魔石を求めて
『ウォン!ウォン!』
「……ッ!ああ、クロ。おはよー」
(フッ、さすがにもうクロの声くらいじゃ驚かないぜ)
『ん?主やっと起きたのかのう?』
「うぉーーー!」
いきなり白い獣がぬぅっと現れて宗太は叫び声をあげた。
「ああ、なんだ、シロか」
『なんじゃ、藪から棒に。ワシの顔を見て叫び声をあげるなぞけしからんやつじゃ』
シロは宗太を軽く踏み踏みして不快さを表した。
「わ、悪かったよ。だから、そんなに踏むなよ!」
(なんか多重結界が壊れそうで怖いんだよ!)
『主よ、体調が良いなら今日は火の魔石を取りに行くのかのう?』
すっかり本来の目的を忘れていた宗太だったが、それをおくびにも出さずシロに答えた。
「ああ、そうだな。昨日ゆっくり休めたから今日は火の魔石を取りに行くか!」
宗太とシロは昨日の出来事はまるでなかったように普通に会話をした。
『ワフワフ!』
クロは尻尾を振って喜びながらも表情はキリッと緊張感があった。
「まあ、その前に腹ごしらえだ。もぎたての野菜と果物を食うぞ」
クロはよだれを垂らしながら尻尾をぶんぶん振った。
畑の食べ物を食べるために朝の狩りをせずに腹を空かせていたのだ。
シロは素知らぬ振りをしてクールを装っているが、昨日食べたリンゴの味が忘れられず、尻尾はクロにも負けずにぶんぶんと振られていた。
「とりあえず今育ててるやつ全種類を少しずつもいでいくから食べれるだけ食べてくれ。スキルでいくらでも収穫できるからな」
クロとシロは宗太がもいでいく端から争うようにペロリと平らげていった。
シロは食べた後にこれは美味いだの不味いだの評価をつけていった。
(すごい食欲だなー。えーと、クロは野菜全般とピーマンみたいな苦味があるのが好みなんだな。シロは果物全般とトウモロコシみたいな甘味があるのが好みっと)
忘れないように何度も繰り返し脳内に刻み込んだ。
宗太は前世の仕事柄、相手の好みを覚えるのが得意であった。
「さあ、お待ちかねのデザートのリンゴだぞー!」
『ワォン!』
『待ちかねておったぞー!ワシのリンゴー!』
先程までのように争いながら食べるのではなく、二匹は味わいながらゆっくりとシャクシャク食べてリンゴを楽しんだ。
宗太はそんな二匹を微笑ましく見ながら自身もシャクリとリンゴをかじった。
(クロもシロもリンゴが大好物なんだなー。その内、果樹園を作っていつでも好きな時に食べれるようにしておこう)
「よし、腹はいっぱいになったな?それじゃあ、火の魔石探しに出発だー!」
『アオーーーン!』
クロの遠吠えを合図に宗太達一行は出発した。
『のう、主よ。そういえば、何のために水と火の魔石を欲していたのじゃ?』
とてつもない速さで移動しながらシロは宗太に問いかける。
「あ、あばばば!ふ、風呂をおおぉお、つ、作るため、めぇええぇー!」
クロの背にしがみつきながら答えようとした宗太は、口を開けるたびに風圧でうまく喋れなかった。
それでも言いたいことが伝わったのか、シロは驚きの表情になったあとに顔を歪めた。
『主はたったそれだけのために、ワシの縄張りやドラゴンの縄張りに行こうとしておったのか……』
(果たしてただのアホウなのか大物なのか判断に悩むところだのう)
『まあ、ワシがついておるからの。安心してドラゴン共の巣に殴り込むがよいわ』
「あばばば!な、なな殴り込みなんて、てぇええぇ……!」
『何を言うておるのじゃ。さあ、もうひとっ走りしたらドラゴンの住む山の麓じゃ。もう少し飛ばせば日帰りできようぞ』
そう言うとシロは先程よりも速く駆けて行った。
宗太を気遣って走っていたクロは先を走るシロに負けじと駆け出した。
「う、うぅう嘘だろぉおおぉー!あばばばばばー!」
更に速くなったクロに宗太は振り落とされまいと必死にしがみついた。
『ふん、情けない主じゃ』
足をガクガクさせながらへたりこむ宗太にシロは冷たい言葉をかける。
「ふ、ふざけるなー!麓に着くまでに何回俺が振り落とされたと思ってるー!」
怒り心頭の宗太はいかに自分が酷い目に合ったかを身振り手振りで伝えようとした。
『大袈裟な。たった二回ほど振り落とされただけじゃろう?』
「三回だー!一回なかったことにすんな!」
