提案と画竜点睛
お久しぶりです。遅れました。申し訳ございません。
新しいお話の設定とか思いついたせいで、こちらがなかなか進みません。
しかも短いです。申し訳ありません。
俺はどうにかキュピリアの現状を変えたい。そのためなるかは分からないが、前からしようと思い、一度はためらったある提案をすることにした。
この提案はかなりキュピリアの心情に踏み込むことになる。だが、今のままではキュピリアは叔母に虐げられるままだ。だから、俺は嫌われるかもしれないことを承知で口を開いた……動けないが。
「キュピリア、俺を完成させてみないか?」
「え?」
魔法を教わっている中で唐突にでた発言。それにやはりキュピリアは戸惑ったみたいだ。その翡翠色の瞳が少し大きく広がった。そうしたと思ったらその瞳がキョロキョロとさまよった。そうして不安そうなまま、こう尋ねてきた。
「えっと、どういうことですか? ガリョウさんを完成って……」
やはり、不安そうだ。だが、ここで折れてはいけない、俺はなるべく優しく聞こえるように、説明を始めた。
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俺がキュピリアにした提案は簡潔に言うと俺を完成させることだ。つまり、キュピリアに俺の目を描いてもらいたいと言ったのだ。俺はいわゆる西洋のドラゴンで、なにかを見つめるように頭を下げている。だが、目の部分が開いているのだ。だがら、キュピリアの背でも届く位置だ。俺のこの目の部分をキュピリアに描いてもらいたいのだ。ほかでもないキュピリアの手で。
だが、キュピリアの手が加わると俺はきっと彼女の両親の遺産にはどうしたって当てほまらなくなるだろう。当然だ、キュピリアが手を加えた時点で、俺はキュピリアの両親の遺作ではなく、キュピリアと両親の共作ということになる。今現在進行形で両親の作品と偽って作品を作らされているキュピリアの気持ちとして両親の作品に自分で手を加えるのは避けたいと思うだろう。
だが、俺はそれでもキュピリアに完成させてもらいたいのだ。今のままではキュピリアが救われない。両親の作品を手本にし続けているから、彼女は自信が持てない。きっと最初に絵をほめた時にキュピリアが泣いたのは、今までほめてもらえず自信がなかったからという理由だけじゃない。ずっと、両親の絵と自分の絵を無意識に比較し続けていたのだろう。そして、自分の絵の方が劣ってしまうと無意識に自己否定をしていたのだ。
そんなキュピリアに両親に負けない、負けていないと口で言うより、実際に両親との共作ができればいい。俺はそう思う。
「で、でも」
そう説明してもキュピリアはやはり乗り気でないみたいだ。キュピリアを縛っているのは皮肉にも両親の名声、その素晴らしい絵だ。キュピリアの中では両親は絶対だったのだろう。慕っているようだったし、両親がいい人たちであるという事はキュピリアの話を聞いていたら分かる。
「キュピリア、両親の絵に勝てない、そんなふうに思っているのだろうが、俺はそうは思っていない。キュピリアの実力なら俺を完成させることができるはずだ。だから、両親とのつながりがなくなってしまうという理由なら、どうか俺の意志を酌んで俺を完成させてくれないか?」
キュピリアが俺のことを両親の遺作、つまり残された最後の両親とのつながりだから手が出せないのかと思っていた俺は、そう告げた。だが、俺に帰ってきたのは思いもよらないキュピリアの戸惑っているような声だった。
「えっ? そうゆう事じゃなくてですね……えと、とりあえず両親のことについてはもう受け入れてます。両親にすがってられなかったので」
……どうやらキュピリアは両親のことについては意外とはっきり受け止めて生きていたみたいだ。キュピリア自身それどころじゃなかったというのもあるらしい。
俺が呆然としているのが分かったのだろう。キュピリアが慌てて言葉を足した。
「いや、それでもガリョウさんが来るまでは落ち込んでたりしたんですよ? ガリョウさんと話しているのが面白いし楽しいからようやく前向きになれたんです」
「そうなのか? ……それならよかった」
うん、俺のしていたことは無駄じゃなかったんだな。少しほっとした。
だが、それならなぜこの提案をしたとき言いよどんでたんだ? キュピリアの考えていることはさっきまで俺の予想とずれていたので、わからないならもう聞いてしまおうと思い直接的に聞いてみた。
「なら、なんでキュピリアはさっき言いよどんでたんだ? 何か気になることでもあるのか?」
「ええと……確かに自信を持てないんですけど、ほとんど完成しているものの仕上げなんて……『ブラッシュ』とかでもいいんじゃないかなって思ってしまって……
それに、ほとんど完成している作品に手を加えたからといってそれが実力につながるのかどうか……」
……俺はこの世界が、魔法とかありのファンタジー世界であることを忘れていたようだ。こんな返しが来るのは予想外である。だが、俺にも言い分はある。作品というのは完成前が一番難しいのだ。百里を行く者は九十を半ばとするように仕上げなんかは特に気をつかうものだと思う。俺はこの状況に合うような言葉を思う出し、それをキュピリアに説明することにした。
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「画竜点睛……ですか?」
「ああ、俺がよく気にしている言葉だ」
大嘘である。現代の男子学生がそんなたいそうな言葉を常に気にしているわけがない。だが、この言葉の出所を聞かれると困ってしまうので、そういうことにした。
画竜点睛、大事な仕上げとか、完成させるための最後の工程だとか、そんな意味の言葉だ。確か目を一突きしたら竜が昇天したとかそんな話が大本にある。あ、目を描き込んだらだったか?
