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世界を教え、魔法を知る

ここまでが一話投稿時にできていた部分です。いわゆる書き溜めですね。

予約投稿でここまでは早いペースで投稿できました。

これからはきっとゆっくり更新になります。


 俺がなぜか壁に書かれたドラゴンに転生して、数日が過ぎた。俺が初めて見たキュピリアが書き上げた絵はその翌日、キュピリアの叔母が持って行った。その時にあんなにカッコいい絵を何も言わずに当たり前のように持って行っていたことに俺はやはりイラっと来た。どうやら、こんなふうに描いた絵を持っていかれるのは七日に一度らしく、これからまた新しい絵を描かないといけないけど、少しはお話ができると、キュピリアは作り物めいた表情で、笑って言っていた。


 俺はそんなキュピリアの様子を見て、気になることを尋ねるよりも、まずキュピリアの気晴らしを優先させようと考えた。こんな少女がふらふらになっているのに、自分のことを優先させる気にはならなかったのだ。


 ……俺はこの世界のことをよく知らないので話題は自然とこの世界のことや、キュピリアの生活のことになってしまうのだが。


 だから、キュピリアの心情を優先させている中でのやり取りを通してでも分かったことがある。


 まずは世界について、ファンタジーの定番というかなんというか、ここは少なくとも地球ではなく、まったく別の世界であり、水道とかの科学的なものの代替として魔法が発達している世界のようだ。この世界における魔法とはそれぞれの人が一般的に持っている魔力というエネルギーを消費して行う現象らしい。


 そして、やはりこれも定番の魔法についてだが、魔法は一部のものしか使えないような秘術的なものではなく、一般人にも広く普及しているもののようだ。この部屋に水道がないのに水性の絵の具のようなものがあったのは画家自身が水を作れるからだったのだ。


 なぜか地球にあった電球と同じ機能をするもの(この部屋を今も照らしている)は、魔力と魔法が込められた道具……魔道具によって代替されているのは不思議だが。


「それは加減ができないからだそうです」

「どういうことだ?」

「ええと……光を出す魔道具は同じような明るさで照らすようになってて、そこに魔力の消費の差はあまり無いんです」

「それで、水を作り出す魔法はどう違うんだ? 水を出すときには加減ができないような言い方だが」


 まさか、水を出す魔道具は使うとその場を一気に水浸しにしてしまうような量の水が出るのか? それだと水を作る魔道具がただの武器のようになるが。


「えっと……水を出すときは魔力の消費を大きくして『いい水』を作れます。というか加減をしないとその人が持っている魔力のほとんどを使って作り出せる一番いい水を作ろうとします」

「なるほど。水を作り出す魔道具を作っても、常に最高の水を出す代わりに効率が悪くなるか、効率をよくしようとすればそれを使う人に合わせた一点ものになってしまうということか。そりゃあ作られることはないな」


 なるほど、『量』の加減ができないのではなく、『質』の加減ができないのか。そして、開発をしようとすると魔力的なコスパが悪くろくに使えないものか、金銭的なコスパが悪く応用範囲が狭いものか、のどちらかしか作れないという訳か。


 とまあ、こんなふうにして、キュピリアが絵を描くときの息抜きになれるように魔法の話をしたりして日々を過ごしている。


 こんな中で、先日聞き逃していた不思議現象についても聞くことができた。


「あの魔法は『カバー』と言って芸術魔法って言われている魔法です」

「芸術魔法? そのまんまのネーミングだとするなら芸術品のための魔法って言ったところか?」

「ガリョウさん鋭いですね。そうなんですよ! だから当然私も使えるのです!」


 少し自慢げに胸を張っていうキュピリアだったが、俺はなんでそんなに自慢げかわからなかったので聞いてみたところ、芸術魔法を使えるというのは芸術分野での一人前のための前提条件の一つらしい。自分が一人前だ! という意味で自慢げだったみたいだ。


 なお、芸術魔法には芸術品の保護をする『カバー』や仕上げのための『ブラッシュ』というものもある。……なぜか先ほどの話題に出た水を作る『ウォータ』も芸術魔法として扱われることがあるというのが正直謎だったが、キュピリアもよくわかっていないみたいなので詳しくは突っ込まなかった。


 それで一人前なのかというようなことも言ってはいけないと思った。キュピリアは一人前にならざるを得なかったのだから。


 実際、キュピリアは芸術魔法の上位互換もいくつか知っていた。魔力が足りなくて使えないらしいが。その例は『カバー』の上位互換の『ハードカバー』や『ポイントカバー』、『ブラッシュ』の上位互換の『ブラッシュアップ』などだ。また、余談だが、最初に俺にかかっていたものは解除できる人を指定できる『ポイントカバー』の上位互換である『ハードポイントカバー』である。……キュピリア曰く『カバー』はそんなに長い期間保護できるわけではないそうだ。彼女の両親が亡くなってからしばらく経つが俺はあまり劣化しておらず、かつ、『カバー』しかまだ使えないキュピリアでも解けた、という事から『ハードポイントカバー』ではないかというキュピリアの推測だが。


 この推測があっていたとすれば、やはり俺が彼女の両親の遺作という事で間違いないだろう。なんてことを俺は思ったがしょせんは推測、決定打にならないことは分かっているのでキュピリアには言わなかった。


