叔母再び、目標と現実
二週間ぶりです。更新遅くて申し訳ない。
なにか、ひどい悪夢を見た気がする。夢見は最悪で頭がぼーっとする。実際に頭に血液が流れているわけではないので、感覚的な話だが。
とりあえず今日からは画家ギルドの動向をつかむことを目標にしよう。昨日の夜、考えていたように。もちろんキュピリアとも交流しながらである。
魔法が使えるようになればかなりやりやすくなるのではないかと思うのだが……まあ、無いものねだりしても仕方ない。とにかくキュピリアに話しかけよう。そう思ていた矢先に聞きたくなかった足音が響いた。
「! 叔母が……なんで、とにかくガリョウさん、隠しますね」
「ああ、分かった」
「では、『カバー』」
くそ、なんでこんなタイミングで……そう思いながら俺はばれるとまずいので息をひそめておくことにした。呼吸はしていないが要はばれないように気配を殺していたという事だ。
そうしていると、キュピリアが言っていた通り叔母のものと思われる声が響いた。
「ちょっとアンタ本当にちゃんと書いてるの!」
いきり立っているのだろうか、叔母の声はその声の主の不満をぶつけるかのように一気に吐き出された。こんなやつのために、今までキュピリアは絵を描いていたという事実を改めて感じて腹の底がもやもやする。これが今までにないほどの嫌悪感というやつなのだろう。
「……私はせいいっぱい描いてます」
きっと今まで、キュピリアはあの叔母に逆らうことをしなかったんだな。ただ最初に出会った時もごめんなさいとだけ言っていた。そんなキュピリアがきっと自分の絵に対して自信を少しでも持てたからこそ出てきた言葉だったのだろう。そんなキュピリアの声は震えていたけど、少しの意志を感じ取れた。
……俺がやってきたことがいい方に向いているのだろうか
そんなふうに感じていたのだが、キュピリアのその抗議はあの叔母には届かなかったようだ。
「……! 口答えする気かい!? 誰が養ってると思ってるのか!」
必要以上に威圧的な怒鳴り声がその場を満たした。もちろん、すでにいきり立っていた叔母の声だった。怒りのボルテージが上がったのか、叔母の怒鳴り声は続く。
「アンタのせいで、また金が減った! アンタが、ちゃんと、してないから!」
そうして聞こえる怒鳴り声、声が途切れ途切れになっているのは、怒鳴りながらキュピリアに暴力をふるっているからだろうか? 初日とは比べ物にならないほどの嫌悪感が俺の心を揺り動かす。それと同時に俺は自分の無力さにも腹を立てていた。
聞くに堪えない叔母の罵声と、キュピリアのか細い「ごめんなさい」という言葉の合唱を俺は何もできずに聞いているだけだった。いっそ、面倒ごとになってもやめさせることができたらと何度思っただろうか。
そんな願いは叶わず、叔母はさんざんキュピリアを痛めつけた後、不満を吐き出すかのように最後にこう言い捨てて、部屋から出ていった。
「さっさとアンタは絵を描きな。画家ギルドが金を出すような絵をね」
~~~~ ~~~~
大嵐のような叔母の騒動から少したって、キュピリアは『カバー』を解いてくれた。真っ先に俺はキュピリアの様子を見て、やはりあの叔母をどうにかしなければならないと感じた。
キュピリアは出会った頃のように顔をあざだらけにしていた。彼女の灰色の髪もぐしゃぐしゃに乱れていて、目には翡翠色の輝きがキラキラと光っていた。出会った時と違う部分は、キュピリアが俺のことを信頼して泣きそうな顔を隠していないという事なのだろうか。
「ガリョウさん……ごめんなさい」
そんな状態なのに、キュピリアは俺に謝ってきた。なんでそこで謝るんだと、悲しく思う。だが、キュピリアがどういう意図で謝っているのかは大体察せるから、謝る必要がないと伝えておく。
「なんで謝るんだ? キュピリアは悪いことなんて何もしていないだろう?」
「でも、急にガリョウさんに『カバー』をかけてしまったから……それに、こんな見苦しい所を……」
