裸一貫
気がつくと、柴田は荒野にいた。立ち上がって周りを見渡してみる。眼前に広がるのは見慣れぬ一面の荒野。見慣れぬ大きな岩山。そして、雄大に羽ばたく見慣れぬ……ドラゴン。
そこには普段見慣れた、駐車場や公園、木々などとは全く異なった世界が拡がっていた。
「本当に……来たんだ……」
湧きおこる興奮を抑えられない。
「海賊王に――――――――! 俺は、なる―――――――!」
とりあえず、叫んでみた。
シーン
「さて……」
なんの反応もないことを確認し、幾分冷静さを取り戻す柴田。まずは、自分の身体をペタペタと触る。
……裸だった。上も下も……これ以上ないくらい裸だった。
「マジかよ……裸一貫とは言ったけども……あの女神……」
周りを見渡すと、近くに一本の木が生えている。とりあえず、葉っぱだ……前を葉っぱで隠さなくてはいけない。
初めの一歩を踏み出す、スッポンポン男。
「しかし……なんだろうな」
柴田はつぶやく。
この限りない大地で、生まれたままの姿でこの場にいる。こんなことを日本ですれば、即刻ポリスマンのお世話になるところだ。
こんなあられもない姿で……
「異世界に来れてよかった―――――――――!」
ひとしきり叫ぶ全裸男。
しかし、いつまでも裸でいるわけにもいかない。人が来れば、アフリカの奥地的な民族でない限り、攻撃対象となるだろう。
すぐそばの木まで到着し、葉っぱを2、3個ちぎる。おもむろに股間に葉っぱを移動させるが、それからどうするかが全く思い浮かばない。
なんせ、輪ゴムがないのだ。
「おかしいな……葉っぱ隊は……アダムとイブはどうしてたんだ?」
一時的なブームの人たちと、人類の起源となった人たちを同列に並べる不謹慎男。
周りを見渡すと、一面の荒野。
「なんか……これ、詰んでない?」
誰もいないのに、独り言を言うのはプロニートの頃からの習慣だ。そうしないと、自我を保つことができないと本能的に柴田は理解している。
「女神様―――――! めーがーみー様――――――!」
大声で天に向かって叫ぶ。
「めーがーみー様――――! 運命のめーがーみー様――――!」
何度も何度も叫ぶ。
・・・
来ない。
「巨乳――――! おっぱいおばさ――――――ん!」
『誰がおっぱいおばさんよ!」
いた。
「僕の切なる願いが届いたんですね!?」
『ですね……じゃないわよ! あんたが駄々こねて、一人じゃ不安だって言うから交信スキルあげたんでしょう!?』
「あっ……」
今頃、柴田は思い出した。
なんとか、この女神の豊満な胸に挟まれたいという欲望を抑えきれず、異世界に転生しても、呼び出せば相手してくれる『交信スキル』をもらっていたのだ。こうして使ってみると、大自然のチャットみたいで楽しい。
「あの……服とかないですかね?」
『あんたが裸一貫でやりたいって言ったんでしょ!? 木下藤吉郎秀吉好きなんでしょ。頑張りなさいよ』
「それ、ニュアンスの問題で、実際に彼は裸だったわけじゃなくて……あっ! なんで、幼少期ないんですか! もしかして、サボりました!?」
自分の身体と息子を確認するに、15、16と言ったところだ。心身精々、いろいろと満タンな時である。
『い、いい加減にしなさいよ……あんたが幼少期はつまらないから、これぐらいの歳から自我が芽生えるようにしたいって言ったんでしょう!?』
「……言ってません」
とりあえずしらばっくれてみる柴田。
『相変わらずのガチクズね! とにかく、あなたの望みは全部叶えました。あとは、あなたが頑張ってください。以上』
プチッ……
交信が途切れた。