魔の森の支配者
果樹園を作って以来、ゼルギオンは毎日果樹を世話しにやってきた。
宗太のスキルで成長させたとはいえ一から何かを育て、しかもそれを食すという経験が初めてで、ゼルギオンはすっかり夢中になっていた。
『可愛い可愛いマンゴーの木ちゃん、今お水をあげるからねー♪』
鼻歌を歌いながら果樹達に水をあげるゼルギオンに宗太が声をかけた。
「おはよー、ゼル。今日も俺が起きる前に果樹園の世話してくれてたんか……ありがとな」
やや呆れながら宗太は一応礼を言った。
『いえいえ、当然のことをしたまでです!……あっ、また虫が寄って!この!この!害虫め!』
すごい勢いで虫を潰すゼルギオンに恐怖した宗太はクロにしがみついた。
(ゼルギオンさん、キャラ変わってますよー!)
ガクブルしてたら、結界の外に人影が見えた。
よく見ると草むらに上半身裸の女がこちらを見ていた。
(な、なんだこの展開は!人間か?関わりたくないが何で裸なんだ?!)
パニックになりながらもほっとくわけにもいかず女の元へ行こうとしたらクロが唸って止めた。
「なんだ、クロ?あの女ヤバいのか?」
『グゥルルル!主、アレハ魔物ダ!』
「マジか!?」
いつまで経っても近寄らない宗太に痺れを切らしたのか、魔物はのそのそと草むらから出てきた。
「げーー!く、クモ!」
パラパラパラ
【アラクネ】
種族平均
体力:C
攻撃:B
防御:C
魔力:C
魔攻:B
魔防:C
俊敏:B
器用:B
幸運:D
所持スキル
Bランク
・毒耐性B ・障気耐性B ・幻惑耐性B
Cランク
・魅了耐性C ・粘糸 ・緑魔法C
・麻痺牙 ・変装 ・夜目 ・追跡
・感知
Dランク
・毒牙 ・糸職人D
B級モンスター。
糸を吐き毒牙や麻痺牙で獲物を仕留める半蜘蛛人。
森や障気の濃い環境を好み生息する。
特に魔の森に生息する固体は魔素を吸ってより強力な固体となる。
狩りは待ち一辺倒だが希に自ら狩りに赴き気に入るとそこを縄張りとする。
雌しかいない種族で他種族の雄を繁殖相手に選び繁殖を終えると相手の雄を食べる。
繁殖力はとても高いが自ら子供を食べてしまうので子供の生存率は高くない。
見た目とは反して人間らしさのかけらもない無情な魔物でとても執念深く一度獲物に認定されると逃げることはほぼできない。
(うぉーー!!つぇー!!世界全書先生が逃げられないとまで仰っておりますけどー!なんかすげー俺見られてるんですけどー!)
