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露天風呂


ゼルギオンが火の魔石を持ってきてから二週間が過ぎ、その間宗太はひたすら露天風呂の構想を練っていた。


とりあえず石をくりぬいただけの小さな浴槽に、火の魔石と水魔石を取りつけて簡易的な試作風呂を作って、魔石の扱い方を覚えることに努めた。


特に水の魔石は、湯船を張るための水の魔石と排水のための水の魔石が必要だが、無限に水を出したり吸ったりはできず、いずれは交換しなくてはならない。


だが宗太はなんとか循環させて無限に使えるように頭をひねらせたが、排水の魔石と水を出す魔石をホースのようなもので繋げて水の循環まではできても、汚れた水を浄化する方法が思いつかなかった。


いや、思いついても巨大な浄水装置をつけなくてはならず、露天風呂の景観を著しく損ねることもさることながら、労力を考えるといつまで経っても露天風呂が完成しないことになる。


悩む宗太に、野菜と果物をねだりに来たゼルギオンが知恵を貸してくれた。




『浄化をするなら聖の魔石が最適だと思いますよ』




(なんと!それも魔石で解決とは!もしやこの世界では常識だったのか!?)


宗太はゼルギオンに頼み込み聖の魔石を入手してもらうことにした。その礼として大量の野菜と果物を支払う約束をし、ゼルギオンは張り切って飛び立って行った。


ちなみにシロは『風呂になど興味ない』と言い放ち、朝晩の食事時以外はどこかに出かけていた。




そして今日、ゼルギオンが聖の魔石を持って宗太を訪れた。


『主殿!ただいま戻りました!こちらが聖の魔石です!』


ドラゴンから少年に姿を変えたゼルギオンは、両手にいっぱいの聖の魔石を持ってきた。


「おおー!ゼル待ってたぞ!ありがとうな、しかもこんなに沢山!助かるよ」


『そんな、これくらいお安いご用ですよ!』


「ゼルのために新しい野菜や果物も作ったから、今までのと一緒に持っていってくれ!」


大きなカゴにどん!と山盛りの野菜と果物にゼルギオンは目を輝かせた。


『ありがとうございます!』


ヨダレを垂らさないように手で口を拭うとゼルギオンは宗太の作る露天風呂について聞いた。


『これから主殿は露天風呂なるものを作るのですよね?それはいったいどのようなものなのですか?』


「ああ、露天風呂はこの間作った小さい風呂を大きくしたもので、景色を見ながら温かい湯につかれる風呂のことだ」


『水ではなく湯を浴びるのですね。まるで昔カカ様に聞いた貴族の生活のようです!僕も見学させて頂いてもよろしいでしょうか?』


ゼルギオンは山から出たことがなく、外の生活に憧れていたので貴族のような風呂に強い興味を惹かれていた。


「ああ、別に構わないぞ。といっても土台作りはクロとあらかた終わらせちまったけどな」


クロは誇らしげにワフ!とキリッとした表情をして尻尾を振った。


宗太は整地され風呂のスペース分の穴が開いた地面を指差してゼルギオンに教えた。


『ここに露天風呂を作るのですね!』


「ああ、この二週間考えて考え抜いた完璧な構成だ!」


宗太は温泉地で特によかった見た目の浴槽をあらかじめ具現化スキルで用意して無限収納に入れていた。

その浴槽にピッタリ合うように地面に穴をクロに開けてもらっており、あとは浴槽をはめるだけだった。


「浴槽をはめる前に、地面に石風のタイルを張るぞ!クロもゼルも手伝ってくれ」


『ワフ!』


『分かりました!』


具現化スキルでタイルを大量に出し、手分けして地面に張っていった。


宗太とゼルはせっせと地面に張っていったが、クロは爪が邪魔でカチカチと爪で弾いてはアワアワして口にくわえて地面に落としていった。




「よし、これくらいでいいな。二人ともありがとな」


『ワフ!』


『いえいえ、これくらいお安いご用です!』


クロはあまり役に立っていなかったが誇らし気に尻尾を振っていた。

ゼルギオンはコツコツやる作業が性に合ってるのか終始楽し気であった。


「それでは、いよいよ浴槽をはめ込みます!」