『ふん、みみっちい男よの。結局、結界で無傷のくせしおって被害者面とはのう』
『クゥン……』
クロは申し訳なさそうに尻尾を垂らして縮こまった。
「あ、いや、クロが悪いんじゃなくて、シロが速く走るから……」
慌ててフォローする宗太だがシロが余計な一言を言う。
『まあ、振り落としたのはワシじゃなくてクロだからのう』
『……クゥン』
更に縮こまるクロを宗太は必死になだめた。
「おまっ!シロ!余計なことを言うなよ!前を走られたらクロの本能刺激することくらい分かってて挑発したんだろ!」
『さぁてのう』
シロは人間だったら口笛でも吹きそうなほどわざとらしく顔を反らした。
「クロ!気にすんなって!クロだけが俺の味方なんだよ!これからもクロが俺の相棒だ!な?だから元気出してくれよ?」
クロは上目づかいをしながら垂れ下がった尻尾を少し振った。
『俺、主ノ役ニ立テルヨウニ頑張ル』
「ああ!期待してるぞ!」
『ウォン!』
ようやく元気を取り戻したクロに宗太は、ホッと胸を撫で下ろした。
『はよう魔石を取りに行くぞ。せっかく急いだのにもたもたしてたら、日暮れまでに帰れんではないか』
宗太はキッとシロを睨むとクロにまたがった。
『もうすぐそこじゃ。この洞窟の地下に火の魔石が気配がするぞ。一気に駆け下りるからしっかりクロに掴まっておるのじゃぞ?』
「……げっ!?」
『主、大丈夫ダ!気ヲツケテ下リルカラ!』
そう言うと二匹は一気に洞窟の崖を駆け下りた。
「ああーあぁああぁー!」
宗太は吐き気がするほどの浮遊感に鳥肌を立てながら、必死にクロにしがみついた。
「し、死ぬかと、思った……」
(さっさと火の魔石取って風呂作ったら、もう外は出歩かないぞ!引きこもってやる!)
こんなことでいちいち死ぬだとか言う宗太に憐れみの視線を向けるシロと、安全に宗太を崖下まで送れたと誇らし気なクロのドヤ顔を見た宗太は脱力した。
「い、行くぞ。とっとと魔石だけ取って帰るんだ」
『ワフ!』
『……』
(ここまで来てドラゴンをイジメて帰らんなどあり得ぬことじゃ)
「……なんでシロは返事しないんだ?」
『……』
(いちいち煩い男だのう)
「なあ!返事しろよ!お前なんか企んでるだろ!」
宗太は嫌な予感しかせずシロに詰め寄った。
『ワシがそんなことするわけがなかろうもん!ワフン♥』
その答えに何かする気だと確信した宗太の口がわなないた。
「おまっ!全然可愛くねーよ!ふざけんなよ!俺は必要以上の危険は冒したくねーんだよ!」
語気を荒げた宗太は次の瞬間凍りつく。
『グギャーーーオ!!』
洞窟内の空気がビリビリと震えた。
『近いのう、ドラゴンがおるぞ!主の声で気づかれたようじゃのう』
シロが宗太をバカにするように鼻で笑った。
ドラゴンに気づかれた事実に青ざめた宗太はシロの挑発にも気づかずパニックになった。
(くそ!見つからないように行動しようと思ってなのに怒鳴り声なんて出しちまった!)
クロは全身の毛を逆立てながら宗太を守ろうと前に立った。
『よし!ワシが一番にドラゴンに爪を食らわしてやろうぞ!』
張りつめた空気をぶった切るようにシロが飛び出して行った。
「ま、待て!相手はドラゴンなんだぞ!勝てるわけがないだろ!」
宗太が慌てていると世界全書がパラパラとめくれ、ドラゴンの詳細が現れた。
【ドラゴン】
種族平均
体力:A
攻撃:A
防御:A
魔力:A
魔攻:A
魔防:A
俊敏:E
器用:E
幸運:D
所持スキル
Aランク
・不老長寿 ・超再生 ・竜鱗
Bランク
・火耐性B ・土耐性B ・火魔法B
・千里眼 ・適応 ・人化 ・咆哮
・飛行 ・土中行動 ・言語理解
Cランク
・全状態異常耐性C ・感知
超A級モンスター。
炎のブレスを吐き空を飛ぶドラゴン。
標高の高い山頂や洞窟や地下等静かな環境を好み生息する。
他種族を見下しているためどの種族とも関わり合いになることを嫌う。
知能が高く人語を理解し人化のスキルを使い稀に人里に現れる。
かつては人々を導く神の遣いとして崇められたが今は破壊の権化として恐れられている。
長命のため繁殖力は極めて低く幼いドラゴンは大人のドラゴン達に慈しまれ守られている。
「いやーーー!!」
宗太の絶望の悲鳴がこだました。