アワアワしながらも結界内にいれば安全だと心を落ちつかせた宗太はクロとゼルギオンにどうすればいいか相談した。
「な、なあ、あれどうすればいい?」
『アイツ、生意気ニ主ヲ狙ッテイル!俺ガヤッツケテクル!』
『じゃあ僕も加勢しますよ。アラクネごとき敵ではないですから』
黒い笑みを浮かべているゼルギオンは怒りをにじませ、クロは怒りをほとばしらせていた。
「え?殺すのか?……魔物とはいえ半分人の姿をした女を殺すのは、ちょっと……」
宗太が殺すことに消極的だったため、とりあえずは無視することになった。
しかし、クロは事あるごとに威嚇し、ゼルギオンは命拾いしやがって、と唾を吐いていた。
それにもめげずに図太く結界外をうろついては宗太をジーッと見つめていた。
何をするでもなく従魔になりたそうにしているのでもなく、ただ黙って見つめるその姿があまりにも恐ろしく、宗太は三日で根をあげた。
「た、頼む。もう限界だ……。あいつを追い払ってくれ!」
『グゥルルル。任セテクレ主!』
『ようやくあの鬱陶しいアラクネを叩きのめせるのですね!』
クロとゼルギオンが臨戦体勢に入った時、森の奥がざわめき鳥達が逃げるように飛び立った。
「な、何事だ!?」
『何事とは失敬な!ワシじゃ、主。数日で帰ると言ったろう?』
森の奥からシロとシロが引き連れた十数匹の魔物がいた。
「……は?な、なんで魔物を引き連れてんだよ!」
『なぁに。ちょっとこの辺り一帯を全て主の縄張りにしてきただけじゃ』
ニヤリと不敵に笑うシロはしてやったりという表情をしていた。
宗太は突然のことで頭が真っ白になり口をパクパクさせていた。
「……な、なんでそんなことするんだよ!クロの縄張りだけでも充分な広さだろ!」
やっとの思いで訴えかけるも、シロはやれやれといった風に首をすぼめた。
『ふぅむ。本当に我が主は欲がなくて困るのう。ワシの主なんじゃから、この魔の森一帯を統べる王にくらいなってもらわんとワシが困るのじゃ』
「なんでお前が困るんだよ!ていうか王とかふざけんな!俺はひっそり気ままに暮らしたいだけなんだよ!」
宗太の魂の叫びはシロには届かず、シロはどんどん話を先に進めていく。
『まあ主に統治なんぞ期待してはおらんから大丈夫じゃ。さっさとコイツ等と従魔契約を結び、再び縄張りに返して統治させればよいだけじゃ。何かあればワシが対処なり処罰なりするから主は方針だけ決めればよい』
しばらく宗太は嫌だ嫌だと喚いたが、シロに何を言っても通じないことを悟り、結局折れてしまった。
『ほれ、さっさと結界にコイツ等入れんか!主が許可せねばいつまでも入れんだろう?』
心の底から拒否したかったが、シロの剣幕に押され魔物達を結界内に通した。アラクネもちゃっかり入ってきた。
『お主等!今日から朝晩一体ずつ従魔契約をする!各自で順番を決めとくのじゃ』
シロが魔物達を当たり前のように仕切り、その様子を遠巻きに眺めながら宗太は本当に逃げられないことを悟った。
魔物達は我先にと従魔契約をしたい者と、様子見で後から従魔契約を考えたい者にキッパリ別れた。今は先に従魔契約したい者達で熾烈な舌戦が繰り広げられていた。
魔物達のほとんどはシロにボロボロにされたものが多く、様子見の魔物は従魔契約自体を嫌がってる素振りもあったが、シロが怖いのか誰も抗おうとはしなかった。
しばらくして、激しい舌戦を制した一匹が前に出てきた。
『はいはーい!あたちが一番ね!ハーピーで一番エライあたちがケイヤクしてあげるよ!』
そう言ってハーピーの女が翼をバサバサさせて宗太に近づいた。
そして宗太の目を見た瞬間、礼儀の欠片もなかったハーピーは目をキラキラとさせ、自然と頭を垂れ宗太にひざまづいた。
その反応を目の当たりにした宗太は、さすが魔物支配スキル……と、まるで洗脳でもしたかのような一抹の気まずさを感じていた。
(い、いや、今では無二の相棒のクロだって魔物支配スキルから始まった関係なんだし、これから良い関係を築いていけば何の問題もない。……ないはず!)
