収穫と魔石
『ウォン!ウォン!』
「うわー!って、クロか。おはよー」
いつものやり取りをして起きあがった宗太は、昨日のマナキノコのことを思い出して悪寒が走った。
(き、昨日は散々だった。死ぬかと思った。でも説明には絶対死なないってあるから、ほんと絶妙に苦しいだけのバランスなんだろうな。でも今は体は何ともないし、多分健康快癒のおかげなんだろうなあ。と、それより耐性上がったか確認確認)
パラパラパラ
【国見宗太】
ステータス
体力:D
攻撃:D
防御:D
魔力:B
魔攻:E
魔防:E
俊敏:D
器用:A
幸運:B
スキル
Aランク
・精神異常耐性A
Bランク
・精神疲労耐性B ・睡眠耐性B ・忍耐
Cランク
・肉体疲労耐性C ・集中 ・速読
Dランク
・交渉
[NEU]・毒耐性D
[NEU]・麻痺耐性D
[NEU]・幻惑耐性D
[NEU]・混乱耐性D
[NEU]・恐慌耐性D
[NEU]・障気耐性D
[NEU]・痛痒耐性D
Eランク
[NEU]・主従の絆E
[NEU]・魅了耐性E
[NEU]・気絶耐性E
[NEU]・呪い耐性E
[NEU]・弱体耐性E
[NEU]・恐怖耐性E
[NEU]・即死耐性E
「って、おい!どんだけ耐性上がってんだよ!一気にDまで上がってる耐性まであるぞ!つーか、即死耐性って……、やっぱ死にかけてんじゃねーか……」
(魔の森産のマナキノコは危険すぎる……)
改めてマナキノコの恐怖にガクブルした宗太だったが、それでも耐性が上がったことに喜んでいた。
(まあ、これだけ耐性があれば次からは昨日ほど苦しまずに耐性上げれるだろ)
ワフワフとクロが心配そうに宗太の側をうろうろしだした。
「ああ、大丈夫だよクロ。心配すんな。またこのマナキノコを取ってきてくれ。これから毎日一つマナキノコを食べることにしたからさ」
『ワォン!任セテクレ主!』
クロをひとしきり撫でまわしたあと、宗太はストレッチで体を伸ばした。
「よーし、今日は畑の収穫してから風呂作りにでも取りかかるかな」
(早々に食べ物と寝床の心配がなくなったのは大きいな。後はこの拠点をいかに快適にするかだ)
『畑スゴイ!モウ食ベラレル!主、風呂ッテ何ダ?俺ソレモ手伝ウゾ!』
「ああ、風呂っていうのは温かい水で体を洗う場所だ。今日は力仕事もあるからクロにも手伝ってもらおうかな。とりあえず今は、ちゃちゃっと収穫しちゃうか」
『ウォン!頑張ルゾー!』
宗太の手伝いができることが嬉しくてクロは外を駆け回った。
「おおー、規模の小さい畑でも作物が沢山実ってたら壮観だな」
『主、主!俺モ収穫スルゾ!』
「ん?ああ、クロの爪でできるかな?ほれ、こうやってもいでいくんだ」
宗太はトマトをもぎながらクロに説明した。
クロはそんなの簡単と言わんばかりに爪を大きく振り、周りのトマトまで潰してしまった。
『クゥン……』
「ははは、気にすんな。トマトはやわらかいからな、優しくヘタのところを切らないとダメなんだ」
クロはリベンジに燃えて、そーっと、そーっと爪を一瞬だけ横に動かしてトマトのヘタを切った。
その様子を見ていた宗太は、すかさずカゴを具現化してトマトをキャッチした。
「よくできたなー、クロ!その爪じゃ難しいだろうにスゴいぞ!」
クロは喜び思いっきり尻尾をぶんぶん振ったらトウモロコシを半分ほどなぎ倒した。
その事実に可哀想なほど驚愕の目をしているクロに、宗太は思わず笑みをこぼす。
「あー、これはトウモロコシっていってな、別に茎をなぎ倒したって構わないんだ。むしろ、もぎやすくなって助かったよ」
硬直から立ち直ったクロはまた尻尾を振ろうとして思いとどまった。
それからもクロは収穫物を散々駄目にしてしまったが、尻尾だけは常にピンと上を向いていた。
「よーし、収穫物は無限収納にしまってと、もぎたてリンゴでも食べるか!」
宗太はたわわに成ったリンゴの木から二つほどもいで口に含み、もう一つをクロにあげた。
「クロはダメにしちゃった野菜とこのリンゴが朝メシな!」
『ワォン!主!コノ野菜ウマイ!森ノ草ト全然違ウ!ガツガツ!主!俺リンゴ好キ!甘イ!』
クロは初めての味に感動して、一つ食べては宗太に感想を言った。
(クロは意外とグルメなのかな。味の違いも細かく分かってるし)
そんなクロを微笑ましく眺めながら食事を終え、次の風呂作りへうつった。
「さてさて、露天風呂の作り方を世界全書先生に聞きますか!」
パラパラパラ
(んー、なになに。木で作るタイプと石で作るタイプがあるのかあ。水を温めるのに火の魔石が必要で、排水には水の魔石を使用っと……。魔石ってなんだ?!)
