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通勤や通学者で混雑する朝の電車。
暇つぶしにスマホを見ていた歩は、とある刺激的なニュースを発見した。
そのニュースのタイトルは『2100年に日本崩壊か』。
なんでも記事によれば、最新のデータから『日本の人口は2100年に国を維持できない数字になる』との予測がはじき出されたらしい。
続いて記事はこう語る。
人口減少が叫ばれて久しい昨今だが、進行スピードはここ数年で急激に悪化。ついに間近の崩壊を予測されるまでに。
悪化の大きな要因となったのは、若中年層の恋愛離れ。
中でも男性の草食化が深刻であり、性交渉未経験率や意欲低下は危険な域に達しているという。
記事ではその後、専門家の見解を掲載しつつ、こう締めくくる――
『男たちよ。とにかく彼女を作れ! 性行為をしろ!』
それを見た歩は、思わず深いため息を吐いた。
日本の未来を憂いているのではない。
自分の未来を憂いているのだ。
――また性行為か……。
蒔田歩。十五才、高校一年生。
身長百七十五センチ、体重五十五キロ。勉強運動は中の中で、表彰されることも罰を受けることもない極々平凡な男子高校生……だったはずなのだが、そんな『平凡』は2100年を前に崩壊した。
昨日の悪夢のような出来事によって――
『蒔田歩さん。性行為をしてください。さもなくばあなたは惨たらしく死にます』
脳裏に紫織の台詞が蘇り、歩はうなだれる。
結局あの後、解放はされたものの、状況は以前不透明なままだった。
紫織からの最後の言いつけも『明日も学校に来てください』とだけ。
なにが真の目的なのか、なにをさせられるのかも分からないまま、しかし事態が事態なだけに人に相談することもできず、いま歩は学校に向かっている。
――山田さんは一体どうしたんだろう。
歩は思う。優等生の裏の顔なんて聞くけれど、それにしても尋常ではなかった。
だいたい、あの死神の鎌風の凶器はどこで入手したのだろうか。法律的にも入手経路的にも、普通の女子高生が持てるものではないはずだ。
もしかして、親が『ヤ』のつく職業の人?
それとも彼女自身が危ない商売を?
歩は頭を抱え、昨晩から続く出口のない問いを繰り返す。
――なんで自分がこんなことに……。
再びため息。目の下には大きな隈ができていた。
やがて電車は目的の駅に到着。歩は重い足取りでプラットホームに降り、改札口に向かう。
と、
「ひっ!?」
改札を抜けてすぐ、ICカードをしまう前に、横から腕を強く引かれた。
よろけた歩は、驚き、首をひねる。
通路の端に、ひとりの女子高生が佇んでいた。彼女は右手で歩の腕を掴みつつ、赤っぽい瞳を冷たく光らせている。
その正体は……、
「や――や、や山田さん!?」
「はい。おはようございます、蒔田さん」
歩の腕を離し、山田紫織はそう言った。