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第2話 晴れ時々、雪。

1.



4月17日。

本日は晴天なり。


しかも目覚めも良い。

早起きしたのでコーヒーでも嗜みながら朝支度をする。


(やはりドリップのコーヒーはウマい…)


ネクタイを結ぶのにはいつも手こずりやすいが、今日は一回で綺麗に結べた。

きっと今日は良い日に違いない。


学校に来てる男どもの中には、ネクタイが異常に短かったり、形が曲がっていたりする奴がいるが、みっともなくて仕方ない。


(おっと、こんな時間か)


ふと時計を見ると、8時になろうとしていた。

しかしながら、登校時間には余裕で間に合うだろう。


俺はいつものように自転車に乗り、学校までの道のりを走る。

距離はそこそこあるが、ほぼ一本道で上り坂もないので割と楽である。


(今日も街は平和だ。)


自分で言うのも何だが、俺は割と平和主義者だと思う。


こんな俺でも昔は、テレビの中のヒーローに憧れた。

正義の味方が現れて、悪の組織をやっつける。

そのお陰で、街は平和に保たれる。


純粋に格好良いと思った。


だが、大人に近づくに連れ、正義とは「力」がないと無意味なものだということに気付く。


正義は必ず勝つ。とはよく言ったものだ。


だから、俺みたいな力のない凡人は、本当は違うと思うことでも、周りに調子を合わせていればそれでいい。

特に人間関係については、首を突っ込むなんてもってのほかだ。


凡人には、悪を統制して平和にすることなどはできない。

だったら、見て見ぬ振りをして過ごすことが、実は一番平和なのだ。


(それにしても良い天気だ。)


俺はボーッとしながら交差点で信号待ちをしていた。


すると突如、桜の匂いと共に、後ろから俺を呼ぶ声がした。


「九条くん!おはよー!」


出たな、緩やかな平和を壊す者。


「これはこれは。青天の霹靂さん」


「誰それ? 私は石原雪だけど。」


「なるほど。霹靂ではなく雪ってか。」


「…? 意味わかんない~。」


…他愛もない会話も平和じみてて割と良いかも知れない。


学校に着いた俺は、今日もいつもと変わらず平和であることを願いつつ、教室へと入った。




2.



「起立、礼~」


「お願いしま~す」


「着席~」


俺たちが着席した後も、しばらく校内にチャイムが響く。


どうでもいいが、チャイムっていうのは何でこんなに長いのかね。


もっとこう単純に…

そう、ピンポンパンポーンくらいで良いんじゃねぇの。


「ねぇねぇ。」


石原が手をちょいちょいっとしながら小声で話しかけてきた。


「知ってる?あの時計相変わらずズレてるよね。」


俺は顔を上げて時計を見る。

…別にズレてなどいないが。


俺が怪訝な顔をしていたのか、石原は続けた。


「違うよ。秒単位でズレてるの。」


「…はっ?」


「チャイムが鳴る瞬間、教室の時計は既に40秒くらい過ぎてるの」


俺は呆れと感心を6対4で混ぜたような感覚になった。


「ふーん、よく見てるな」


「えへへ、まあね~。」


石原があまりにも得意げなので、俺は突っ込む気さえ失せていた。


「そんなことより、今日の3限目は数学の小テストだが大丈夫か?」


「ん。ちゃんと勉強してきたよ~。」


石原は、今度は鉛筆を持った手をクイクイさせながら笑顔で答える。


(意外とこういう奴の方が成績が良かったりするんだよなぁ)



というか、3限目は置いといて、問題は2限目の体育だ。


や、運動が苦手とかそういうのではない。


2限目が体育ということは、即ち1限目が終わってからの短い休み時間の中着替えを済ませ、体育館に移動し授業。

そしてまた短い休み時間の中着替えを済ませ3時間目の小テスト。


これは割とハードスケジュールなのである。


しかも、体育で疲れた後の眠気がオマケでついてくる。


(さて…、今日も一日頑張りますか)


ホームルームが終わり、そういえば先生の話全く聞いてなかったなと思いつつも、俺は1限目の準備を始めた。




3.



1限目が終わり、女子たちは群れて更衣室へと向かう。

男どもは教室で着替えだ。


すると着替えながら、矢吹が話しかけてきた。


「九条くん、体育もいいけど数学の小テストは大丈夫かい」


「ああ。ぼちぼちかな」


「相変わらず肩の力抜いてるねぇ~。」


「要は赤点とらなきゃ良いんだろ。」


先に着替え終わった俺は廊下へと歩き出す。


「ああ、待って待って。すぐ行くから~。」


「早くしろよ。」


着替えが遅い矢吹を待っていたら、他の男どもはもうみな着替え終えて行ってしまった。


「ほら…、お前が遅いから、俺らが鍵締めなきゃ行けなくなっただろ。」


「ごめんごめん~。」


移動教室などの時は防犯のため、教室に鍵を締める決まりになっている。


鍵を締めた後は、職員室の鍵掛けに鍵を戻さなければいけないので、最後に出る奴が鍵を締めるという暗黙のルールだ。


(…あれ。)


教室から出て鍵を掛けようとしたそのとき、廊下で石原が他のクラスの女子たちと談笑しているのが目に入った。


「おい、石原。…鍵掛けるぞ?」


石原は満面の笑みで振り返った。

よほど話に花が咲いていたらしい。


「あ…!ちょっと待って。」


一緒に話しているのは… 他のクラスの女子2人。

手には、2人とも財布を持っていた。


「私まだ着替えが教室だから、私が鍵締めとくよ~。」


間に合うのかこいつは…?

という疑問を感じつつも、俺は石原に教室の鍵を渡した。


「んじゃ、よろしく」


(鍵を職員室に持っていくのも面倒だし、まあ丁度良いか)


俺たちは体育館に向かうべく教室を後にした。

石原は鍵を受け取った後もまたその2人と話していたようだった。


廊下を歩いていると、怪訝な顔をしながら矢吹が質問を投げかけてきた。


「いつの間に他のクラスに友達作ったんだろう~?」


「お前なぁ…、入学して早々、部活も入っていない奴が他のクラスの奴と仲が良ければ、同じ中学出身と考えるのがベターだろ」


「あ、それもそうか」


矢吹は、頭が良いのか悪いのか分からないときがたまにある。

こいつはこんなんだが、俺より成績は良い。

特に記憶力に関しては、人より長けてると感じる。


よく覚えてるなぁそんなこと。

ってことをこいつの口から聞くことが多々ある。


(やはり石原も同じタイプかも知れんなぁ)


ところで俺は決して運動が得意ではないが、嫌いというわけではない。

考え事をしていることが多い俺ではあるが…。


(身体を動かすときくらいは、頭を動かす必要はないしなぁ)


そんなことを考えてるうちに、体育の授業はいつの間にか始まっていた。

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