「それこそ、キュピリアは何も悪くないだろう? 悪いのは暴力をふるった叔母だし、俺を隠すことになったのも、あの叔母がちゃんとした人なら俺がいても何の問題もなかったはずだ。あの叔母の代わりにキュピリアが謝る必要なんてないんだよ」
「でも……」
きっと、キュピリアは何か口実がないと引き下がらないだろう、そう思って俺は昨日混乱して言った事を、魔法を教えてほしいという事を改めて頼むことにした。やはり魔法が使いたい。もちろんキュピリアも守れるし、あの叔母も呪えそうだ。
「悪いと思ってるなら、俺が魔法を使えるようになるまでしっかり魔法を教えてくれないか。キュピリア先生」
少しおどけてもみた。柄じゃあないけれど、キュピリアの気が軽くなるならそれでもいいかとも思う。
「……うん。時間ができたら、教えますね」
そう言ったキュピリアは弱弱しかったけれど、少し気が抜けたのか笑顔になっていた。
よかった。だが、あの叔母はかなり重要なことを言っていたな……俺の知らない、重要な情報が出てきていたような気がする。
とりあえず、キュピリアに魔法について聞きながらも、俺は新たに手に入れた情報から考察をすることにした。
~~~~ ~~~~
『「さっさとアンタは絵を描きな。画家ギルドが金を出すような絵をね」』と、あの叔母は言っていた。俺はその言葉と、それまでのやり取りから一つの仮説が立てられた。それは、画家ギルドに売っていた絵が売れなくなっているというものだ。
叔母はキュピリアの絵を彼女の両親、つまり『双・頭・竜』の絵だと偽って画家ギルドに卸していたのだろう。だがここ最近はそれがうまくいっていない。おそらく画家ギルドが絵を査定してその結果が下がっていってるのだろう。当たり前だ、いくらキュピリアが上手い絵を描いていたとしても、絵を描いているのはキュピリアであって、『双・頭・竜』ではないのだから。
だからその分収入が減っているのだろう、そのいら立ちをあの叔母はキュピリアにぶつけているのだ。
……たぶん、画家ギルドは『双・頭・竜』について、怪しいと思っている。送られる絵の質の低下に気が付いているのだろう。だが、その実態をつかめてはいない。キュピリアが代わりに書かされているという現状を知らないのだろう。
こうやって、収入分を減らしているのは画家ギルドが様子見をしようとしているのか……
ここで思い出したが、確か初日も同じことを言っていたはず、画家ギルドも現在の『双・頭・竜』の行動に違和感を覚えているのだろう。
なら、俺がするべきことはなんだ? 簡単だ、画家ギルドに向けてどうにかこの現状を知らせることだ。
よし、方針が決まった。あとは、どうやってそれを成し遂げるかである。
……どうやって? 壁から離れられない俺がどうやって画家ギルドに接触をすればいい? 最終目標はそこにするとしても、その間にキュピリアが倒れてしまったら? 俺に何が出来るのだろうか……
「ガリョウさん? どうかしたんですか?」
そんなキュピリアの声で俺の意識は強制的に引き戻された。そうして声のした方に意識を向けると、不安そうな顔をしたキュピリアが居た。
「ごめんなさい、上手く魔法を教えれなくて……」
「ああ、いや、その……俺の方こそすまない。少し集中力を欠いていたようだ。集中しないと魔法は使えないよな。教えてくれているキュピリアにも失礼だ」
「いえ、そんなことは……」
俺は何をしていたんだろう。俺が出来ることはキュピリアを元気づけることだ。それくらいしかできないのだから、それをしよう。
まずは、キュピリアが絵を描くことを嫌いにならないように、俺自身を使って一つ提案をしよう。キュピリアはきっと両親の絵と自分の絵をどこかで比べてしまっている。よくも悪くも彼女の両親がキュピリアの心の枷になってしまってるのだろう。
俺はどこかおかしいと思いながらも、何かに導かれるように前行った提案よりも踏み込んだ提案をした。
踏み込んだ提案を想像してみてください。