『ワォーン!』


『おおー!』


ゼルギオンは拍手しながらキラキラした目を宗太に向けていた。


「じゃじゃーん!」


宗太は無限収納から浴槽を三つ取り出して、それぞれを地面の穴にはめ込んだ。


『ワフワフ!』


『こ、これが露天風呂!』


初めて見る風呂に興奮が隠しきれないゼルギオンは風呂全体をなめ回すように見回した。


「いやいや、まだ露天風呂じゃないぞ?魔石をセットして湯が溜まったら完成だ!」


宗太は魔石を設置すると温かいお湯が浴槽を満たしていった。


そのお湯がゆっくり満ちていく様子をほうっとした表情でゼルギオンは見つめていた。

多少なりとも露天風呂作りに参加できたことがゼルギオンに達成感をもたらした。


「おーい、ゼル!湯が溜まるまでメシにするぞー!ちょっとした完成祝いだ!」


そう言うと宗太はテーブルとイスを置き、畑の野菜や果物だけではなく具現化スキルでピザやハンバーガーを出した。


(まだ昼だしこんなもんでいいよな。今日の夜は寿司にでもするか。あ、ジャンクフードにはコーラがいるな)


ゼルギオンだけではなくクロも初めての料理に目を輝かせていた。


『こ、これを食べてよろしいんですか!?』


『ワフワフワフワフ!』


クロはもはや喋ることもできずに興奮して宗太にまとわりついた。


「ああ、素手で食べれるから食べやすいはずだ。だけど、このピザってやつは熱いから気をつけろよ?それと口に合うか分からないがピリピリする甘い飲み物もあるからよかったら飲んでみな」


宗太はクロにピザやハンバーガーを取り分けて、コーラを飲みやすいように皿に入れて出した。


ゼルギオンにはコーラをコップで出し、大皿からピザを自分で取らせたが、伸びるチーズに苦戦しなかなか自分の皿に取り分けられなかった。

見かねた宗太がチーズを切ってやり、ゼルギオンは嬉しそうにピザを頬張った。


『んーーっ!あ、主殿!このピザなるものは美味ですね!肉以外でこんな濃い味のするものを初めて食べました!』


「そうかそうか。ピザはこの伸びるチーズが美味いんだよな。ピザを食べるとやっぱりコーラが飲みたくなるな」


宗太はグビグビとコーラを飲むと、それを見たゼルギオンもコーラに口をつけた。


『ほわわわー!な、なんと口の中が弾けるような飲み物ですね!』


「ははは、初めて飲むとビックリするよな!慣れると癖になるんだよ」


ゼルギオンは、ほうほうと頷くとピザとコーラを交互に食べて飲んで、だんだん飲み食いする速度が上がっていった。


『ゲフッ!主!俺コノハンバーガー好キダゾ!モット食ベタイ!』


「おお、そうか。クロはハンバーガー派だな!」

(コーラは全然減ってないな。炭酸は好きじゃないのか)


追加のハンバーガーをクロに出してやると、ピザを食べ終わったゼルギオンがウルウルとした目で宗太を見つめていた。


「はいはい、ピザも追加な。今度は違う種類のピザをいろいろ出してやろう」


『ありがとうございます!主殿ぉー!』


軽く食べる程度に済ますつもりが、おかわりの連続で結局ガッツリ食べてしまい、すぐ風呂に入るのはキツいので宗太達は少し一服した後、風呂に入ることにした。




「よーし、お前達!お待ちかねの露天風呂だぞー!」


『ぼ、僕もご一緒してよろしいんですか!?』


「もちろんだ!ゼルも露天風呂作りを手伝ってくれたし、仲良くしたいお隣さんなんだから当然だろ」


ゼルギオンは感動して涙目になっていたが、すぐ宗太に続いて風呂に向かった。


クロは風呂の完成は嬉しいが、水浴びが好きではないので尻尾を垂らしながら渋々といった表情で宗太に続いた。




かぽーん。




「あぁー、いい湯だぁー」


『これが露天風呂なのですねぇー』


『ワフーン』


二人と一匹はお湯から顔だけ出して、とろけたような表情をしていた。


始めこそクロはビクビクしていたが、宗太がシャンプーでワシャワシャと洗ってやると、とても気持ち良さそうにして風呂に入ると水浴びとは全く違う気持ち良さにすっかり魅了され、立派な風呂好きになっていた。


