MP不足
呂布が野盗たちを跡形もなく粉々にした後、一騎当千の猛将は柴田の元へ駆け寄った。
「ひっ……」
召喚したのにも関わらず、抜群に怯えるガチプロニート。
「こいつらはいいか?」
そう言って商人夫婦を指さす。
コクコクと頷く柴田。呂布は、一瞬つまらなさそうな表情を浮かべる。
「まあ、欲を言えばもう少し骨のある猛者と戦いたかったところだが。さらば」
そう言い残して、魔方陣にズブズブと沈んでいった。
「あ……あの、ありがとうございました」
商人の夫がおずおずと柴田に頭を下げる。どうやら、彼が呂布を召喚したのは会話の流れでわかったらしい。
「……」
そんなことより放心状態の柴田。完全に人間離れした猛将に、意識を持っていかれている。
「あなた、言葉通じないんじゃないの?」
夫人が夫の側に寄ってきて進言する。美人の声が聞こえてやっと正気を取り戻したガチプロニートだが、同時に自分が葉っぱ族であるという設定を思い出した。
「YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA!」
なんとか、葉っぱ族ダンスを繰り出す柴田。ここで、設定をあきらめるほど彼の自尊心は安くはない。マウント富士より高いプライドを搭載するポンコツニートである。
「うーむ……なんとか、感謝の言葉を伝えたいのだが」
そう漏らす商人に、ならば現物支給をと切に願う葉っぱ族。
なんとか、伝えたい。服、分けてもらえませんかと伝えたい。が、現在バリバリの葉っぱ族である彼には、もはや商人夫婦の忖度を願うのみである。
その時、
グルルルルルル……
柴田のお腹が鳴った……が、YATTA! ダンスでそれはかき消された。
「あなた……もう、行きましょう。本当にありがとうございました」
そう深々とお辞儀をして、割合アッサリと去って行く商人夫婦を悲しそうな眼差しで見送る柴田だった。
残されて一人。
「んだよ、あのリア充夫婦は……使えねぇ」
完全にいなくなった後、陰口を叩くガチクズ。人の悪口など、生まれてこの方、陰でしか叩いたことがないプロニートである。
それを天から眺める運命の女神。
『なんだろう……このクズさ。見てて飽きないわぁ』
もはや、感嘆の域に達する駄目さぶり。彼女が数千年ぶりに注目する人物になっている柴田だった。
一方、やることがなくなった柴田は座り込んで考える。
さて、これからどうしようかと。
召喚スキルは超有能であった。呂布と言う一騎当千を召喚してしまったが故にドン引きをした柴田であったが、貂蝉などの絶世の美女など召喚すればあんな事やこんな事も。
そして、一時間後
「よし! 決めた」
<<いでよ 貂蝉 小橋 大橋>>
4P。迫りくる食欲を抑えて、性欲に走る前世今世童貞男である。初めては4Pと硬く決心をした夢見る童貞である。
シーン
「……アレ、出ない」
彼の期待とは裏腹に魔方陣は召喚されない。
「んだよ、不良品じゃねぇかこの能力……おーい、女神様―――」
柴田は不満を漏らしながら天を仰ぐ。
『なによ、葉っぱ族』
「っぐ……」
ちょっと恥ずかしい柴田。
「逆召喚できないんですけど」
『MP足りないんじゃないの?』
「MP……パラメータ」
名前:柴田
レベル:3
称号:葉っぱ族
スキル:逆召喚 クリエイティブ チアーズ エモーション……諸々
HP:6/11
MP:3/16
力:6
防御:4
器用さ:4
素早さ:4
魔力:9
運:2
「……3しか残ってない」
『まあ、呂布を召喚したのは運がよかったわ。彼は固定値消費じゃないから。召喚者の3/4MP消費だったから、彼を召喚できたのよ』
「えっ……じゃあ、貂蝉と小橋と大橋を同時召喚するには?」
『ええっと……1人200だから、合計600ね』
「え゛っ! そんなに!? 話が違うじゃないですか!」
『い、いい加減にしなさいよ。前から言ってるでしょう? したのよ! 全部説明したの!』
「……聞いてません」
とりあえず、言い張る柴田。
『死ね! とにかく、パラメータ画面で確認できるから。ちゃんと確認して、計画的な召喚をすること。いいわね? 以上』
消費者金融的なアドヴァイスを残し、交信は途切れた。