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提案と魔法

書き溜めがぁ……



 キュピリアの笑いのツボが謎事件から数日たった。ちょうどあの叔母がキュピリアの絵を取りに来る日らしく、俺は昨日の夜から『カバー』をかけられたまま、朝になってもその『カバー』を解除されていないままだった。


 ちなみにキュピリアは普段寝る前にだけ俺に『カバー』をかける。そして起きたらすぐに俺にかけた『カバー』を外し挨拶をするのだ。それほどまでに人と(俺の現状を人と言っていいのであれば)話したいのかと思うと、自然と俺も会話しようという気持ちになる。キュピリアの今までの状態がどれほど悪いものだったかを考えると、彼女は両親が死んでから、人と会話する事はなかったのだろうと推測できるので、俺は自然と彼女の気晴らしができるようにと会話するようになったのだ。


 だが、朝に叔母が絵を取りに来るときだけは、俺の『カバー』をすぐに外さない。やはり叔母に見つかるといろいろ面倒くさい。じゃなくて、まずいことになるのだろう。


 いつものようにキュピリアの努力をかすめ取っていく叔母を見ながら、魔法もあるファンタジー世界だし呪いとかないかな……と、叔母をどうにか懲らしめているのを妄想して(叔母に対するストレスの解消法でもある)いると、キュピリアが『カバー』を外してきた。


「ガリョウさん今日は遅くてごめんなさい。おはようございます」

「別にいいぞ、あの叔母が来るのも分かっていたことだ」


 キュピリアは何も悪くないのにこの日になるといつも同じようなやり取りをする。


 もう少し自信を持つことができればいいのにと思う。


「今日から、また少し余裕ができるんですよ。なのでゆっくり出来ます」


 そうキュピリアが言うように、先ほど叔母が作品を持って行ったから、今日から彼女は多少余裕ができる。俺はこういうタイミングでキュピリアにある提案をしようと思っていたのだ。俺は少し気合を入れて声をかけた。


「キュピリア」

「どうしたんですか? ガリョウさん。何かありましたか?」


 キュピリアはまた面白いことを見つけたのかと、小さく笑って返事をした。俺はそんな彼女の負担になるかもしれないと分かって、一つ提案をする。


「少し大変かもしれないが……ドラゴン以外の絵を描いてみないか?」

「えっ?」


 そう、俺の提案とは、キュピリアにドラゴン以外の絵を描いてもらうことだ。


 今まで一枚を描いていて、余裕がやっとできた時に、すぐ別の絵を描けという事になってしまうが、俺はキュピリアがドラゴンしか描かないことに疑問を持っていた。


 あの叔母がキュピリアの亡き両親の絵だと偽らせるためにドラゴンの絵をキュピリアに描かせている。


 そこにキュピリアの意志は存在しない。存在できない(・・・・)


 絵を描くたびにあの叔母を連想してしまいつらい思いをするのではないか?


 キュピリアが本心から描きたい絵というのがあるのではないか?


 そう思って、俺はこの提案をした。


「俺は絵についてはよくわからないが、キュピリアがドラゴンの絵ばかり描いているのは分かる。たまにはほかの題材を描いてみるのも気分転換になるんじゃないか」


 すると、キュピリアはその翡翠色の瞳をわずかに見開いたかと思うと、すぐさま悲しげな表情をして、首を横に小さくふった。


「ごめんなさい……やりたくないです」

「……っ、そうか、大変だもんな。謝らなくてもいいぞ、ただふと思ったってだけの気楽な提案だったんだから」


 そう辛そうに言うキュピリアをフォローしながら、俺は失敗した、という自責の念に駆られていた。やはり、まだキュピリアは絵を描くことだけでも大変なのだ。少し余裕ができたからと言って。新しい絵なんて描けるわけがないのだ。


 そんなキュピリアに別ジャンルとはいえ絵を描くことを勧めるなんて、ただの鬼畜の所業じゃないか。


 俺はこの空気を変えるためにまったく別の提案をしないといけない、そう思った。俺も目の前でキュピリアに泣かれそうになって混乱していたのだろう。


「なあ、じゃあ別の提案だ。俺に魔法を教えてくれよ」

「えっ?」


 だからか、そんな無茶ぶりな提案をした。


 言った後に俺はこう思った。


 しまった、俺はアホか! 壁に書かれた絵が魔法を使えるわけないだろ!!


 と、だが、こんな常識はずれが受けたのか、キュピリアは笑い出した。さっきまで泣きそうだったので泣き笑いのようになって翡翠の瞳をキラキラと輝かせながら言った。


「やっぱり、ガリョウさんって、変です」


 クスクスと笑いながらそう言ったキュピリアに俺はほっとするとともに、その笑顔がたまらなく愛しいと……って俺はロリコンじゃないから! 何を考えているんだ、俺は!


