頑固者の決意
「そうですか…。」
高校3年の夏、僕は暑さに負け倒れた。
搬送先の病院で医師からある病状を宣告された。
水成巧は"がん"であると。
家族は驚きを隠せず泣いていたが、僕は何も考えていなかった。
並大抵の人ならがんであれ何であれ治そうとするものだが、僕は治さなくても生きていけるんじゃないかというありえない発想を持っていた。
周りから見ても僕は酷い奴だと思われるのは仕方ないが、それまでの僕は意外と充実した高校生活を送っており、(彼女はいないのだが)
それなりに勉強も部活も平凡的な成績だった。
唯一気になるところといえば、お人好しすぎるところだろうか。
暴言も吐かないし押されると弱くなってしまうものだからそこだけは友達からも良いと思われなかった。
そのためか、自分でストレスやらなんやら溜め込んで自分で発散していた。
動画サイトでスカッとする話を見ていて作り話が大体であるにも関わらず、意外とすっきりするものだなとかなり自分の中で評判になった。
学校は嫌いなわけではないし、かと言って
友達がいないというわけでもない
ただ、多人数でいるのが好きなだけである。
"今までは"
〜1ヶ月〜
僕ががんになって1ヶ月
余命は聞かされなかった。
僕が暴走しないためだろう。
当然、担任からクラスメートへ通達があり
大丈夫かとか死ぬわけないよなとかなり多くのメールが届いた。
思い過ぎかもしれないが、何通かあまり話さないクラスメートからは気にかけられていないような内容のメールもあった。
まぁ、僕自身も気にかけてはいないのだが。
病院のベッドは静かでとても落ち着く。
小、中学と騒がしいところで育ったもんだから、静かに過ごせる時間がなかった僕にとっては居心地のよい場所である。
クラスメート以外だとあまり人と接する機会がないのでカーテンを閉め一人きりの状態にした。
窓から見える空は青く澄んでいた。
「綺麗だね。」
窓に映った人影、同じクラスの柳沢香だ。
窓の反射でこちらを覗きにやりと笑った。
「なんだよ、学校はどうした。」
「休んだの、ここに用があって来たから。」
「用事は済んだのか?」
「いや、これから。」
香は少しため息をつき、また来るからねと
病室を後にした。
僕は驚いていた。
学校での香はあんな人の良さそうな柄じゃない。
もっと静かで本当に仲の良い人としかあのような態度はとらないはずである。
「どうしたんだ?あいつ。」
それから夕方になり香が戻ってきた。
「疲れたー、ちょっと水もらうねー。」
自分勝手だなほんと。
「私ね、心臓移植するんだ。」
いきなり何を言ってるんだ?
心臓移植するほど香は体が弱いわけじゃないはず。
「急になんだよ。」
「なぜか知りたい?」
「はぁ、なんでだよ」
「君に生きてもらいたいからだよ。」
言葉がでなかった。
唖然とする僕を尻目に香は帰っていった。
後から聞いた話だが、僕は心臓がんであり、ドナーは香しか提供一致者がいなかったそうだ。
その日の夜、ずっと考えていた。
移植するということは香は死んでしまうのか
なぜそこまでする必要があったのか。
分からない。
翌日。
結局眠れなかった。
病室を出て、ふらふらと屋上へ上がってみた。
夏も終わりかけ、涼しい秋風が髪を揺らす。
誰もいない屋上。
騒ぐ学生。
鳴く小鳥。
ドラマや映画の1シーンにありそうな雰囲気。
だからどうした。
少しため息をつき、病室に戻ろうとした時、
ガチャとドアがゆっくり開いた。
「やっほ、あれ隈出来てるよ?」
香だ。
「香から心臓受け取るなんて思わなかったからな。」
「考えすぎだって、ドナーが私でよかったね。」
「どうして、生きようと思わないんだ?