まあ、そんなことはどうでもいい。要はキュピリアが大事な仕上げをしてそれで自信を持ってくれればいい。そして、両親の絵と自分の絵を切り離して考えれるようになってくれればいい。俺はそう思っている。
「俺はキュピリアに自分自身の大事な仕上げを任せてもいいと思っている。『ブラッシュ』とかで仕上げるというのじゃなくて、ひと手間加えてこの絵を引き締めてほしいんだ。それができる実力はあると思うし、任せられるのはキュピリアしかいない」
きっとそれをこの絵は望んでる。俺はなぜか強くそう思うのだ。そうしなければならないという強い脅迫観念を覚える。
なぜ? と俺がこの強迫観念を疑問に思う前にキュピリアは答えを出した。
「わかりました……やってみます」
そうして真剣な表情になったキュピリアに思わず見とれそうになり俺はロリコンじゃない! と思いながら返事をした。
「ああ。頼む、キュピリア」
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絵具やその他もろもろをキュピリアが準備して、俺に向き合った。
「ガリョウさん。よろしくお願いします」
「そんなに緊張しなくてもいい……キュピリアなら大丈夫だ」
「そうですか? あ、水も全力で準備しました」
キュピリアが語るように彼女の足元にある水は今までキュピリアが使っていた水よりもいいもののように見えた。なんとなくだが。おそらく普段よりも魔力を籠めて『ウォータ』を使い『いい水』にしたのだろう。そんなキュピリアはどこか得意げである。
「さて、俺も心の準備はできた。いつでも始めてくれ」
「はい!」
そして、キュピリアの顔がこちらへと近づいてくる。慎重に俺へ筆を差し出すキュピリアはやはり緊張しているようだった。キュピリアの顔が近づくにつれて何となく俺も緊張してきた。
やましいことは無いんだが、美少女が真剣な顔で近づいているってなんか……と、微妙なことを考えていたからか、ふいにキュピリアが動いていたことに気が付かなかった。
俺の目にキュピリアは筆を立ててきたのだ。
……痛いかと思って心構えしておこうと思っていたのに何もなかったためどこか拍子抜けである。ただこれは俺が人間のままだったら目が、目があぁぁぁぁぁぁ! どころじゃないな、なんて考えていた。
こんな風にくだらないことを考えていないと、目の前に真剣な顔のキュピリアが居るということを意識してしまいそうになる……いや、俺はロリコンじゃないから!? なんでこんな風なことを思うのか……
そうこうしているうちにキュピリアは一対の目を完成させた。それと同時に何かが俺の中に芽生えたような、そんな違和感が生まれた。
なんだ、これは!?
「ガリョウさん? ガリョウさん!」
「…………はっ! な、なんだ、キュピリア」
「どうしたんですか? ぼーっとしてたみたいですけど」
「いや、何でもない」
だめだ、キュピリアに心配をかけるわけにはいかない。この違和感、というより異物感といった感じだが、そのなにかは少しずつ大きくなってきているが、何でもないようにふるまおう。
「それより、キュピリア、俺がどう完成したのか見せてほしい」
「いいですよ」
そうして初めて会った時と同じような魔法を使ったキュピリアはどこか堂々としており、うまくいったことが見てすぐにわかる感じではあったが、一応確認させてもらった。
そこには穏やかそうに笑う、画竜(俺)がいた。
キャラクターぶれてるなぁ……と、書いててすごく思います。
いろいろ言いたいことはありますが、まず完結させてから語りたいと思ってます。
予定ではあと二、三話ぐらいで終わりそうです。
次回は最後の方言ってた違和感の話になります。