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拠点


『ウォン!ウォン!』


「ぎゃー!なんだなんだ!……へ?あー、クロの声か。いきなり獣の声がしたからビビったー」


宗太はクロの目覚まし代わりの鳴き声に驚き、まだ寝起きのぼんやりした頭で情報を整理する。


(そういや、昨日はすげー疲れてすぐ寝ちゃったんだった。俺魔力Bあったけど、A級モンスターのクロとの従魔契約はかなりの負担だったんだな。まあ、クロという名の毛皮布団で獣臭いながらも快適に寝れたからいいけど)


「あーー!た、多重結界はどうなった?!」

(結界が切れてたら俺死ぬじゃん。いや、今生きてるけどさ)


宗太はもはや癖のように世界全書を取り出すと、疑問だった多重結界の消費魔力について聞いてみた。


パラパラパラ。


(えーと、なになに。多重結界は使う時に大量の魔力を消費するが、周辺の魔素を取り込むことで発動に必要な消費魔力を抑えることができる、と。ふむふむ。多重結界の維持は通常の結界に比べて大量の魔力を注がないと維持できないが、周辺の魔素を取り込むことで維持に必要な魔力を補うことができる、と)


「てことは、魔素の溢れるこの魔の森では実質ノーコストで!二十四時間!多重結界を使えるわけかー!素晴らしいー!」


『キャウン!主ドウシタンダ!』


突然の叫び声に驚いたクロの体は跳ね上がり、尻尾を内側にしまって心配そうに宗太を見る。


「ああ、驚かせて悪かったクロ。いやちょっと予想外にいいことがあってね」


クロは小首をかしげながら機嫌のいい宗太に尻尾を振ってまとわりついた。


(いやー、これなら大きな家建てて大きな畑作っても全部丸々結界内に収まるな)


「よし、とりあえず飯にするか!」


宗太は携帯食料を取り出し固いパンをかじった。


「ぶぇー、まっず!」


宗太は水筒の水をがぶ飲みした。


(不味いし口の中の水分もってかれるし酷いな)


「クロ、食うか?」


『俺、モウ狩リシテ食ベタ!』


「そっか。今度俺も食べれそうなやつがあったら教えてくれ」


『分カッタゾ!任セテクレ!』


(しばらくはこの不味い携帯食料で我慢して、食料が尽きる前にクロに森を案内してもらって調達するか。とりあえず今は雨風しのげる拠点を作らないとな)


「よし、クロ!今日はこの辺りに家を作るぞ!まずは周辺の木を伐りまくらないとな」


そう言って宗太はやっと出番がきた具現化スキルを使い、ノコギリや大工道具を作り始めた。


(本当はチェーンソーが欲しかったけど、俺触ったことないし仕組みもよく分からんから具現化できないんだよなー。ノコギリは触ったことあったし構造はイメージしやすいから楽勝だけど)


宗太は何が必要か考えながら次々と道具を作っていく。


するとその傍らでクロが爪を大きく振って衝撃波のような風の刃をだし、周辺の木々をなぎ倒していった。


一瞬何が起こったか分からなかった宗太は、ぽかーんと口を開けて驚いていたが、すぐに現状を理解した。


「く、クロ。お前、スゴいな」


絞り出すようにクロを褒めると、尻尾をブンブン振ったクロが宗太に甘えだした。

宗太はそんなクロを褒めるように大袈裟に体をワシャワシャと撫でまわした。


「クロ、この辺一帯の木を全部今みたいにできるか?」


『モチロンダ!任セテクレ、主!』


クロは勢いよく飛び出して、凄まじい速さで木々をなぎ倒していった。




ほんの五分ほどで森の真ん中にポツンと拓けた場所ができた。




宗太は呆気に取られながらクロを褒め、せっかく作った道具達が活躍の場がなく無限収納へお蔵入りになっことに少し寂しさを感じた。


「よし、クロがこんなに頑張ってくれたから、すぐ家造りができるよ。ありがとな、クロ」


『ウォーン!』


クロははち切れんばかり尻尾を振っていたが、宗太の邪魔をしないように少し離れた場所で尻尾を振りながら待機した。


「よーし、この沢山の木を板に加工……、する、ぞ……」

(ん?どうやって加工するんだ?ていうか加工する器具なんか俺触ったことないから具現化できねーし。世界全書先生教えてー)


パラパラパラ。


(えーと、木工職人のスキルで簡単に作製できるのか。え?大工スキルじゃないの!?あれ?もしかして俺、詰んだ?)