パラパラパラ
【魔石】
魔素を大量に吸った石が長い年月をかけて変化したもの。
石の置かれた環境によって様々な属性がつくことがある。
例えば火山地帯には火の魔石というように環境に合った属性となる。
天然物の魔石は長年にかけて魔素と属性を溜め込んでいるのでとても長持ちし物によっては何百年と持つ。
人工物は魔石に属性魔力を吹き込むことで使用可能となるが人が込めれる量の魔力では長持ちはしないので短期間使用の消耗品である。
魔物の体内にも魔石がありこの魔石の大きさや純度によってその魔物の魔力が決まる。
冒険者は魔物の魔石を売って生計を立てている者がほとんどである。
「ぬおー!つまり魔石探しからしなければならないということかあー!」
『キャウン!ドウシタ主!』
クロは突然の叫び声に驚き尻尾を内側に隠しながら宗太の元に駆け寄った。
「クロ!予定変更だ!今日は魔石を探すぞ!火と水の魔石を探し終えるまではここには戻らないぞ!」
今までは生きる為に必要な作業をしていたから気にはならなかったが、少し余裕ができたらすぐに風呂に入れないという事実に宗太は我慢ができなくなっていた。
宗太は是が非でも風呂に入ると決意を固めてクロに発破をかけた。
『分カッタゾ主!火ト水ノ魔石ダナ!土ト緑ノ魔石ハ縄張リニ沢山アルケド火ト水ハ他ノ奴ノ縄張リダカラ慎重ニ行カナイト危険ダ』
クロから危険と言われて少し怯んだ宗太だったが、風呂に入りたい欲求がそれを上回った。
「大丈夫だ、クロ!俺は多重結界のスキルがあるから攻撃は効かないし、魔物支配のスキルの効果で魔物は全員俺の子分にできるんだ!」
『主スゴイ!』
クロはキラキラと尊敬の眼差しで尊敬を見た。
「ハーハッハッ!スゴいだろー?クロにも多重結界をかけてやるからな。これである程度の攻撃は効かないから安心しろ!」
宗太はクロにまたがり意気揚々と出かけた。
『グゥルガァーーー!』
「ぎゃーーー!何で?どうして?魔物支配が効かないんだあー!」
宗太は用を足すためにほんの少しクロから離れたところを熊に襲われていた。
体を丸くしてうずくまりながら、熊の攻撃を結界で弾くたびに悲鳴をあげていた。
すぐにクロが来て熊をやっつけてくれたが、恐怖で固まった体はなかなか動かなかった。
(ど、どうして魔物支配が効かない?何でだ?)
パラパラパラ
【熊】
世界全域の森や山に生息する獣。
知能が低く攻撃的なため一般人には脅威だが冒険者にとっては入門といえるべき弱い獣である。
魔物ではないので魔石はなく魔力もないので魔法も使ってこない。
(熊?!ただの熊?!獣であって魔物ではないと!故に魔物支配は効かないと!そ、そんなことパソコンのスキル詳細に載ってなかったぞー!こんな大事な情報ー!)
宗太は激しく脱力しその場にうずくまったまま肩を落とした。
心配したクロがくぅんくぅんと鳴きながら宗太に寄り添うように座った。
「ありがとな、クロ。どうやら熊は魔物じゃないから俺のスキルが効かなかったらしい。だが、魔物には効くはずだから大丈夫だ!」
宗太は自分に言い聞かせるように言って、弱気な自分を奮い立たせた。
何せまだクロの縄張りを抜けてもいないので、魔石探しはまだまだこれからなのだ。
「よ、よし!クロ、行こうか」
『主、水ノ魔石ハ隣ノ縄張リニアッテ近イケド、俺ヨリ強イ魔物ガイル。火ノ魔石ハ森ノ奥ノドラゴンガイル山マデ行カナイトナイ。ドウシタライイ?』
「ま、マジでか。水の魔石はクロより強い魔物がいて、火の魔石に至ってはドラゴン……」
(むむむ、帰るか?いやいや、風呂は必須!故に魔石も必須!いずれは取りに行かなければならない。なら今行っておこう!)
宗太は覚悟を決めて頷いた。
「よし、どっちも行こう!魔石を取るだけだから、取ったらすぐ離脱しよう!ヤバそうな奴と出会ったら即撤退な!」
『了解ダ主!』
クロは真剣な表情になり心なしか毛が逆立っていた。
絶対に宗太を守り、宗太の望みを叶えると奮い立った。
「行くぞ、クロ!」
『ワォーーン!』
クロに乗った宗太は隣の縄張りに向けて出発した。