これから、何十年と時間があるのに。」
「飽きちゃうんだよどうしても。
当たり前のことに飽きちゃって。」
「楽しそうにしてるじゃないか、いつだっ て。」
「わかってないなぁ、良いこと教えてあげよ う!毎日笑顔の人は辛いことを隠してるんだぞ!」
「そうなのか、すまんかったな。」
「いいんだよ、クラスメートを救えるだけでも充分ヒーローでしょ。」
その日、僕は決めた。
移植なんてしない。
なんとか説得して、香を救ってやると。
それから香はよく病室に来るようになり、
ドナーになろうと思ったことや、移植した後の想像をずっと話していた。
どうも香はこの世界に興味を持てず、
生まれ変わりたいそうで。
頑張って説得してはいるものの、
簡単には「生きてみよう」なんて口にはしなかった。
香は移植の準備やらで隣の病室にいるらしい。
準備が終わるまでになんとかしないと。
〜2か月目(移植まで1ヶ月)〜
今月も晴れる日が多くなるのだろうか。
勝負の月、ここで止められないと今までの考えが水の泡だ。
朝食を食べた後、僕と香の移植を担当している橋本さんに相談してみることにした。
「心臓移植のことなんですけど、中止できないですか?」
「どうしてだい?せっかくのドナーが見つかったんだ、少しは気分が楽になるんじゃないか。」
「そのドナーって香ですか?」
「そうだよ、自分の精神面や状況を自分なりにまとめて自分がドナーになりますってはっきり言ってくれたよ。」
「そうですか、僕、1つ思うんですけど香はまだ生きたいんじゃないかって思うんです。」
確信はないが、中止させるためだ、一か八か言ってみるしかない。
「どうしてそう言い切れるんだい?」
「確かに、生きたくないとは言ってますけど、辛いことを言ってる時の香は目が虚ろで、本心ではないような気がするんです。」
「ならば、移植はしたくないのか?」
「はい。自分が患った病気でクラスメートを死なせたくないので。」
出来る限りのことは言ったつもりだ。
あとは橋本さんがどう決断するか。
「そうか、少し香さんと話をして決めよう。」
「わかりました。ありがとう御座います。」
少しホッとした。
強面に見えて意外と優しい橋本さんは
窓を少し眺めて、何かに気づいたように
「明後日、3人で話してみないか?」
「移植のことについてですか?」
「ああ、重大なことなんだから3人でな。」
上手くいきそうにないなとは多少思うところはあった。
会議の日
ドラマで見るような長机に3人が座り会議が始まった。
「まず、香さんに1つ。
巧くんは移植をしないと言っているが
香さんはどう思う?」
「私は、してほしいです。
巧くんにはまだ、生きる価値があると思います。」
「そんなこといったら香もじゃないか。」
「私はいいの、巧くんに元気になってほしいの。」
その日、結局解決しないまま会議は終わった
病室へ帰る途中、違和感を感じた
体が少しずつ動かなくなっていたのに気づいた僕は焦りを感じた
翌日になると僕の体は下半身から動かなくなり、車椅子での生活となった
橋本さんは落ち着いた様子で、
「これが最後の会議になる。準備はいいかい?」
その表情は険しかった
でもいいんだ、香にはまだ未来がある
笑顔で生きてほしい
そんなことを思いながら会議室へと向かった
しかし、またも思うようにいかず
香が頑固すぎて困るくらいだった
その夜、香が病室に入ってきた
僕は寝たふりをして様子を伺った
「どうして、私に生きてほしいの。」
「どうして、そこまで優しくするの。」
涙をこぼしながら放った言葉はとても重かった
「私は…私は巧くんが好きだから…。」
「私を犠牲にしてでも救いたかった…」
ごめんなと声に出して言いたかった
ありがとうの言葉も言いたかった
でも、動けなかった
聴くだけしかできることはなかった
翌朝、起きるとそばに香が寝ていた
昨日、そのまま寝てしまったらしい
僕の体は循環が早いようで首から下はもう動かない
今日が最後かなと思った僕は、
香が起きるのを待ち、2人で話をした
ずっと話した、朝から夜まで
香の笑顔は学校にいたときより、いや今までの人生で1番輝いていたと思う
これでいいんだ、夢は叶った
「香、1つお願いがあるんだ
僕が死んでも、泣かないでほしい。
笑っていてほしい。」
「わかった。」
それと、
「香の昨日の独り言聴いてた、ごめん」
「そっか。」
「気持ちは嬉しい、でも香には僕よりも大切にできる人はいると思うんだ。
ずっと好きなままでも構わない。」
「うん…ありがとう。」
「また、好きな人は作ること。」
説教臭くなったが言えてよかった、これでいい
聞けなかった言葉がおもわず聞こえた
「私、生きてみるよ。」
香は泣いてなかった、
笑顔でこちらを見ていた
やり残したことはあったかもしれないが忘れていただろう。
でも今、香が生きてみると言ったことの方が重要で何よりも嬉しかった
逆に感謝しているのかもしれない
香にもこの状況にも
香と2人きり、幸せだな。
僕は1言残して目を閉じた。
「ありがとう、そして頑張れ。」
小説家になろう初の短編です!
以前は友達に見せるだけだったのですが
皆さんに見てもらおうと思い執筆しました!
私もまだまだ未熟者ですので、たくさんの意見やアドバイスをいただければ嬉しいです!
この話は、今までの人生でずっと書いてみたいなと思っていたジャンルで、主人公かヒロインが病気になるというものにとても浪漫を抱いていました
そのためか私自身読む本は、大体主人公かヒロインが亡くなってしまうというものばかりでしたそして現実味のある世界観が好きなので、意地でも現実に寄せてみたつもりです
ぜひ、ご意見の程よろしくお願いします!