クロが心配そうに近寄ってきて、くぅんくぅんと鳴いた。その瞬間、宗太はひらめいた。


「なあ、クロ。もしかしてお前、さっきの爪の攻撃でこの倒れた木を真横にスパンと切って、これくらいの厚さにできない?」


『クゥン?』


説明が難しかったのかクロが小首をかしげていると、宗太が身振り手振りで説明しだした。


「ここをこんな感じで、爪でスパン!と」


『ワフ!』


クロは分かったと言わんばかりに爪を振るった。風の鋭い刃が木をスライスしたが、斜めに切れており板のようにはならなかった。しかし、断面は恐ろしく綺麗だった。


「あー、おしい!こう、じゃなくて、水平にこう!な感じ!」


『ワフ!』


宗太はクロを褒め称え励ましながら何度も繰り返し、ようやく歪ながらも厚みの異なる板が大量にできた。


「スゴいぞー、クロ!さすがクロだな!すごい助かったぞ!特にこの板は一番厚みも均等で素晴らしい出来だ!」



宗太はその改心の出来の板だけを使わないように別の所に運び、クロにこの板を目指すようにと言い、仰々しく飾って置いといた。


『ワォーン!』


クロは宗太に沢山褒められたのが余程嬉しかったのか、新たな木を伐採しに駆けていった。


(うーん、すごい体力だなクロは。やる気に満ちあふれている。しかし、これだけ不揃いな板だと家を造ったらすきま風だらけでマズいことになるな。まあ、味があってある意味いいのかもしないけど)


「とりあえず雨風しのげる簡易小屋を造るか!」


宗太はテキパキと大工道具を具現化し、作業に取りかかった。


(唸れ!俺の大工スキル!)


カンカンカンカン。


頭の中に浮かび上がってきた設計図に忠実にトンカチを無心で振るい続けた。何時間も食事もせず一心不乱に作業をして、日が暮れる頃にようやく完成した。






「よーし!完成だー!」


宗太は伸びをして体をほぐしながら、完成した簡易小屋を眺めた。


「んー、不恰好でイマイチだが、初めて作ったとは思えない程の出来だな。歪な板も味があるし、色々なインテリアでも飾れば見れる家がになるだろ」


一区切りついて落ちたついた宗太は、ようやく日が暮れていることに気がついた。


「あー、半日も作業してたのか。全然気がつかなかったわー。飯も食べ忘れてたし」


グゥーと鳴る腹の虫を静めるために宗太は携帯食料を取り出した。


「うん、不味い」


宗太はふと隣のほうを見ると、木材が山のように置かれていた。


「うおー!すげー大量の板だ!」


宗太の声に反応してクロが尻尾を振って駆け寄ってきた。


『主ー、俺上手ク板ニデキルヨウニナッタゾ!』


「おおー、すごい頑張ったんだな!偉いぞ、クロ。ほんとに奥のほうの木材の山なんかほとんど均一の板ばかりじゃないか!たった半日でここまで上達するなんてスゴすぎだな」


『モット頑張レルゾ!主マダ板イルカ?』


「んー、いや、さすがにこれだけ木材の山が何個もあるから、しばらくは必要ないかな。でも、少しずつ拠点は大きくしていくつもりだから足りなくなったらまたクロにお願いしようかな」


『分カッタ!任セテクレ主!』


クロは活躍の場がなくなって一瞬しょんぼりしたが、宗太に頼られたことによりすぐに機嫌がなおった。


「よし、もうすぐ日も落ちるし寝床の準備でもしようか」


宗太は作りたての簡易小屋に入り、あらかじめ区分けしてあったクロの寝床に、具現化スキルで低反発マットレスを敷き詰め大量の羽毛布団を作り出した。


「さあ、クロ。こっちに入っておいで。入口は広くしたから入ってこれるだろ?ほら、ここがクロの寝床な!」


クロが興味深そうに小屋の中に入り自分の寝床を見る。


『主ハ一緒ニ寝ナイノカ?』


「俺は隣のこっちに寝るよ」


宗太はそう言って仕切りで区切られた横のスペースを指でさした。


クロは少し寂しそうにしながらも、興味津々に寝床に座りふわふわな感触に興奮し、まるで巣作りするかのように布団を器用に重ね自分の寝やすいように形作った。


その様子を満足そうに眺めたあと宗太は自分の寝床に高級ベッドを具現化した。


(ああ、この感触素晴らしい!高級ベッド触ったことあってほんとによかったー!)


生前、売り物の寝具コーナーのベッドに買いもしないのに寝心地を確かめるために横になった自分を褒めた宗太は、羽毛布団を具現化して完全に寝る体勢に入った。


「クロー、俺はもう寝るぞー。おやすみー」


『ウォン!主オヤスミー!』


宗太はクロに一声かけるとすぐにまどろんで夢の中に旅立った。


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