と、宗太は自分に言い聞かせた。
『はよう従魔契約して名付けをせんか!』
いつまでも従魔契約をしない宗太をを急かすようにシロが声をかけた。
「わ、分かったよ。従魔契約すればいいんだろ」
(うーん、ハーピーの女の子かぁ。何て名前にしようかなー。ていうかこの魔物達全員に名前を付けなくちゃいけないのか?ちょっと困るな……)
宗太は少しうんうんと唸りなった後、開きなおったような顔をして口を開いた。
「お前の名前はヒナだ!ハーピーのヒナ!これからよろしくな」
パラパラパラ
【ヒナ】
体力:D
攻撃:C
防御:D
魔力:B
魔攻:C
魔防:B
俊敏:A
器用:E
幸運:D
所持スキル
Aランク
同族支配
Bランク
・障気耐性B ・呪い耐性B ・風耐性B
・風魔法B ・飛行 ・適応 ・千里耳
・電光石火 ・呪歌 ・超音波
Cランク
・魔力操作 ・感知
Dランク
・幻惑耐性D ・魅了耐性D
Eランク
・主従の絆E
種族ハーピー。
超B級モンスター。
国見宗太の従魔。
ハーピー達の女王。
魔の森の一部を縄張りとして支配している実力者。
魔の森で生まれ育ち大量の魔素を体内に蓄え通常のハーピーより魔力が高く魔力を使っての高速移動が可能となった。
得意技は風魔法と高速での鉤爪による攻撃。
(おおー、クロやシロと比べると物足りないステータスな気はするけど、同族支配はすげぇな)
宗太は従魔契約による魔力の消費で気だるさはあるものの、クロやシロの時と比べる大したことはなかった。
『よし!夜になったまた従魔契約するんじゃから、主は少し休むのじゃ』
従魔契約に浮かれて飛び回ってるヒナを見ながら宗太は言った。
「いや、思ったより疲れてないし大丈夫だ。それに、まだ話しもしてない魔物達ばっかりなんだから、せっかくだしこれから歓迎会を開くよ。っと、その前にケガしてる魔物の治療からだな」
魔物達は魔の森の一角を担うヒナとの従魔契約で疲れていないという宗太を感嘆と驚愕の混じった表情で見ていたが、治療と言い始めた宗太に更に驚いた。
『ちゃんと手加減はしておる。そのくらいの傷は舐めれば治るわ』
「みんながお前みたいじゃないんだからな!まったく……。クロ、ゼル!俺が治療している間にちょっと畑と果樹園から適当に持ってきてくれるか?」
『ウォン!』
『はい!すぐお持ちします!』
クロとゼルは宗太から直々のお願いに張り切って走り出した。
そして宗太は、一匹ずつ近寄っても大丈夫か許可を取ってから消毒したり包帯を巻いたりした。ほとんどの魔物はどうしていいか分からずされるがままだったが、中には宗太に心酔している者までいた。
一段落し、その前には歓迎会の準備に入った。
「とりあえずこの辺に机と椅子出すか!」
(どう見ても椅子に座れないやつと、椅子じゃテーブルまで手が届かないやつがいるな)
宗太は開けた場所に大きい長テーブルを置き、椅子と子供用の高さのある椅子とクッションを具現化した。
そして、宗太はそれぞれに合った椅子に一匹ずつ案内した。
魔物達は、どこからともなく現れた机や椅子にも驚いたが、これから主となるような人物の腰の低さにただならぬものを感じていた。
宗太は魔物一匹一匹に声をかけて食べれないものや好物を聞いて回った。
ほとんどの魔物はシロの主である宗太がただ者ではないと思い緊張していたため、何でも食べれると答える以外になかった。
中には図太い魔物もいて宗太にリクエストしている者もいた。
宗太は何でも食べれると言う意見が多くて何を具現化するか迷っていたが、シンプルにステーキや唐揚げなどの肉料理を中心にテーブルに並べていった。
魔物達は従魔契約した後にこんなに魔力を大盤振る舞いして料理を出していく宗太の魔力に恐れ戦いた。具現化スキルを知らない者がほとんどだったが、未知の上位スキルによるものだと誰もが直感的に理解していた。
