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ガリョウと画竜

書き上げるのに時間がかかると思った? 残念! 更新です!!


さて、俺がキュピリアの手によって完成してどこか彼女もすっきりしたように見えた。そうして少しキュピリアと話した後、キュピリアはいつものように絵の続きを書き始めた。俺はそんな彼女を見守りながらやはりどこか違和感を覚えていたのだ。空間が曲がって見えるというか、そこにあるはずのないものが見えるというか……よくわからない感覚があった。


そして、部屋の隅に落ちてある紙束に興味をひかれたりする。正直今までそんなことを思うことは無かった。なんか思った以上に目を描き込まれた影響が出ているが、どうせ死んだ身だと思い気にしないことにした。


そうして、一日が終わり夜になった。キュピリアにいつものように『カバー』をかけてもらい眠りについた。その時キュピリアの手先が輝いたように見えたのは気のせいということにしておきたい。


……すぐ気のせいなんかじゃないと分からされることになるのだが。



  ~~~~  ~~~~



 眠った俺が目を覚ますと、真っ暗だった。今まで、『カバー』をかけられてもそこまで暗くはなかったはずである。


「ここはどこだ?」


まさかあの部屋から別の場所に移動してしまったのか? 寝相で? と、思わず考えたが、今の自分は壁に描かれた絵なのだからそれは無いと思い返した。じゃあここはなんだ? 真っ暗な世界でキュピリアもいない。暗闇に目が慣れてからあたりをぐるりと見回してみても、あの部屋にあった道具はまったく見当たらなかった。


「は? なんかおかしいぞ」


 そうして違和感に気が付く。なんで俺は首を使って(・・・・・)見回せたんだ? 今の俺は壁に描かれているドラゴンだ。360度世界を見渡すなんてできるわけがない。そう思って自分を見てみると、少し前まで見慣れていた自分の胴体と手が見えた。


「これは、俺の前世って言っていいのか? その姿だ」


これはまさに俺の前世(?)である稲賀亮の姿だった。だが、なんで今更? そんな疑問が湧き出てきた。その独り言のような疑問に答える謎の声がした。


「それはここがお前の、そしておれの精神世界だからだ」

「どこから声がしているんだ?」


 その声は、ぼんやりと浮き上がった壁に描かれたドラゴンから聞こえてきた。


「ここからだ。まずは最初に……」


 ぼんやりと壁が出てきたこととか、精神世界とかいろいろおかしいところがあるがまず俺はこう叫んだ。


「しゃべったぁぁぁぁ!?」


 キュピリアが最初に出会ったとき叫んだ意味がよく分かったのだった。普通に驚くわ……


「いや、自分がしてたことだろうが……驚くなよ」


 なんか呆れられたが気にしない、気にしないぞ。


「まあいい、最初に礼をしておく。助かった。おかげでおれは完全に目覚めることが出来た」

「お、おう、どうも。じゃねえ、お前は何者だ?」

「名前……作品名か。とりあえず今は無いから絵の竜だ。つまり画竜がりょうだな。お前と同じ存在だ、ガリョウ、いや稲賀亮と呼んだ方が良いか?」

「どうせ稲賀亮は死んだんだ。ガリョウでいい。それで俺と同じ存在ってどういうことだ?」


 さっきから意味が分からん。確かに今生の俺の姿だがそれで俺と同じっていうのも意味が分からん。


「分かった、詳しく説明するから少し聞いてろ。いいか? 意思の込められた素晴らしい芸術は意識を持つことがまれにある」


 そのことは前にキュピリアから言いていたので俺は素直にうなずく。


「俺は俺自身が完成すれば意思を持つようになるそんな作品だった。だが、俺が意識を持つのには一つ条件があった。それがこの絵を描いた作者の願い、ひいては意思だったからだ。その条件っていうのは作者の娘がこの絵を完成させることだ。もう分かっただろう。作者はキュピリアの両親だ」


 なるほど、あの絵はもともとキュピリアに完成させるためのものだったのか。道理で目の位置が下げられているわけだ。子供のキュピリアでも描き込めるようにとの思いだったのだろう。


「だがな、残念の事に完成させるように言う前に亡くなってしまったらしい。そうこうしている間にキュピリアの立場が悪くなっていってな。おれに込められた意思が叫ぶんだよ。子供を守りたい、娘を守りたい、励ましたいってな。

おれもそう思うんだよ。なのに、あのくそ野郎が……! だがおれは目が覚めないと何もできない。あの時ほど無力さを嘆いたときは無いな」


 くそ野郎ってやっぱり叔母の事なんだろう。絵から見ても叔母はクズなんだと改めて思った。


「そうしている日々の中で唐突にお前が、お前の意識が落ちてきたって感じだな。半端に意思を持つ絵はその意識を受け止めた。そうして今のお前がいる」

「つまり俺はお前から体を奪ってしまったってことか?」


 思わず口に出ていた疑問だが、かなり深刻な問題のような気がした。だが、目の前の竜は笑って、笑ってるのか? まあ、笑って言う。


「違う。むしろおれはお前を利用してキュピリアを助けようと考えた。お前という意思に引っ張られておれもより強く存在できるようになり、お前にいろいろと干渉していた。具体的に言うと今回おれに目を描いてもらうように誘導したこととかだな」

「もしかしておれがキュピリアのことを守らなければと思っていたのは……」

「俺の方の意思に引っ張られたからだな」

「おい、なんだよ。それ」


 本気で、おれはロリコンじゃない……はずだ! といった感じでアイデンティティーを揺さぶられたんだぞ。もう一つの人格がキュピリアを大事に思ってるから、あんなに神経質になってしまったのか。


「まあ、その誘導のかいがあって、やっとおれが動けるようになった。眠っている間にもいろいろ見ていたし、キュピリアの両親の願いも引き継いでいる。だからこの世界についてお前よりは詳しいから、いろいろ助言ができる。キュピリアをこんなくそったれな状況から救い出せる」


 なんにせよ、この世界について詳しいアドバイザーが出来たってことでいいのか?


「それで、いろいろできるようになったことの一つとして、おれらは魔法が使えるようになったぞ」

「なんだって!」


 ぜひ使いたい!


「そんな派手なんじゃあないがな。それを利用してキュピリアを救い出すぞ」

「どうすればいいんだ? というか、お前が体を使えばいいんじゃないのか?」


 正確には俺らの体は絵なのだが。


「馬鹿か、キュピリアと交流していたのはお前だろうが。俺はうまく話せると思えん」

「なるほどな。じゃあ、俺が上手くやればいいんだな」


 それはそれでどうなんだ? と思ったが、それこそ俺が上手くやればいいだろう。


「そうだ、じゃあ詳細を話すぞ」