 ちなみに、『ウォータ』に上位互換はなく、うまく使えるとそれだけ『いい水』を得ることができるというくらいらしい。本当になんで生活魔法の方に分類がされていないのか不思議に思う魔法である。


 ちなみに、生活魔法とは、生活で使用する魔法であり、すべて魔力的なコスパがいいらしい。どちらかというと『ウォータ』は生活魔法の分類になるのではないか。なぜ芸術魔法なのか本当に謎である。


  ~~~~  ~~~~



 当然だが、俺はいつも質問しているわけではない。ここが俺が元いた世界と違う世界だということが分かってからは、キュピリアに元の世界にあったいわゆるシンデレラストーリーというものを聞かせている。こんな環境でもちゃんと明るく暮らそうとしているキュピリアにぴったりだと思ったからだ。


「こうして今まで辛かった分も彼女は幸せになったのでした。とここまでだな」

「いい話ですね……王子様かぁ」


 今回話していたものは、継母にいじめられていたヒロインがヒーローである王子様によって救われるという話である。地球ではよくある話だが、ここの世界では珍しいらしく、キュピリアは食い入るように聞いていた。楽しんでもらえたようで何よりだ。


「頑張っていればいつか救われるってことだな……キュピリアだって頑張っている、いつか救われるさ」

「……? 私はもう救われましたよ?」

「えっ?」


 予想していなかったキュピリアの発言にキョトンとした声で返事をしてしまった。思わずキュピリアのほうを見るとキュピリアは自分の言ったことに何の疑問も持っていないようだった。


 どういうことだ? 俺は話し相手になってはいるが、それだけだ。キュピリアの周囲の環境は何も変わっていないはずだが……と、俺は混乱した。そんな俺の内心を読んだかのようにキュピリアはその理由を告げるため、小さく口を動かす。


「だって、ガリョウさんが来てくれたじゃないですか。ガリョウさんは私の絵をほめてくれました。それに、いつも話し相手になってくれます。少し世間知らずなところも面白いですし……私はガリョウさんに救われてますよ。きっと、ガリョウさんが両親の遺作だからこんなにも優しいんだって、私はそんなふうに思ってます」


 最後の方には俺の方をしっかりと見てキュピリアはそう告げた。その時のキュピリアは本当にうれしそうな顔をしていた。翡翠の瞳がしっかりと俺を見つめてきて、俺は目をそらしたくなった。


 ……絵だからそらすことはできないが。



 俺は彼女の両親とは何の関係もないどころか、この世界の人間でもないのに、キュピリアはそんな俺を信頼してしまっている。だが、本来この『キュピリア()両親の遺作』にはこの世界のことをよく知る、別の何者かが宿るはずだったのではないか? そいつなら、キュピリアの状況をもっと早く改善できたのではないか? そんなことを思うと、キュピリアに申し訳ないという気持ちが日に日に募っていく。


 俺は本当に何もできていない。キュピリアの気晴らしを手伝ってはいるが、彼女が叔母から搾取されているという状況を根本的に変えることはできていないのだ。


 今キュピリアの言っていた『俺が優しかったこと』は当たり前に存在するべきものであり、存在していなければならないものだ。少なくとも俺はそう思う。


 だから俺は、キュピリアにもっと幸せを望んでもらいたいと思う。


「キュピリア。俺は、王子なんかじゃないよ。俺じゃあ不完全だ。もっと、もっと、この世界にはキュピリアを見て評価してくれる人がいるはずだ。正しく評価してくれる人や、正確なアドバイスができる人もいるだろう。だから……」


 無意識にこの状況から救われるという可能性をゼロにしないでくれ。


 最後の言葉はキュピリアに対してのお願いになってしまう。彼女の重荷になってしまうことを考え、俺は何も言えなかった。


 だが、少なくともキュピリアの意識を外に向けることができただろうか……俺はそう思い、キュピリアの様子を見た。


「……本当にそんな人いるんですか?」


 返ってきたのは、そんなキュピリアの質問、不安げに揺れる彼女の瞳を見て、俺は自然と言葉を発していた。


「ああ、いる! きっとさっきの話のように、いざって時にキュピリアを助けてくれる、そんな奴が絶対にいる。これが信じれないならそんな奴を俺が連れてきてやるよ」


 少しでもキュピリアの不安が安らぐように俺は少し……いや、かなり見栄を張ってそういった。だが、もちろん見栄だけではない、俺の現状出来る最適な行動はキュピリアをリラックスさせることだ。だから、


「……まあ、壁から離れれない奴が何を言ってるのかってかんじだけどな」


 と、そういったら、キュピリアは何かがツボにはまったのか、


「フフッ……ガリョウさんって、やっぱり少し変……」


 と、笑った。その笑顔はつらいことや悲しいことを覆い隠すような作り物めいたものではなく。血の通った自然にできた笑顔だった。


 それからキュピリアはその肩を震わせ小さく笑い続けていた。


 できればこういうときだけは、絵を描かなければいけないという事や、あの叔母のことを忘れてほしいと俺は思うのだった。

魔法とシンデレラストーリーでした。


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