クロとゼルがカゴいっぱいの野菜と果物を持って来てくれ、それもテーブルに並べられると宗太は魔物達に向けて挨拶をした。
「えー、この度は、なんというか……、シロが勝手に戦いを仕掛けたみたいで悪かったな。俺は国見宗太。こんな形での出会いになってしまったけど、主従というより同じ魔の森に住むお隣さんとして気軽に仲良くしていければな、と思ってる。これからよろしくな。ささやかながら歓迎の宴を用意させてもらったから遠慮なく食べてくれ」
宗太の挨拶が終ると、いただきますと言ってクロとシロとゼルギオンが食べ始めた。
その様子を見ていた魔物達は、先程から来る強烈な食欲を誘う匂いに抗えず、おずおずと食事に手を伸ばした。
『……ッ!!!!』
一口食べてしまえば誰も彼もが争うようにガツガツと食べ始めた。
その様子に満足しながら宗太は自分の食事に手をつけた。
『う、う、うまいー!』
『あたち、こんなオイシイお肉初めて!』
『だ、誰だ!俺っちの肉食べたの!』
賑やかな食卓が剣呑な雰囲気になってきたのを感じた宗太はすかさずおかわりの肉を大量に出した。
魔物達の胃袋は底なしかというほど、とてつもない勢いて平らげていき、宗太は休む暇もなく給仕に徹した。
歓迎会の効果があってだんだんと打ち解けていき、食後のお茶なりデザートなり出して雑談していたらあっという間に夜になっていた。
『主、そろそろ俺っちとも従魔契約してくれ!俺っち役に立つぜ!』
そう言ってカワウソっぽい魔物が宗太に近づいた。
「ああ、もうそんな時間か」
他の魔物達は会話をやめて宗太達のやりとりを見ている。
『俺っちはアーヴァンクだ。水辺は俺っちの独壇場だぜ!俺っちに相応しいイカした名前を頼むぜ!』
「わかった……」
(むむむ、アーヴァンクかぁ。ふむ、分からん。イタチ科の生物っぽい見た目なんだよなー。確かイタチ科にテンっていたな。名前っぽいしそれでいいか)
「よし!決めた!お前はテン!アーヴァンクのテンだ!」
おおー、と魔物達から歓声が上がった。ほとんどの者はテンを羨まし気に見ていた。
『うぉー!俺っちの名前だー!俺っちはテンだ!みんな、俺っちのことはこれからテンって呼んでくれよな!』
パラパラパラ
【テン】
体力:C
攻撃:B
防御:C
魔力:C
魔攻:C
魔防:C
俊敏:B
器用:B
幸運:D
所持スキル
Bランク
・障気耐性B ・腐敗耐性B ・水耐性B
・水魔法B ・水中行動 ・適応 ・同化
Cランク
・土耐性C ・毒耐性C ・土魔法C
・感知 ・土中呼吸 ・罠職人匠
Dランク
・麻痺耐性D ・病魔耐性D
Eランク
・主従の絆E
種族アーヴァンク。
B級モンスター。
国見宗太の従魔。
魔の森の一部を縄張りとして支配している実力者。
魔竜山脈の上流の水辺で生まれ育ち成長するとより安全な下流の魔の森に移住した。
手先の器用さを活かして罠を作り獲物を仕留める。
得意技は水魔法や水中に引きずり込んでの水中戦。
(ほぅ、水中特化の罠師か。ステータスは低いけど器用なのがいいな。これから拠点を増築しないといけないから色々と手伝って欲しいな)
「これからよろしくな、テン」
『おうよ!任せてくれ主!』
その後は宴会となり昼の歓迎会より賑わった。
夜は酒も振る舞われたのでそのせいもあって、魔物達は砕けた態度で宗太と話すことができるようになっていた。
ゼルギオンは酒を飲みたそうにしていたが、まだ子供なため宗太に止められた。
これだけの人数を泊める場所はないので野ざらしになるが、外に大量のマットレスと布団を出して、そこにみんなで雑魚寝してもらったが、あまりの寝心地の良さに大好評だった。
シロと数名の者は宗太の出した酒をちびちび飲みながら夜更かしした。
マナキノコを食べてベッドに倒れこむように横になった宗太は、従魔契約による疲労であっという間に夢の中に旅立った。