  ~~~~  ~~~~



 画竜が語った作戦というのは簡単なことだった。おそらく不審に思っているだろう画家ギルドを味方につけるというものだ。画竜が言うには画家ギルドはかなりしっかりした組織らしく、確実に保護してくれるだろうという事、後見人にもなってくれるだろうという事を教わり俺はかなりほっとしたのだった。


「とにかく画家ギルドにつながるものを部屋から探すんだ。魔法を使えばすぐ見つかるはず。画家ギルドから届いた通達なんかがあるはずだからそれを探せ」

「通達か……それらしいものがあったか?」


 あの部屋に俺が憶えている限りではそんなものはなかったが……魔法を使えば見つかるのだろうか?


 画竜が言うには俺たちは完璧な魔法は使えないが自分自身に近しいもの、つまり黒のインクなんかなら探したりできるだろうとのこと。まさに通達などの手紙を探すのに最適だと思った。


「それでそこから画家ギルドに連絡をとれるはずだ。その画家ギルドの手がかりからつなげられるはずだ」

「分かった。だが、どうやって知らせるんだ?」

「……」


 ……おい、なんでそこで黙る?


「すまない。そこまで考えてなかった……」

「……おい、まあいい何とかするぞ」


 おそらくおれの思い通りならそんな風な魔法が使えるはずだと分かる。だから何とかなるはずだ。


「……いいのか? お前はここでも死ぬことになるぞ」


 俺の考えが分かったのだろうか? 画竜はそう聞いてきたが俺は迷いなく答える。


「先も言っただろう。俺はもう死んでいるんだ。むしろ俺がいることの方が不自然だ。最後に人ひとり救えたならそれで充分だろ……ここは俺が住んでた世界じゃないからな」

「……そうか」


 稲賀亮にんげんの姿になって分かった。今の姿はやっぱり自分のものじゃないのだと。邪魔者は立ち去る。当たり前のことだ。


「さて、そろそろ時間だ。おれはキュピリアが笑ってくれるならいい」

「おう、もう会うことは無いだろうが、またな」


 今まで魔法が使えなかったのは俺らが完全ではなかったからなのだろうと考えながら、俺は意識が落ちていくのを感じた。目が覚めるようだ。


 さてやってやる。死んで最後の大舞台って感じだ。



完結まで秒読み! 書きたいシーンも書いたので満足!

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