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「蒔田歩さん。性行為をしてください。さもなくばあなたは惨たらしく死にます」

 それはまったく予想外な展開だった。

 夕暮れに染まる放課後の生徒玄関。

 蒔田歩は下駄箱にかけた手を止め、目の前の光景に釘づけとなる。

 視界の中央には、初めて話すクラスメイトの女子。彼女は今しがた爆弾発言をした唇を結び――身の丈ほどもある巨大な鎌を構えていた。

 ――いや、いくらなんでも予想外すぎない!?

 なんだろう。ただ下校しようとしていただけなのになんでこうなったんだろう。

 状況がさっぱり理解できず、歩は呆然とつぶやいた。

「……ごめんなさい。意味が分かりません」

「…………」 

「あの……、聞こえてますか……って、ひぃ!?」

 瞬間、鼻先に鎌がジャキリと突きつけれる。到底偽物とは思えない鋭い圧力。

 歩は刃にたじろぎ、思わず尻もちをついた。

 ――マジでどうなってるのこれ!?

 顔を上げれば、鎌越しに輝く彼女の赤っぽい瞳と視線がぶつかる。

 このクラスメイトの名前は、山田紫織。

 普段の交流はないものの、歩は彼女をよく知っていた。そして、だからこそより混乱していた。

 それもそのはず――

 長く伸ばした黒髪、凛と整った顔立ち、モデル級の曲線を描くすらりと伸びた体躯。こんな状況でも見惚れそうになる透明感ある美しさ。

 彼女こそ他学年からも注目されるクラス一の美少女。

 しかも容姿だけでなく成績優秀、運動神経抜群、品行方正という完璧な優等生であり、

 悪質な悪戯心をすることもなければ、

 性行為や死などという過激な発言もせず、

 まして凶器を持ち出すなんて絶対にしないはずの人物だったのだ。

「待って、待って! 本当に分からないんだって! ていうか……どうして……山田さんがこんなことを……!?」

 歩は必死に叫ぶ。

 すると紫織はゆっくりと口を開いた。

「私はただお願いをしているだけです」

「え? お願いって……、あれが?」

「はい」

「でも、山田さんはさっき、せ、せせ性――」

「性行為。セ〇クスやファ〇クとも呼ばれる行為をしてくださいと言いました」

 いや、そこまでは言ってなかったような……、とか歩は思いつつ、

「…………じゃあ、この鎌は?」

「聞き入れなかった場合にどうなるか、蒔田さんがきちんと理解できるように」

「つまり、言うことを聞かないと鎌を使うってこと?」

「最終的には」

 紫織は淡々と話す。

 普段と真逆のその態度に歩は頭痛を覚えるが、しかし、とにかく、現在「性行為しなければ殺す」と脅迫を受けているという事実は判明した。となれば、

 ――これは、逃げた方がいいな。

 歩は思う。真偽はどうあれ、付き合いきれない。

 だが、その刹那だった。

 ガゴリ。

 鼻先に突きつけられていた鎌が落ち、鈍い音とともに床に突き刺さる。歩の股ギリギリのところ。

「――ご協力いただけますね?」

「はい。分かりました」

 歩は青くなった顔をカクカクと上下に振る。

 ……本物だ。

 鎌も、言葉、そして紫織も本物の"アレ"。

 歩は薄ら寒い恐怖に怯えつつも、しかし最後の抵抗として震える声を絞り出す。

「……で、でも、ちょっといいかな。僕にはそういう相手がいないから、協力したくてもできない部分もあるというか……」

「それは大丈夫です」

「へ?」

 歩が素っ頓狂な声を上げると、紫織はにやりと口角を上げた。

「相手探しは"私たち"がサポートしますので」

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