をして、話し始めた。




2.



川村は重い口を開いた。


「体育の授業が終わって、教室に一番初めに入ったのは俺だ。ちなみに、他には誰もいなかった。そのとき、机の上に二千円があるのが見えたんだ。」


川村は口元に手を当てながら話した。


「危ないと思った。お金をこんなところに置いておいたら、誰かに盗まれてしまうんじゃないかって…。 だからつい、その二千円を手に取ったんだ。」


「ふむ…。」


俺もまた、腕を組んで川村の話を聞く。


「でもお金を持った瞬間、2~3人誰かが教室に入って来るのが分かった。 俺はその時、なぜか二千円をポケットに入れてしまったんだ。」


「へぇ~。なるほどねぇ~。」


矢吹は目を丸くして頷いた。


「すぐ、返そうと思った。だが、そのあと騒ぎになってしまったから、なかなか言い出せなかったんだ。本当にすまない。」


「あっ…。」


まぁ、石原は教室に入るなり「二千円がない!」と大きな声で言った。

確かに、それが騒ぎの引き金になったと言えなくもないが…。


「この通り、二千円は君に返す。どうか、他のクラスメートには言わないでくれ。頼む!」


川村はポケットから二つに折りたたんだ千円札を2枚出し、石原に差し出した。


「石原…?」


だが、そのときなぜか石原は驚いた顔をしていた。


そして、小さな声で返した。


「うん…。」


さらに重ねるように、川村は言う。


「どうか、カバンとか、机の中にあったってことにしてもらえないか?


盗まれたなんて、人聞きが悪すぎるから…。」


「うん、分かった…。」


石原は二千円を受け取り、頷く。


「ありがとう! じゃあ、俺はちょっと用事があるから。」


そう言うと、川村はささっとどこかへ行ってしまった。


「まぁ、良かったじゃない。二千円が戻ってきてさ~。」


「うん。そーだね…!」


石原に笑顔が戻ったのを見て、ひとまず俺も一息ついた。


「良かったな。」


「うん。九条くん、矢吹くん。ありがとう~!」


石原は教室に戻っていった。


「あぁ。九条くんや。安心したら、お腹がすいたよ。」


「そうだな。昼飯買いに行くか」


俺と矢吹は購買へ向かう。


「そーいえば、九条くん、昨日見たアニメがねぇ~。あれ、九条くん?


九条くんってば~。」


だが…。


「何か引っかかる…。」


俺は何か違和感を感じていた。

心の中で、何かが引っかかっているのだ。


「えっ? 今、何か言った~? 九条くん?」


もはや、矢吹の声は深く集中した俺には届いていなかった。




3.



何だ…?

何がおかしいってんだ?


二千円も無事戻ってきたじゃないか…。

この事件は一件落着だろう?


なのに、どうしてだ。


どうして、俺の心はこんなに納得していないんだ…!?


「…九条くん~?」


「…。なんだ、矢吹か。」


「なんだ、じゃないよ~。九条くんったら、5限目も授業聞いてなかったでしょ~?」


「…ああ、悪い。」


どうやら、また集中しすぎてしまったようだ。

矢吹は俺のことを心配してくれたのだな。


「なぁ。矢吹…、お前、記憶力良かったよな。」


「え~? まぁ、人並みには~。」


「体育の授業後、俺たちが教室に戻ってきたときには、教室に誰がいた?」


「え~っと確か…、川村くんと、倉田くん、あとは伊藤くん、鈴木くん、渡辺くんだったと思うよ。」


矢吹は、立板に水を流すようにスラスラと名前を答えた。


「流石だ。」


「え…、もしかして九条くん、まだ何か気になることがあるの~?」


「まあな。そういや、どうして石原は二千円を机に置きっぱなしにしたんだ?」


矢吹はその質問に、俺をバカにしたような顔で答えた。


「九条くんたら、そんなの、お金を返してもらったからに決まってるじゃん~。 教室を出るときに、違うクラスの子が2人とも財布を持っていたじゃないか~。」


「あぁ。…そうだったな」


やはり矢吹は記憶力が良い。

習わぬ経を読む門前の小僧タイプだ。


「すると、次が体育の授業で急いでいたから、二千円を机に置きっぱにしたってわけか」


「そういうことだねぇ~。」


「もう一つ。俺たちが教室に入ったとき、石原の机には何もなかったよな。」


「うん~? そうそう、まっさらで何にもなかったねぇ~。」


「そうか…。あと、武藤の奴、鍵を取りに来たのは倉田だと言ってたな?」


「倉田くんって言ってたね~。あれれ、そういえば、川村くんは自分が鍵を開けたって言ってたねぇ~?」


矢吹の顔にも疑問符が浮かんでいる。


「あ、九条くん、次の時間音楽だよ~。教室移動しないと。」


「…お、おう。」


教室を出るのが最後にならないように急いで支度をした俺たちは、音楽室へと足を運んだ。

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