偏差値五十と天才と脳筋と――魔法少女
平凡な、生活。ええいくそう。そんなもんにもう戻るわけねえだろ……なんだあの教師。確か名前は――「強風龍鬼」だっけか? そんなんだった気がする。まあ、何も言えねえ。てか親がどうしてこんな名前を付けたのかさっぱりわからん。龍と鬼が融合したら何になるっていうんだ?
「ふいー」
「「……」」
何も言えねえ。
「どした? まあいい。おい偏差値五十」
「先生……あんた人間なのか?」
「あ? まあ多分な」
多分ってなんだ。
「授業を始めるぞ」
「今日は講習じゃないんですか?」
そう。俺は今日は講習で呼ばれたはずだ。ていうか、なんで俺だけなんだ?
「おはようございます。恵庭さんいますか?」
「おまっ!?」
うちの学校の制服を着た――さっきの「自称魔法少女」がいやがった。いやがったよ。
「あ? いるぞそのバカならな」
「誰がバカだ? 偏差値五十は百パーセントとんだから問題ねえだろ」
「それで受験に受かるか!」
そりゃそうだが……解決方法はある。
「俺と敷島だけのクラスにすりゃいいだろ?」
「……二人だけのクラスに担任を付ける側の身にもなった見ろよ……」
「あの恵庭さん。さっきのワイバーンは?」
あ、その確認できたのか。
「それはな……」
隣の脳筋を指さす。
「俺が倒した」
「え?」
本当ですか? と目で聞いてくるアイシャ。
「本当だ」
「「「「……」」」」
しばしの沈黙。それを破ったのは。
「で、君がこのバカが言っていた魔法少女か」
「はい!」
「どこから来たんだ?」
さっき俺は聞いたが、まあ普通はまずそう思うよな。
「えーっと……あれでもこれ言ってもいいのかなあ? まあいっか」
いいのか。それでいいのか。黙秘権はあるはずだ。
「ええと、ネッシーってわかりますか?」
「ああ。あれだろ? あの作った写真だとかそういうやつだろ?」
「はい。――でも実際は、私が住んでいた世界とこちらの世界がぶつかって――その時にネッシーが一瞬こちらの世界に生きていた、わけです。つまり――世界が二つあって、私はもう片方の世界の住民なんです」
さっきと同じだ。
「で、またぶつかったと?」
「あ、でも今回はぶつかったというより、融合し始めたんです」
「なら俺も、魔法少女に出会うことが……?」
どうなんだろうな。本人曰くは「魔力次第」らしいしな。俺は敷島の魔力なんざしらんが。
「あー、ええとぉ……?」
(あの、あまり魔力が見えないんですけど、なんて言えばいいですか?)
む、通話魔法か。
(事実をそのまま言ってくれ)
(わかりました)
「すみません。多分、無理です。あんまり魔力が見えないので」
「ノオーッ!?」
うるさいなこの天才は。
「うるさいぞてめえら!」
っていうか、問題はこいつじゃねえか?
「あ、ええと……そこの筋骨隆々な化け物は何ですか?」
何ですかってひでえな。物扱いか。
「化け物だと……? まあいい。許す!」
「「てめえ! 扱いの差は何だっ!」」
「あ? 可愛さに決まってんだろ!」
だめだこの教師。校長に言いつけてやめさせてやる。
「まあ、俺らの教師だ」
「なんか、魔力量がおかしいんですけど……? なんだろ、ええと……アバウトに言うと、魔王級でしょうか?」
「魔王……? 俺の名は龍鬼だが?」
「名前は関係ないです。体に眠った魔力が――」
そのとき。ドアがいきなり吹っ飛んだ。
「うわっ!?」
「あの。魔力反応がとても強いんで来ました。あれ? アイシャじゃん」
「「誰だお前」」
あれか。あれなのか。この教師と契約するのか。まあ、魔力は最強そうだがな。
「私はぁ……? あれ、名前何だっけ? まあいいや」
「よくねえよ!? いや、別にいいのか?」
「君は?」
「あれ、あなた、かな? ならちょっとこっち来てください」
敷島が呼ばれた。あれ? 魔力が低いんじゃなかったのか?
「あ、魔力って一言で言っても、属性があるので」
へえ。めんどくさ。じゃああれか。魔力が高くても、使えない魔法があるのか。
「で、さっきのは?」
「ええと彼女は……ブリュイ・シーアです。属性は雷。まあ、私のほうが強いんですけど」
「恵庭……俺にもわかるように説明してくれ」
「脳筋には一生わからん」
「んだとおらっ!」
あ。やべえ。これあかん。ていうか、さっきのブリュイだかいうやつが壊したドアを片手に追いかけるのはやめてくれっ!