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第3話 犬も歩けば謎に当たる?

1.



体育の授業が終わり、俺たちは教室に戻って来た。


教室に戻ってくるときは、出る時と逆で一番初めの奴が鍵を職員室に取りに行くため、面倒な俺は他の奴と時間差を付けて教室へと向かう。


(やはりな、もう鍵が開いてやがる。)


「体育、疲れたねぇ~」


「矢吹…、お前はもう少し痩せたほうがいい」


「あのねぇ~、僕は太ってるわけじゃない。筋肉だよ、キンニク。」


「はいはい。」


俺が矢吹と教室に入ったときには、男どもが既に5~6人はいた。


そしてしばらくすると、着替えた女子たちもバラバラと教室に戻って来た。

その中には、友達と談笑する石原もいたのだが――。


「あれっ…! ない!!」


教室に入るなり、石原が突然驚いた声をあげる。

教室内にいた全員の視線が石原へ向く。


「どうしたの?雪。」


ほかの女子たちが聞くと、石原は細々と話し始めた。


「さっき、一番最後に教室出たの私なんだけどさ…、そのとき机の上に置いといた二千円がなくなってるの…。」


教室がざわめいた。


石原の机の上に目を向けると、確かにまっさらで何もなかった。


「おいおい、誰かに盗まれたのか?」


「風で飛んだんじゃない?」


「どこかに落ちてないの?」


石原は首を横に振る。


「ないみたい…。それに、風に飛ばないようにしておいたのに。」


「でも、もう少し探してみようよ。」


そのあと、クラスの皆で教室内を探したが、石原の二千円は出てくることはなかった。


「ねぇ、男子、先に教室にいたでしょ。知ってる人いない?」


突如聞こえた声に驚き顔を上げると、そこには日に焼けた肌にショートヘアーを組み合わせた、いかにも体育会系っぽい女の子が立っていた。


そいつの名前は大村渚(おおむらなぎさ)。クラス委員長であり、サッカー部のマネージャーも務めている。


身長は小柄ではあるが、どちらかというと男前なイメージがある。

女の子らしいイメージの石原とは対照的だ。


まるで虎の威を借りなくても威がある狐といったところか。


「や、知らんな…」


威圧感に負けボソッと呟くのが精一杯だった俺をよそ目に、他の奴らは誰も何も答えなかった。


「そっかー…」


大村は残念そうにため息をついた。


しかし、そんなことをしてるうちに、数学の先生が教室に入ってきた。

着替えも含めの休み時間は早いのである。


「ん。どうした。何かあったのか?」


先生の言葉に皆、沈黙が訪れる。


「いえ。別に…」


「そうか。授業を始めるぞ。今日は小テストだ。」


その一言で、皆の意識は、いとも簡単にテストへと移行してしまった。




2.



授業が終わり、休み時間になった。

石原は、深くため息をついた。


青菜に塩を掛けたような石原の後ろ姿に、俺はつい口が開く。


「おい…、」


「大丈夫?雪。」


俺が大丈夫かと声を掛けようとする刹那、違う方向から同じ言葉が飛んできた。


「あ、渚ちゃん…。」


そこにいたのは委員長の大村だった。

大村は石原の肩をぽんぽん叩いた。


「なに、暗い顔すんなって! すぐ見つかるよ。二千円。」


「うん…! ありがとう…。」


すると突然、石原がポロポロと涙をこぼしはじめた。

さすがの大村も慌てた顔で問いかける。


「え、どうしたんだよ…!」


「ううん、ごめん。単純に嬉しくって。ありがとう。」


どうやら石原は涙もろいらしい。


「んー…。」


それにしても、やはり二千円は盗まれたのだろうか…?


