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縄張り探索


『ウォン!ウォン!』


「な、なんだなんだー!……あっ、クロか」


いまだに異世界に慣れない宗太は突然の獣の鳴き声、もといクロの声に飛び起きた。


「おはよー、クロ」


『オハヨー、主!』


尻尾を振って待機しているクロを見て、宗太はまるで長年一緒にいたように錯覚するほどの愛しさを感じた。


(そういえば俺って生き物飼ったことなかったな。昔は犬飼ってみたかったけど面倒見る自信なくて結局飼わなかったんだよな。働いてる時はほとんど家に帰れなかったから物理的に飼うのが不可能だったし。まさか異世界に来て、犬じゃなくて狼を飼うことになるとはなー)


人生何があるか分からないものだと宗太は一人で頷き、クロの頭を撫でた。


「今日は畑を作ろうと思うんだけど、クロにはこの辺で取れる食べ物の種を取ってきてもらいんだ。できるか?」


『種?分カッタゾ!デモ畑ッテナンダ?』


「ああ、畑ってのは自分で野菜とか果物とか食べれるものを作る場所のことを言うんだ」


『……?食ベ物ナラ森ニ沢山アルノニ作ルノカ?』


「そうだぞ。家の近くに畑を作ればわざわざ森に探しに行かなくてもすぐ食べ物が手に入るし、例え他の魔物に荒らされて食べ物が食い尽くされても飢える心配がないんだ。それに森をうろつかないで済むから他の魔獣に会わないし安全だしな」


『ヘェー!主スゴイ!頭イイ!俺モ畑ヤリタイ!』


「はははっ、クロもやりたいか!て言っても地面を耕さないといけないから、こればっかりはクロには難しいかもな」


『地面掘レバイイノカ?』


クロが意気揚々と跳ねながら地面に向かって爪を振りかぶった。

すると、風の刃で地面が掘り返されいい感じに空気の入った柔らかい土ができあがった。


「ふえ!?マジで!?」


『ドウ?主ー!コレデイイカ?』


「お、おう。俺のスコップ先生やクワ先生が出番ないくらいにはいいんじゃないか」


ワフンと得意気なクロに宗太は自分の存在意義を見失いかけていた。


「じゃあさ、ここからあそこくらいまで今みたいに土を柔らかくできるか?」


『任セテクレ!ヤッテミル!』


クロは軽やかな足取りで跳びはねながら地面に風の刃を叩きつけていった。


三十分ほどで、そこそこな広さの畑の土台が完成した。


「いやー、クロさすがだ!正直スゴすぎでビックリだ!」


『俺、主ノ役ニ立ッタカ?』


「ああ、スゴい役に立ったぞ!クロがいなかったら、俺は畑作りにもっと何日も苦労してただろうからな。ありがとな、クロ」


『ワォーン!ヤッター!嬉シゾー!』


宗太の周りをワフワフとクロが張りついた。


(それにしても、すごいスキル沢山持っているはずの俺よりクロのほうが役に立つとか、これいかに。やっぱり授かったばかりのスキルより、基礎から磨き上げたスキルのほうが扱い方が上手いのは当然か)


「んじゃ、この辺散策して食料調達と種集めをするか」


そう言うと宗太はクロに道案内を促した。


クロはまるで護衛任務しているかのごとく宗太を気遣いながら縄張りを案内した。






「結界を張っているとはいえ、さすがに魔の森は怖いなあ」


宗太は小動物や虫の物音や鳴き声にいちいちビクつきながら、クロの毛を握りしめた。


クロは宗太に頼られていると思い、守らねばという使命感に燃えて、小動物や虫を雄叫びや爪でなぎ払っていった。


『ワフ!主、ココガ俺ノ縄張リデ一番食ベ物ガ多イ所ダゾ!』


そこは小さな川が流れ、少し拓けた空間に草花と果樹が茂る綺麗な場所だった。




「おおー!すげー綺麗なとこだな」

(死にそうなほどの障気が漂う森にも、こんな綺麗な場所があるんだな)


宗太はいろいろな木の実や野イチゴに目をやると、それをエサとする生き物が沢山集まっているのが見えた。


どんなに小さな生き物であろうが、魔の森に住むことが可能なとんでも生物であると思っている宗太は、木の実の採取に及び腰になる。


「……クロ、俺が採取してる間、他の生き物が近寄らないようにできるか?」


すがるような目をした宗太はにクロは頷いた。


『多分デキルゾ。俺ノ縄張リダカラ俺ガ機嫌悪ソウニシテレバ小サイ奴ハダイタイ近寄ッテコナイ』


「そうか!それはよかった!じゃあ俺は適当に採取してるからクロは見張りを頼むよ」


『ワォン!』


クロはいつもよりキリッとした顔立ちになり、見えないオーラを放ちながら宗太の近くを巡回した。


宗太は具現化でリュックサックとビニール袋を作り、種類ごとにまとめて袋詰めしてリュックサックにしまっていった。


突然虫や動物が出てくるんじゃないかと緊張していた宗太だが、結局何も起こらず無事に採取を終えることができた。




「いやー、大量大量!クロ見張りありがとな」


キリッとしていたクロが、くぅんくぅんと甘えるように尻尾を振って宗太にまとわりついた。


「おー、よしよし。他にこの辺で食べれそうなものってあるか?」


『モウ少シアッチニ“イモ”ガアッテ、ダイブアッチニ“キノコ”ガアルゾー!デモキノコハ危ナイ。キノコノ魔物ガ育テテ、取ルト怒ル』


「キノコかあ、俺けっこう好きだけど、魔物が育ててるキノコは何だか怖いな。じゃあそれはパスしてイモだけ取って帰ろうか」


『ワフ!分カッタ!近道スルカラ主俺ニ乗ッテ!』


「え!?乗っていいの?うわー、なんか嬉しいなあ。じゃ、遠慮なく乗らせてもらうわ」

(狼に騎乗するとか超カッコイイな!テンション上がるわー)


『主シッカリ捕マッテテ!』


「了解。って、あー、ちょ、待っ!」


クロは川をジャンプして乗りこえ、崖下をものすごい速さで下っていった。


「あが!あばばばば!」


あっという間に着いたが、心の準備ができていないままに軽く騎乗した宗太は放心状態になっていた。


(崖を飛び降りるとか聞いてないし)


足をガクガクさせ息を切らしながら宗太はクロから降りた。


その場に座り一息ついていると、クロが地面を爪で掘り返してイモを大量に見つけていた。


その様子をボーっと眺めていた宗太は、だからクロは土を耕すのが上手かったのか、と一人納得していた。


「でかした、クロ。沢山見つけてくれてありがとな」


クロの頭を撫でてから宗太は、違うリュックサックを具現化してイモを詰めた。


拠点に戻るには崖の上を登らなくてならないため、宗太は仕方なくまたクロに乗る覚悟を決めた。


「う、うおっ!あばばばば」




拠点に着く頃には肉体より精神が疲労し、まだ夕方だったが宗太は早目に寝ることにした。


クロは今日も役に立ったと誇らし気であった。


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