YATTA! YATTA!
それから柴田は、何回も女神を罵倒して交信スキルを試みたが一向に反応はない。どうやら、女神が通信を遮断しているらしい。
「最悪だな」
柴田は寂しそうにつぶやいた。しゃがみこんで、いじいじし出した。
一方、運命の女神は、当然彼を眺めていた。先ほどからクソ過ぎて目が離せない巨乳美女である。
『私が言いたいわよ……』
伊達に彼は前世ガチプロニートではなかった。伊達に現世を舐めプしていない。圧倒的な世間知らず。衝撃的な適応力不足である。凄まじいほどのチートスキルを活かすほどの経験が10年を超える引き籠り生活によって完全に殺されていた。
それから、3時間が経過……一向に動く様子はない。こんな時でも、ママかパパが助けに来てくれるとでも思っているのだろうか。
『と、とんでもない化け物ニートだわ』
逆に驚愕する運命の女神。逆に感心する巨乳美女であった。
グルルル……
「お腹……減ったな……」
柴田は哀しそうにつぶやいた。先ほどのテンションとの落差が非常にえげつないことになって、その悲壮感は半端ない。
「パラメータ」
名前:柴田
レベル:1
称号:ガチクズ
スキル:逆召喚 クリエイティブ チアーズ エモーション……諸々
HP:3/5
MP:11/11
力:3
防御:3
器用さ:2
素早さ:1
魔力:6
運:2
当然ながら変化はHPの減少のみ。
「諸々ってなんだよ、雑なつくりだな」
八つ当たりに、柴田は運命の女神に作ってくれた能力をディスる。
しかし、これも仕方のないことだと言える。運命の女神もまた、何万人と特殊能力を付与していたが、だいたい1人1つの特殊能力。多くて3つ。75個なんて、はっきり言って異常である。
『パラメータ』もまた、以前このような特殊能力を与えた者の仕組みを流用したに過ぎない。したがって、欄がもうなかった。ガチプロニートの非常識さが、運命の女神が作ったシステムを凌駕していた。
「とにかく、前隠さなきゃな……」
またしても、葉っぱ隊を思い浮かべるが、彼は凄く大事なこと見落としていた。葉っぱ隊は別に葉っぱ一枚ですべてを隠していたわけではない。パンツをはいて、その前張りに1枚大きな葉っぱをつけていたに過ぎない。
とにかく、葉っぱをブチブチと。当てもなく自然破壊を試みる柴田。30枚を摘み終えたところで、一つ妙案が浮かぶ。
枝を活用すればどうであろうか。枝に葉っぱを串刺しにしていくのだ。そうすれば、5㎝ほどの葉っぱであれば十分である。柴田は己のモノを確認し、深くうなずいた。
30分後。葉っぱを串刺しにした大きめの枝が2本完成した。これなら、なんとか前を隠すことができ捕まることはない……柴田は本気だった。
その時、
「きゃ……きゃあああ! な、なんで裸なの!?」
恐怖の叫び声が木霊し、振り返ると商人らしき女性が怯えた顔で立っていた。隣には警戒をしている夫らしき人が。
ヤバい……柴田は思った。
通常なら、なんとか交信を試みて服の一枚でも恵んでもらうべきであろうが、彼は著しく対人関係能力がないガチプロニートである。すでに、拒絶と侮蔑のまなざしに彼の意識は現実逃避行のカウントダウンを始めていた。
「あ……う……」
うまく言葉が出てこない。運命の女神以外の会話は実に10年ぶりの柴田である。
「だ、誰だ! そんな恰好恥ずかしくないのか!」
商人の夫らしき人が女性の前に立って、叫ぶ。
「くっ……」
グサリ、その一言は柴田の心に会心の一撃を浴びせた。無駄にマウント富士より高いプライドを持つガチニート。夫婦で商売を営むリア充に、指摘されるなど恥以外の何物でもない。
「……おい。もしかして……異国民か? 言葉がわかるか?」
あまりの異様さは商人に別の印象を与えていた。彼は外国人異文化育ちではなかろうかと。そして……その提案は、ガチプロニートの逃避したい気持ちと見事にマッチした。
柴田は閃いた。
「YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA!」
アフリカの部族のように。こういう文化だと思えばよいのだ。こういう部族……こういう部族……こんな葉っぱにまみれた族……そう、葉っぱ族。こういう踊りを踊る葉っぱ族。
葉っぱ族。
柴田は、葉っぱ族になりきった。
「な、なにこの人……どこの国の人……」
「さ……さあ、世界は広いな……」
そう言って目を合わせないようにして通り過ぎる2人組。
「YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA! YATTA!」
見事に即席の葉っぱ族舞踊を踊り切る。
柴田は、商人を遠ざけた。