 俺がそのように脳内で悶えていることにも気付かず、キュピリアは俺に魔法を教えるという約束をした。


 見た目は悶えていても何も変わらない絵のままだから気が付かないのは当たり前なのだが。



   ~~~~  ~~~~



 そんなこんなの成り行きで、俺はキュピリアから魔法を教わることになった。幼女教師である。


「いいですか? ガリョウさん。魔法はこの世界の人なら誰もが持っているといわれている『魔力』というエネルギーを消費して扱います。ここまでは以前お話ししましたよね?」

「ああ、その後魔道具と芸術魔法の話をしたんだよな。あと、生活魔法って言うのもあるらしいな」


 俺は今でもなぜ水を出す『ウォータ』が生活魔法ではなく芸術魔法なのか理解ができていないが。


「その通りです! 今回は簡単で使いやすい生活魔法を教えます」


 少し、ドヤ顔を作りながらキュピリアは宣言した。あざもだいぶ引いてきたので、キュピリアの人形のようなきれいな顔がしっかりと目に入り、全力で和んだ。


「よろしく頼むぞ。キュピリア」

「はい」


 そしてキュピリアが教えてくれたのは『ライト』だ。ここを照らしている魔道具のもとにもなっている扱いやすく失敗もほとんどない魔法。六歳くらいの子供でもほとんどの子が使えるようになっているという程なので、その難易度は推して知るべしである。


 地球で例えるなら縄跳びを十回連続で普通に飛ぶくらいの難易度になるのだろうか?


 まあ、そんなに簡単ならどうにかなるだろう。ついでにあの叔母を懲らしめる魔法とか無いかな……など思いながら、俺は魔法を唱えた。


「いくぞ……『ライト』!!」


 しかし、何も起こらなかった! ってなぜ!?


「ガリョウさん、落ち着いてください……落ち着いて、もう一度ゆっくり唱えてみてください。誰でもできますから、力を入れないようにしてください」

「そ、そうだな。ついはしゃいで力みすぎたのか」


 そうだよな、最初から力んでたらうまくいくはずもないよな……深呼吸しよう。


「すーっ、はぁー」

「ガリョウさん、呼吸してるんですか? それはあまり意味がないような……」


 ……俺自身が壁になっていることを忘れてた。呼吸なんてないわ!


「まあ、いいじゃないか。ノリと勢いだ」

「やっぱり面白いですね」


 まあ、話していたら落ち着いた。今度こそ!


「いくぞ……『ライト』!!」


 やはり、何も起こらなかった! Why(なぜ)!?


 そんなふうに思い、半ばやけくそのようになりながら、俺は狂ったように何度も『ライト』を唱えた。


「『ライト』! 『ライト』! 『ライトォ』! 『ライドォ』! 『ライトォ』! 『ライトォォ』!」

「ちょっ!? 落ち着いてください! そんなに何度も挑戦してもできないときはできませんよ!」



  ~~~~  ~~~~



 わかってたよ、一向にできないってことは。というか俺はなんで巻き舌風に言ってたんだ? 一度だけ別の言葉も言ったことに関してはもはや意味が分からない。なんだよ、『ライド』って。


「もお、いきなり上手くいく訳ないじゃないですか。使いやすいといっても魔法の中で、ですよ?」

「そうだな……すまない、見苦しいところを見せたな」

「いえ、普段のガリョウさんにはない取り乱しようで……なんだか可愛かったです」


 元男子高生に可愛いは誉め言葉になるのだろうか? というか、そもそも壁に書かれたドラゴンがかわいいってどういうことなのか、まあいいか。


「でも変ですね……」

「何が変だったんだ! 教えてくれ、キュピリア」


 その変なところを直せたら魔法が使えるはずだ! そう思う、そう思おう!


「いえ、ガリョウさんが失敗するのは予想通りだったんです。ですが、その失敗の仕方がちょっと……」

「……失敗する前提だったのか?」

「はい。それも含めて説明しますね……」


 そうして、キュピリアが教えてくれたのは、魔法を使うための手順だ。まず、自分の体内にある『魔力』を発動の起点……多くの場合は手のひらに集める事、そうして、その集めた『魔力』を使用すると意識をする事、意識を向けて呪文を唱えると、意識を向けた『魔力』が消費されて『魔法』になる……らしい。


 ただし、生活魔法は体にある『魔力』が勝手に反応するのですぐに使えるらしい。


 最初からこの事を教えずに『ライト』を唱えさせたのは、そうすることで自分の体を流れている魔力が光り、体のどの部分に魔力が固まっているのかを視覚的にとらえやすくなるからだそうだ。『魔力』の存在が見えると一か所に集めることも、意識することも簡単にでき、魔法を習い始めた時はまず『ライト』を唱えて自分の魔力を確認するのが魔法を使えるようになる近道なんだそうな。


「なるほど、だから俺はうまくいかなかったわけだ」


 体を流れる魔力とかまったく意識できないからなぁ……


「そうなんですけど、おかしい所がほかにもあるんです。どんなに下手な人でも体を光らせるくらいはできます」


 そうだよな、それが入門というより前提だからな。


「でも、ガリョウさんは全く光っていませんでした。どんなに『魔力』が少ない人でも『ライト』で光らないという事はあり得ないんです。意識して使わないようにするならばともかく、意識しなければ、そこに『魔力』があると反応するのですから」


 いちいち『ライト』を使うたびに体が光ってたらうっとおしいからな……多少は制御できるようになるわけだ。ただし、入門として使う場合はほぼ確実に体が光ってしまうわけだ。


 で、キュピリアがおかしいと思ったのは、俺が全く光らなかったことに関してらしい。


「ここでつまづくことなんて無いのでどうすればいいのか分かりません……」

「ああ、キュピリアは気にすること無いぞ。そもそも絵が魔法を使うという事に無理があったんだ」


 キュピリアにそう言いながらも俺は考えていた。なぜ魔法が使えないのか。使えたら今後利用できる場面もあるだろうに……と。


次回更新は土曜日になります。

書き溜めが予約中にでたためです(一話分で余裕はない)

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