ゼルギオンにもシャンプーや体を洗うスポンジの使い方を教えてやると楽しそうに体を洗っていた。


のんびりお湯につかりながら宗太は辺りを見回した。


「……しかし、壁も何もないから丸見えだな」


『こういうものではないのですか?』


「ああ、本来は周りに見えないように壁や柵があるんだ。裸が丸見えだといろいろと問題たからな」


『そうなのですか。僕等ドラゴンは普段裸なのであまり気にしたことがありませんでした』


「人間は裸を見せることを恥ずかしいと思う生き物だからな。そもそも裸で外を歩いたら罪になるし」


『つ、罪になるのですか!?僕もドラゴン姿で街を歩いたら捕まってしまうのでしょうか』


「あー、大丈夫だ。人間だけが罪になるものだからな。ていうかドラゴンが街に現れたら多分、討伐対象になると思うぞ」


『……なにもしてなくても討伐対象になってしまうのですね。カカ様もよく人間は怖い生き物だから人間の街に行ってはいけないと言っていました』


寂しそうなゼルギオンに気まずくなった宗太はフォローをした。


「ゼルの母親は聡明だな。普通は力の弱い人間を怖いだなんて言わない。だが人間という集団の恐ろしさをしっかり理解しているから怖いと言えるんだ。それに全ての人間と仲良くできなくったって、俺みたいな変わり者でも一部の人間と仲良くできるんならそれでいいじゃないか」


ゼルギオンは大きく目を見開き、まるで目から鱗でも落ちたようだった。


『……そうですね。そうですよね。大事なのは誰と仲良くなるかですよね』

(僕が初めて仲良くなれた人が主殿で本当によかった)


「そういうことだ。これこらも楽しくやってこうな!」


『はい!もちろんです!』


「さて、そろそろ上がるか。あんまりつかってるとのぼせるからな」


宗太達は風呂から上がり、タオルで体を拭いた。


クロは身を振るわせ水分を飛ばしまくり、体を拭いたばかりの宗太に思いっきりかかった。


「おい、クロ……」


クロは目を見開いて自分の失態に気づきごまかすように宗太をペロペロとなめて甘えた。


「まあ、いいけどな」


宗太は具現化スキルでキンキンに冷えたフルーツ牛乳を出し、ゼルギオンとクロに振る舞った。


「やっぱり風呂上がりはこれだよな!」


ゼルギオンはビンの冷たさに驚きながらも一口飲むと止まらなくなって一気に飲み干した。


クロが飲み食いように皿に出してやると、クロもとてつもない早さで飲み干した。


『これは素晴らしい飲み物ですね!火照った体に染み渡るようです!』


くぅんくぅんとクロがおかわりを要求してきたので、宗太は仕方なくもう一本ずつクロに出してやった。


「飲みすぎると腹壊すからこれで最後だぞ?」


するとゼルギオンがまるで捨てられた子犬のうな目で宗太を見つめていた。


「……ゼルも最後の一本な」


『ありがとうございます!』




その後は雑談したりと楽しく過ごし、夕方頃にゼルギオンは山へ帰って行った。


いつものように晩御飯時に帰ってきたシロは、完成した風呂には見向きもせず、ピザやハンバーガーの残り香に鼻をヒクつかせると、自分も食べたいと猛抗議した。


仕方なく晩御飯もピザとハンバーガーを出し自分だけ寿司を食べていると、シロがまたうるさくズルいズルいと騒ぎ寿司まで振る舞うことになった。


寿司が大層気に入ったシロはおかわりを何度も要求し、宗太の分まで手を出そうとして叱られた。

クロは魚が苦手らしく沢山のハンバーガーをペロリと食べ尽くした。


今日も充実した一日だったとベッドに入った宗太は、いつものようにマナキノコを食べて眠りについた。


「う、ぐあーッ!!」


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