脳筋教師と通話魔術
ワイバーン。まあ、ドラゴンとも呼ばれることはあるが……確かに、窓の外にいやがった。なんでだ。
「恵庭、何かわかることは?」
敷島が眼鏡を上げつつ言う。
「知ってるわけねえだろ……」
「だよな」
とそこでうちの脳筋教師は窓を豪快に開け。
「てめーどこのどいつだあっ!? ここにはな――バカしかいねえぞ!」
金属バット片手にワイバーンに叫ぶ。
「「誰がバカだっ!」」
互いに指をさしあいながら言う。
あいにくだが、俺はどのテストでも「偏差値50」を逃したことはない。というか50にしかならない。
「……とにかく! 俺の授業を邪魔するなっ!」
いや、今日は講習だから授業じゃなくね? まあ、関係ないか。
「うおらああッ!」
あ。窓枠から出たぞあの教師。
ちなみにここは五階。
「「どっちがバカだよっ!?」
思わず叫ぶ敷島と俺。だが、あの脳筋は――
「せいやッ!」
金属バットで、ワイバーンと互角に戦うだと……!?
「何もんだよ……」
「なあ恵庭。これ、夢じゃないよな? 少しほっぺたをつねってくれ」
「おう」
思いっきり力を込めてつねる。
「いてえって。おい? やめろやめろやめろ! こんのおっ!」
「うおッ!?」
敷島が殴りかかってきた。しかも、無駄に正確にみぞおちの丁度上くらいにある学ランのボタンを――
「いやちょっと待てよ。あの教師どうした?」
「それもそうだな」
お互いのこぶしを握りつぶそうとしながら窓の外を見る。
「「……」」
ワイバーンの無残な死体と、どこからか持ってきたキャンプ用ガスコンロを持ってきて――って。
「「あんたなにやってんだよ!?」」
「あ? 腹が減っては戦ができぬってゆーだろ」
だめだ。会話が通じない。
「あの」
「うわあっ!?」
いきなりさっきの子の声が聞こえて飛び上がってしまった。およそ三十センチ。
「どうした?」
敷島には聞こえてないのか。
「なんでもねえ」
「今、何かありましたか?」
「ワイバーンが来た」
小声でしゃべる。これでいいのか? よくわからん。説明書を。
「あ、言葉を考えるだけでいいですよ。これは『精神通話魔法』なので、心の内容を――といっても会話する言葉だけしかわからないんですけど」
十分便利だと思うんだが。
「やっぱりですか。あ、多分これからもそういうのあるので、なんかあったら、《コール》って言ってくれればいいです」
「お、おう……」
完全に巻き込まれてるな……。
「あ、でも。私みたいなのも多分現れると思います」
大迷惑だ。
「何が迷惑ですか! 助けようとしているんですよ!」
って言われてもしらん。
「あ、でも、恵庭さんはもう私のマスターなので、これから現れた人とは契約できません」
契約? そんなのしたっけか。
「私たち――魔法少女が告白して、OKもらえたら、その場で契約されます」
はた迷惑だな。もう少し考えてくれ。ていうか、マスターって?
「マスターっていうのは、魔法少女が魔法を使うときに消費する魔力を軽減するために魂を一部結ぶ相手、――まあ簡単にすると魔力の電池、でしょうか」
ひでえなおい。
「ってか俺に魔力なんてあるのか? この全テスト偏差値50人間に」
「へんさち? は知りませんが、高いほうですね。一応訓練すれば中級魔法くらいなら扱えるかもしれません」
おお? 魔法を使えるようになるのか。さっきの魂がなんだとかそういうやつの副作用か?
「そういや、あのモンスターは何なんだ?」
「あれはですね――」
――説明を要約すると。
こっちの世界とあっちの世界――「フォルタズム」――が、ぶつかっては離れ――を繰り返していたらしい。それが「ネッシー」だとかああいうの。
で、今回は、ぶつかるにとどまらず、融合し始めたらしい。
結果モンスターがこっちになだれ込み、それに対応すべく魔法少女が送り込まれた、らしい。
「とりあえず、倒せばいいのか?」
「まあ、そうですね。あ、あと。マスターって呼ぶの嫌なので、紡、と呼んでもいいでしょうか?」
……マスターって呼ばれるのはいやだ。fa〇eか。とはいえ、紡って呼ばれるのはな……まあ、いいのか。一応彼氏になったんだしな。俺。謎すぎるけど。
「わかった。あれ、てか名前は?」
聞いてなった気がする。
「私ですか? 私は、アイシャ・フィール。アイシャって呼んでくれると助かります」
せめて見た目が日本人っぽくなかったらいいんだが……全然違うんだよな。
「アイシャ。これからよろしくな」
「はい!」
多分、これで少しはいつもに戻るはずだ。あのモンスターを倒してもらえばな。
なんかあれですね。前よりも一話一話が長くなってる気がします。
これからもこうなると思います。話は毎回思いついたように書いて、少し修正していく感じにしていくので、どうなるかは分かりません。