教室は窓も含め全て鍵をしていた。

その鍵は職員室に返し、そこから持っていく際は先生に声を掛ける必要がある。

例え他のクラスの奴がたまたま通りかかって石原の机の上に二千円を発見したとしても、職員室から鍵を取らないと二千円を盗むことは不可能だ。


つまり、職員室から鍵を取り、一番初めに教室に入ったこのクラスの奴が怪しいということになるが…。


「…!!」


だが、奴ら男どもが何も知らないということは…


「…九条君!!」


「…あ、はい!?」


「寝ぼけてないで、授業始まってるよ! 12ページを開いて!」


どうやら、俺が考え事に没頭している間に、いつの間にか4限目が始まっていたようだ。

昔から集中すると、周りの音が聞こえなくなるのは悪い癖だな。


だが、このままモヤモヤしたままも癪だし、昼休みに少し調べてみるか…。




3.



4限目が終わるやいなや、俺は石原に声を掛けた。


「おい、石原。」


「うん~?」


「この事件は十中八九盗難だ。一緒に犯人を突き止めるぞ」


「え…?、あ、うん。」


すると右の方からも声がした。


「僕も一緒に行くよ~。」


「矢吹…! よし、行くか。」


「そうだねぇ~、九条くん。君がどうしてもって言うなら~…、しょうがないから行ってあげようじゃないか」


「もういい。お前はついてくるな」


「あ~…! ごめん! ごめんってば~!」


俺たち3人はまず職員室へ向かった。


「よし、まずは、体育の時間中に鍵を取りに来た奴がいないか確かめるぞ」


職員室は校舎の1階に位置する。

入口は2つあるが…、どっちから入るべきなんだ?


すると石原が俺の肩をぽんぽん叩いた。

振り向くと、石原がちょいちょいと手を招いている。


「九条くん、こっちだよ、こっち!」


するとすかさず矢吹がニヤニヤした顔で得意気に言う。


「こっちの入口からのほうが、鍵掛け場所が近いんだよ~。さすが、いつもラクして鍵なんて取りに行かないから、そんなことも知らないんだねぇ~。」


「く…。」


ぐうの音も出ない。


だがまぁ、自分がやらなくてもいいことならば、わざわざやる必要はないのだ。

立ってる者は親でも使えというようにな。


「失礼します」


職員室に入るやいなや、前方からいきなり声を掛けられた。


「お? 九条じゃねぇか。それに、矢吹、石原。」


声を掛けてきたのは、俺らクラス1-Aの担任、武藤猛(むとうたけし)だ。

武藤は現国の教師だが、体育教師のような風貌をしている。

日に焼け引き締まった身体に、ボウズで目つきが悪い。


こいつはきっと腕相撲が強いに違いない。


「九条…、まさかお前…。勉強を教えてほしいとか言うんじゃねぇだろうなぁ?」


ええ、ええ。


そんな「まさか」が起きる確率はストレートフラッシュ並に低いですよ、先生。


「実はですね、先生…」


その後、武藤に二千円が盗まれたことは伏せつつ、体育の時間に誰かが鍵を取りに来なかったか聞いた。


武藤によると、1限目が終わって、鍵を返しに来たのは石原。

そして問題の2限目中は、誰も鍵を取りにくる奴はいなかったそうだ。


ちなみに2限目が終わって、一番に鍵を取りに来たのは、クラスメートの倉田累(くらたるい)だったという。


「ってか…。何でお前らそんなこと聞くんだ?」


「…。」


「…失礼しました~!」


「って、おい! …ったく、何だったんだ…?」


職員室を出た俺たちは、教室に戻るべく足を進めた。


「今のところ怪しいのは倉田だな。次は倉田に話を聞くぞ。」


「そうだねぇ~。賛成賛成。」


俺の言葉に対し、石原は少し悲しそうな顔をする。


「…本当にクラス内に盗んじゃった人がいるのかなぁ~…。」


なるほど。


石原がショックなのはそこなのか。

だがな…、知り合って一週間で他人の何が分かるんだ。


人には添うて見よ、馬には乗って見よ。

というように、上辺だけ見ても本質は見抜けないのだ。


「心配するな。まだそうと決まったわけじゃない」


「…うん、そうだよね!」


ん…。


つい心にもないことを言ってしまった。俺らしくもない。


「ふぅ。階段を上るのも疲れるな…」


俺たちは教室に到着した。


だが、ドアを開けようとしたその時だった。


「おい…!」


声に反応し振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

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